それぞれの『危機』?
突如として浮かび上がった満月が照らす中央要塞。
その中央回廊の綺麗に磨かれた石畳に、4つの足音が響いていた。
―――そして、足音とは関係無い音も。
すりすりすりすり
「………ぜえ、ぜえ」
むにむにむにむに
「……………(真っ赤)」
ぐにぐにぐにぐに
「……なあ悪魔のねーちゃんよお……」
「もう、『悪魔のねーちゃん』なんて他人行儀な呼び方しないでよぉ
カ・レ・ラ・ちゃん って教えたでしょ?(すりすりすり)」
山本悪司の腕にその巨乳を押し付けつつ、カレラは甘えた声で言った。
その背後を息を切らしつつ歩く大空寺あゆが怒声をあげる。
「うが〜〜〜っ! カレラでもカブレラでもいいさ! 問題はッ!
何でアンタが捕まえてきた娘をアタシが背負ってるのかって事さ!」
先程までカレラが抱えていた少女、ライセンは彼女の背中で寝息を立てていた。
しかし意識を失っていながらもその顔は紅潮し、体は熱を帯びている。
「酷いわねェ……命の恩人を捕まえてそれは無いんじゃない?
あの時見逃してあげたんだから、そのくらいして当然よ。
……それに、今は仲間同志なんだからお互い助け合わないと♪
悪司だってそう思うでしょ?(すりすり)」
あゆの抗議をあっさりと流し、カレラは更に悪司に体全体を擦り付ける。
「(今はこのカモネギ逃す訳にはいかないしね)」
実際、悪司の肌に触れる事でカレラは自分の推測に確信を強めていた。
交わっている訳でもないのに、悪司の体からはこれでもかと言わんばかりの生命力が
滲み出ている。
「(こんなのとガンガンヤっちゃったら……ふふっ♪)」
想像するだけで体が疼く。
と、その時あゆの隣を歩く少女が口を開いた。
「あ、あの……私達は、どちらに向ってるんですか?」
流石にここまで露骨なアプローチを見るのは初めてなのだろう。ライセンとは別の意味で
顔を赤らめつつ、七瀬凛々子が尋ねる。
「ん?」
そちらにカレラの意識が行った瞬間、つい、と悪司がカレラの腕から抜け出した。
「あん、悪司ぃ……」
「ちっとおあずけだ、カレラ。歩きにくくってしょうがねえや」
これが純情な少年などであれば(様々な所が)固くなっている所であるが、悪司の様子には
平時と何ら変わる所は無い。
「で、俺達をどこへ案内するってんだ?」
「えっとね、一応この城で一番偉い人っていうのがヴィルヘルムって魔法使いなんだけど、
用心してんのかあんまり人前に出てこないのよ。
そんで、現場担当って言うか……彼の代行で全体の指揮を採ってるのがケルヴァンって
将軍様なの。まあ、悪司達はあの結界を通過できたんだから問題無いとは思うけど……
とりあえず報告しないと色々うるさいのよね〜」
「他にも仲間ってのは結構いるのかい?」
「まあね。渋くてカッコいいんだけど堅物のギーラッハのおじさまとか、可愛い和樹君とか、
骨とか、馬とか、メイドの女の子とか」
「骨?」
「実物を見れば分かるわ。あ、悪司と似た感じの仲間もいるよ。ランスって……」
「!?」
瞬間、悪司の表情が強張った。同時に体から殺気が滲み出る。
その違和感にけげんな顔をするカレラ。
「悪司……?」
「わっ……とっとっ!?」
刹那、あゆはわざとバランスを崩して悪司の上着の裾を掴んだ。
「なっ!?……お、おいおい大丈夫かよ?」
「だ、大丈夫さ」
出掛かっていた殺気を何とか収め、悪司はあゆを助け起こした。
悪司とあゆの視線が一瞬だけ交錯し、お互いの意志を送り合う。
「(アンタこそ何やってるさ! 殺気を出すなや、ボケ!)」
「(分かってるって、もうしねえよ)」
再びカレラに向き直り、歩きながら話す。
「悪い、俺と似た奴ってんで驚いちまった」
「ううん、別に外見が似てるってワケじゃないんだけど、雰囲気がちょっとね。
今はまだ出掛けてるみたいだけど、帰って来たら会ってみればいいんじゃない?
気が合うかも」
「そうだな……早く会いたいもんだ」
表面上は楽しみのような顔をしつつ、悪司は答えた。
やがて、一行は豪奢な鉄扉の前に着いた。
「(ゴンゴン)ケルヴァン〜! 外から協力したいって人が来たけどー!?」
…………。
「……本当にここなの?」
「そうなんだけど……変ね?」
小首をかしげるカレラ。
「入るわよ〜……」
小さくいいつつ扉を押し開ける。
「あれ?」
果たして執務室には誰もいなかった。
ケルヴァン用の大机を見るとペンと紙束(ご丁寧に今時羊皮紙)が置かれており、その横には、
『現在、所用により外出中。用件のある者は名前と用件内容を記入し置かれたし
ケルヴァン・ソリード 』
という小さな札が立っている。
「留守……みたいですね」
「将軍ってワリには無責任なヤツだわね」
「おかしいわね〜、今までこんなの無かったんだけど……書いとく?」
「いや、帰って来たらどのみち直接会うんだし、その時でいいや」
カレラの問いに、悪司は手を振って答えた。
実際、悪司達にとってこれは都合のいい展開であった。
管理者に目をかけられる以前ならば、より自由に動けるからである。
と、机の傍にいたカレラがぴょんと悪司の傍らに戻ってきた。再び太い腕にその体を絡ませ、
甘えた声で悪司に言う。
「ねえ悪司、それじゃそれまでアタシの部屋……ね」
「ちょ、ちょっと待つさ! アタシ等とこの子はどうなるさ!?」
慌ててあゆが抗議する。しかし、それにはカレラはあっさりと答えた。
「ああ、ここを出て右に行ってすぐの横道の突き当たりがケルヴァンのお抱えメイドの
控え室なの。そこのベッドに置いてきてくれる? その後は……ここに来る途中に
あった左に入る横道があったでしょ? あの辺が招待者用の個室になってるから、
空き室を適当に選んで名札を書いてくれれば勝手に入ってくれてていいわ」
「……って事らしいぜ? 俺はちょっくらこいつと一緒に行ってくるわ」
悪司もそれに続いて言う。
あゆはしばらく不機嫌そうに悪司の顔を見ていたが、舌打ちを一つすると二人に背を向けた。
「チッ……好きにするさ! 凛々子、行くわよ」
「えっ? あっ、はい!」
多少戸惑いながらも凛々子がそれに続く。
あとには、悪司とカレラのみ残された。
「さて、それじゃアタシの部屋へご招待……ってね」
「先に言っておくけどよお、カレラ……俺はそう簡単には食えねえぜ?」
不敵に笑う悪司。カレラはそれに同じ位の不敵さを込めた笑みを返す。
「まだ若い子牛も悪くないけど……食べ応えがあるのが好きなの、アタシ」
そのまま顔を近づけ、唇を重ねる。
舌はカレラの方から入れてきた。負けじと悪司も舌を尖らせ、攻めてくるカレラの舌を迎撃する。
たっぷり一分近くそうしていただろうか。
先に唇を離したのも、やはりカレラだった。
「……これは味見」
「メインディッシュはこんなモンじゃねえぜ?」
口内の交じり合った唾液を飲み込みつつ、悪司は心の中で呟いた。
「(吐き出してもらうぜ、お前の知ってるモン全てをな……)」
「……あれで良かったんですか?」
部屋を出てから、凛々子は小声で言った。
「……あそこで文句言っても、アイツはアタシ等を追い出したさ」
悪司の持つ恋人の仇への執念は、最初に会った時の彼の姿からあゆはこれ以上無い程知っていた。
おそらくさっきの歩きながらの会話の時でも、あの男はあゆが止めなければその場でどんな
手段を使ってでもランスの事を知ろうとしていただろう。
幸い、どういう訳かは分からないがカレラは悪司に好意を持っている。
それならばあの場は悪司に任せる事が、最良の選択とあゆにも思われたのである。
「さてと、そんじゃアタシはこの子を置いてから行くさ。リンリン、アンタは先に適当な
部屋選んで休んどいて」
「リンリン?」
「凛々子って微妙に呼びにくいさ。だからリンリン」
「は、はぁ……でも、大丈夫ですか?」
「大丈夫さ、この子見た目通り軽いし、すぐ戻るから」
「……分かりました。それじゃ、先に行ってますね」
「頼んだわよ」
小走りに去って行く凛々子を確認すると、あゆも控え室に向って歩き出した。
「……にしてもこの子、風邪でも引いてんのかしらね……?」
ライセン―――あゆは名前すら教えられずに押し付けられたのだが―――の体温は更に
上がっているようだった。後頭部や耳に吹きかかる吐息も熱っぽく、どことなくあゆに
むず痒さを感じさせる。
控え室は、それ程離れた距離には無かった。先程の扉とは対照的な簡素な木製の扉が二人を迎える。
鍵はかかっていなかった。
「誰かいる? 人預かって……」
そして、人もいなかった。
大き目のベッド、箪笥、机、椅子、ティーポット……整然と整えられたインテリアだけである。
「ったく、主人も主人ならメイドもメイドだわね」
まさかかつてこの部屋にいたメイドが既に死んでいるとは思わず、あゆは呟いた。
「とりあえず、寝かせないとね……」
家具に背中のライセンがぶつからないよう気を使いつつ、あゆはベッドに近づいた。
背中をベッドに向け、ゆっくりとライセンを降ろす。
「ン……」
その時、ライセンの眼が微かに開いた。
「大丈夫?」
あゆは声をかけつつライセンの姿勢を横に直す。
「アタシは大空寺あゆ、アンタは?」
「……………」
ライセンは答えない。
ただ、熱く潤んだ瞳であゆの方をじっと見ているだけである。
「……あー」
何となく反応に困り、あゆは額に手を当てて次の言葉を捜す。だが、
「!?」
一瞬の出来事であった。
覚醒したばかりのライセンは信じられない速度であゆの利き手を取ってベッドに引っ張り、
同時に自分の体をするりと回転させ彼女を組み伏せたのである。
「な……ムグッ!?」
驚きの声を上げようとしたあゆの唇を、ライセンの熱し切った唇が塞ぐ。
それは『接吻』と言うより『貪る』と言った方がふさわしい口付けであった。
愛情ではなく、相手の快感を引き出すでもない、ただ己の欲望を満たそうとする動き。
その左手はあゆの右腕の付け根を抑え彼女の反抗を不可能にしており、右手は自分の
スカートの中に潜り込み、服の上からでも分かる程に激しく動いている。
「……ッ!」
あまりの事に混乱で動きが止まっていたあゆであったが、その頭を激しく動かしてライセンの唇から逃れる。
「アッ、アンタ何する……ッ!」
だが、その怒鳴り声も再び途中で止まる。
先程まで自らの秘所を弄っていたライセンの右手があゆの胸に伸び、彼女の着るシャツを
一気に引く。
一列に並んだボタンは一瞬の抵抗の後に弾け飛び、あゆの小振りな乳房と白いブラが露となった。
「(なんて力……!)」
相変わらず右腕に置かれたライセンの左手はぴくりとも動かない。
「(じょ、冗談じゃないさ!)うが〜〜〜ッ!」
更に力を込めるあゆ。だが、やはり彼女の左手は動かない。
「………」
その時、あゆはライセンの口が先程からしきりに何かを呟いている事に気がついた。
「(……ゴメン、ナサイ……?)」
彼女は、そう言い続けていた。
股間をあゆの腿に擦り付け、蕩け切った表情であゆの胸を舐めまわしつつ、
彼女は、謝罪していた。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」
唾液まみれの乳房に、熱を持った液体が一粒落ちる。
もう一粒、もう一粒、もう一粒……その瞳から流れ続ける。
彼女は泣きながら、謝罪の言葉を口にし続けながら、
彼女は、あゆを犯していた。
一方、凛々子は
「……どうしよう」
―――迷っていた。
「やっぱり扉が無いからって、さっきの横道に入ったのが失敗だったかなぁ……?」
どうやらこの辺は要塞の中でも『外れ』に当る辺りのようであった。
「誰かいればいいんだけど……」
不安そうに周囲を見まわしつつ、とりあえず先へ進む。
「え……?」
少し先の部屋から、声が聞こえた。
おそらくは談笑しているのであろう、女性の声。
「良かった……」
凛々子は安堵のため息をつくと、その部屋に近づこうと一足踏み出した。
……………。
ふと、部屋からの談笑が止んだ。
「?」
同時に部屋の扉がゆっくりと開き、一人の少女が姿を表す。
「(……子供!?)」
「……奏子さんに何が御用ですか?」
尖った耳を持つ『凶』の少女、アリアが警戒を込めた目で凛々子を見つめていた。
【山本悪司 @大悪司 (アリスソフト) 招 ○(ほぼ回復) なし
行動目的:ランス(名前、顔は知らない)を追う・本拠の捜査】
【カレラ@VIPER-V6・GTR(ソニア) 鬼?招?(その場の気分次第) 状態○ 所持品:媚薬(残り1回分)】
【大空寺あゆ@君が望む永遠(age) 招 状態:○ 装備:スチール製盆 行動目的:敵本拠の捜査】
【ライセン@ママトト(アリスソフト) 狩 状態△(媚薬により発情中) 所持品:なし】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り)
所持品:グレイブ 行動目的:敵本拠の捜査】
【凶アリア@デアボリカ(アリスソフト) ? 状態○ 所持品:トンファー 行動方針 奏子の護衛】
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