再会と策動と
時は再び放送後へと移る。
村落の合間を黒い影が走り抜ける。
その影、銀髪黒衣の少女は名をモーラと言った。
(さっきの金髪の娘、確かこっちの方へ逃げていた筈だけど……?)
彼女は急いでいた。理由は他でもない、先刻の放送である。
今までの単純な『狩猟』とは異なる『懐柔』。
これにより、少なからずこの島における勢力図は変わりつつあった。
故に、モーラは今まで以上に迅速に行動する必要があったのである。
その目的は―――
『……おらぁ!』
「……!?」
一軒の家から声が聞こえてきたのは、その時であった。
彼女が彼と遭遇して初めて取った行動は、股間への突き蹴りだった。
「おらぁ!」
「ッ!?」
かろうじて局部への直撃を避け、腿でその蹴りを受け止める男。
「……随分な挨拶じゃねえか、大空寺」
「人をほっぽらかしといて何言っとんじゃ、ぼけぇ!
こっちとら危うく貞操と命一辺に無くす所だったさ!」
大空寺あゆは、そう怒鳴りつつ更に蹴りの連打を打ち込む。
「そうっ、言う、なってっ、俺だって、色々あったんだから、よっ!」
その蹴りをあしらいつつ山本悪司は答えた。
「「「……………」」」
その光景を、悪司の後ろに座る三人―――鴉丸羅喉、鴉丸雪、七瀬凛々子―――は半ば呆然と見つめている。
「……だあっ!」
やがて、あゆは息が切れたのか蹴りを止めると畳の上に座り込んだ。
「ぜー……ぜー……ぜー……ね、猫の……うんこ、踏めえ……ぜー……ぜー……」
だが、まだ怒りが収まらないのか激しい息切れの合間にも罵詈を含める事を忘れない。
「悪司……その娘は?」
ようやく羅喉が問いかける。
「あー、まあ、何だ」
「……こ、このアホの監視役さ」
言葉を捜す悪司より先に、あゆが答えた。
5分後。
「(コポポポ)……どうぞ」
「ありがと……(ゴクッ)……全く、何考えてるさアホッ!
彼女の死体埋めるってんで離れて待ってたらそのままどっか行くわ、
空飛ぶ角生えた怪力の痴女は現れるわ、変な放送は流れるわ!
んで人が命からがら逃げて、ぶっ壊れた家からの足跡追ってアンタの声が聞こえた
と思ったら何こんなトコでねーちゃん二人はべらせてグダグダやってるさ!?」
雪から差し出されたお茶を飲んで口を湿らせると、あゆは一息で怒鳴りつけた。
「はべ……」
リップが軽く赤面する。
「だーから、俺も大変だったんだって。変な侍ねーちゃんズに襲われてよぉ」
笑いながらの返事。反省の色は全く無い。
「うが〜〜っ! ちっとは反省せいやぼけぇ!……(むにゅっ)ひゃっ!?
ひゃひふふんひゃ、ふぁほぉっ!」
更に文句を続けようとするあゆの頬を、突然悪司はつまんだ。
「ま、こうやって生きて会えたんだからその事はここまでにしようぜ。
……考える事は一杯あるんだからよ(ぱっちん)」
「痛―――ッ!いっぺん死ねや、こんちくしょうが!」
「……大空寺……だったか?もう少し言葉使いは丁寧な方が良いと思うぞ」
「大きなお世話さ! ……フン、ま、このくらいにしとくさ。
改めて自己紹介させてもらうさ、アタシは大空寺あゆ。コイツの復讐を見届けて、
そんでこの島を脱出するのが目的さ」
「(何だか凄いペースの人が来ちゃったなぁ……)」
リップは内心そう思いつつも頭を下げた。
「よっし、そんじゃもう一回考えるか……議題は『これからどうする?』だ」
悪司は膝をぱちりと打つと身を乗り出した。
それに応じるように、その場の空気が変わる。
「……選択肢は大きく分けて二つ。首謀者の傘下に加わるか、徹底抗戦か……だな」
羅喉が目を閉じたまま言った。
「前者は論外さ!」
すかさずあゆが拳を畳に打ちつける。
「大体、たった今までアタシ等を殺そうとしてた連中の言う事なんざ信用できないさ。
……アタシは独りでも戦うさ」
「私も……傘下に加わるのは反対です」
続けてリップが言う。
「なるほどね……羅喉、お前は?」
「リップがいなければ、雪は死んでいた……許す訳にはいかん」
「了解だ。雪は……聞くまでもねぇか」
「お兄様がそう言われるのならば、私も共に」
迷いを感じさせない返答。
「んだよ、全員殺る気かよ……これじゃ反対はできねぇなぁ」
悪司は頭を掻きつつ言った。
「よく言うさ。最初から独りでも戦う気だったんだろが」
「まあな」
悪戯っぽい笑み。だが、それもすぐに真顔に戻る。
「しっかし……問題はどうやって反抗するかだよなあ……」
「そんなの決まってるさ、相手の本拠は分かってるんだから正面から……」
「……は無理だな」
「あんですと?」
首を向けるあゆに羅喉は一息ついて続ける。
「放送を良く聞いていなかったのか?敵の本拠に当たる建物には結界が貼られている。
おそらく、その結界がある限り外部からの破壊は不可能だろう」
「だ、だったら中に潜入すればいいさ! 味方のふりすれば簡単……」
「それも無理だ」
「あ、あんですと〜?」
「……だから聞いていなかったのか? 確かに奴等の味方は普通に入る事ができる。
しかし、その際には―――本当かどうかは分からぬが―――その人物が敵意を
持っているかどうかを見抜かれるらしい。
口先で寝返ると言った所で誤魔化せるものではない」
「魔法ねえ……ウチの組にも魔法使いってのが何人かいたからウソとも思えねえが……」
悪司はそう呟きつつ目線を上に向けた。
そのままごろりと仰向けに寝転がる。
その姿勢のまま、悪司は静かに言った。
「……『あんた』はどう思うんだ?」
「ッ!?」
その時、初めて三人の少女は悪司の視線の先に立つ人物に気がついた。
巨大なスレッジ・ハンマーを片手に立つ、黒衣の童女。
「だ、誰ですか!?」
「落ち着け、リップ」
動揺し立ち上がろうとするリップを羅喉が制す。
「こやつは敵では無いようだ。少なくとも……今は」
「……そう思う?」
何故か挑発的に答える童女。
「ああ」
それに答えたのは悪司だった。
「そりゃ分かるさ、こんだけ隙見せてやってて殺気を出さねえんだからな」「光栄ね」
「ま、上がりな。雪! お茶もう一杯煎れてやってくれ」
「薄目でお願いするわ。ニホンのお茶の苦味、あんまり慣れてないの」
「……だってよ。さて、そんじゃお茶が来たら聴かせてもらうぜ。
アンタはこん中じゃ一番色々知ってそうだからな」
「……ええ」
モーラと名乗る童女の語った内容は決して量こそ多くは無かったが、判断材料としては十二分であった。
顎に手を当て、考え込む悪司。
「四つの結界塔……」
「ええ、私が戦った娘はそう言っていたわ」
「で、その結界塔ってのの場所は?」
「それは聞く余裕は無かったわ。でも、おそらく東西南北の四方に存在しているはずよ」
「それを潰せば……でもちょっと待てよ、俺が元子を埋めた辺りからこの島一帯は
見渡せたが、そんな塔無かったぜ?」
「別の手段で隠れているのかもしれないわね」
「……雲を掴むみてえな話だな」
「そう。だから……もっと正確な情報を知る必要がある」
横からあゆが口を挟む。
「情報収集って、誰か敵でもとっ捕まえんの?」
その質問に、モーラは無表情に答えた。
「いいえ、潜入するの……中央に」
「あんですと!? あんた、さっきの放送良く聴いて……」
「……何か策があるというのだな?」
「カラス兄! 何でアタシの時と全く反応が違うさ!?」
「カラス兄……」
「あゆ、少し口閉じてな……で、どうすんだ?分かってると思うが、力技じゃあの中には入れないぜ」
「ええ、だから……貴方達に一度、本当に敵になってもらうわ」
「な!?」
絶句するあゆ。しかし、悪司は面白そうに微笑んでいる。
「……なるほどな」
「……リスクの高い話だ」
羅喉もモーラの言わんとする所が分かったらしい。
対して、あゆは頭に疑問符を浮かべたまま不機嫌そうにモーラを見つめている。
「だから、どういう事さ?」
「ええ、つまり……」
「……催眠術?」
「記憶操作と言った方が近いかもしれないけど……つまり、貴方達の今持っている敵意を一時的に
意識から完全に消して結界に入るの。相手の敵意感知の術が具体的にどんな物か分からないから
断言はできないけど、対象の感情や思考を調べるものであれば問題無いと思うわ」
「できんの、そんな事?」
「経験はあるわ」
「そんで、結界塔やら建物の構造やらの情報を手に入れてから外に出て、
結界塔を改めて破壊してから結界が消えた中央を総攻撃……ってワケか」
「そう」
「その敵意感知ってのが、催眠とかまで見抜くタイプだったらどうなるさ?」
「その時点で失敗、敵が来る前に撤退するしか無いわね」
「中で敵だってバレたら、どうなるんですか?」
「そこで終わりね」
「中から出る事ができなくなったら?」
「その時も終わり」
「成功確率は?」
「二割以下」
「二割……」
「……」
「……酷い話さ」
「フン……」
「ま、大甘でその位だろうな」
眉一つ動かさず語るモーラ。
うつむく雪。
息を呑み、拳を握り締めるリップ。
不機嫌そうに天井を見るあゆ。
目を閉じ、腕を組んだままの羅喉。
そして、全く平時と変わらない雰囲気で頭をポリポリ掻く悪司。
「……その話、乗ったぜ」
【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○(ほぼ回復) 所持品:なし 行動目的:雪を護りぬく】
【鴉丸雪@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 招 状態○ 所持品:なし 行動目的:兄についていく】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り) 所持品:グレイブ】
【山本悪司 大悪司 アリスソフト ○(ほぼ回復) なし 招 ランス(名前、顔は知らない)を追う】
【大空寺あゆ@君が望む永遠(招)状態:○ 装備:スチール製盆】
【モーラ@ヴェドゴニア(招)状態:○(腹部ダメージは完全に再生) 装備:巨大ハンマー】
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