死神と亡霊が出会う瞬間






放送前 ケルヴァンと尊人達の行動

「ここでしばらく待っていてもらいたい。粗末な場所で悪いとは思うが、疲れた身体を休ませる事くらいならば可能だろう」
 ケルヴァンが尊人達を案内した先は、森の中にひっそりと佇む、質素の造りの建物だった。
「ここは中央から島内へ、或いは、島内から中央に向かう者達が、時折立ち寄って身体を休める為に、立ち寄る場所だ、おい、そこの!」
 ケルヴァンはその建物の前に立つ鎧を着込んだ警備兵に声を掛ける。
「……! ハッ、何か!」
 警備兵は敬礼しながらケルヴァンの声に答える。
「この者達は私が向かい入れた客人だ。部屋に案内しろ。丁重にもてなせよ?」
「ハ、了解しました。では、こちらへ……」
 尊人達は警備兵に連れられ、建物の中へと入っていく。
 その姿が消え、ケルヴァン一人となったその場所で、彼は一人ほくそ笑む。
「これで、不確定要素とはいえ、力となり得そうな存在を、奴に気がつかれずに、一つ、手に入れる

事が出来たか……。さあ、他にも力となりそうなものを探しに行くとしようか……、ふふふ……」
 ケルヴァンは、そう呟くと同時に、その姿も闇の中へと消えていった。

  放送後 ケルヴァンに導かれた部屋の中で

「ねぇ皆、さっきの放送をどう思う?」
 尊人が、与えられた部屋の中で、その場にいる者達の顔を見つめながら問う。
「あのハイテンションな人が何か色々言ってた奴?」
「うん」
 尊人が純夏の言葉に頷く。
「私はあのような行為、判らぬでもない。己が信念を貫く為に、出来うる限りの事をする、私もそう

してタケルの元へやってきたのだからな」
 冥夜の顔には苦笑が浮かび、そこで言葉が途切れる。
 しかし、すぐにその表情は真剣なものへと変わる。
「だが、その信念が他者の命を奪うものとなると話は別だ。あの放送を行った人物は、人を人とは考えていないだろう、いや、おそらく人を区別しているのだろう。上に立つ者はそのような考えを持ってはいけない、私はそう学んだからな」
 冥夜が憤慨しながらそう呟く。
 帝王学を幼い頃から学んできた冥夜。
 だからこそ、間違えを行っている『王』を許してはおけないのだろう。
 尊人は力無き笑顔を浮かべながらそれを制する。
「うん。僕もあの放送からは嫌な印象を受けたよ。それに、僕達、魔法なんて使える?」
 尊人の言葉に二人はそろって首を振る。
「僕も同じ。という事は、あの放送の人が言った『望まないモノ』、なんだろうね、僕達は」
「でもどうするの? 私達を呼んだ人が、私達の事をいらないって言ったら……。私達が元の世界に戻る事なんて」
 純夏がそこまで言った時、訪問者を告げるノックの音が、部屋の扉の外側から聞こえてきた。
「どうぞー」
 尊人が、少々間の抜けた声でそれに答える。
「失礼する」
 入ってきたのは、ケルヴァンだった。
「悪いな。少々個人的な事で手間取り、このような時間となってしまった」
「あ、いえ……、そんな頭を下げなくても……」
 純夏がオロオロしながらケルヴァンに声を掛けようとすると、それを冥夜が引き止めた。
「貴様の事は、まだ信用していない。頭を下げるのは、私達が信用するに足る話をしてからにするのだな」
「ふふ、これは手厳しい。ならば、これを見て、貴方達に判断してもらおうか」
 ケルヴァンは不敵に笑いながらその頭を上げる。
 同時に懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「これは……、この島の、地図?」
 尊人がボソリと呟く。
 それを聞いたケルヴァンが心の中で呟く。
(ほぅ……。平和ボケしている奴等だと思っていたが、中々……。私をそう簡単に信用しないのにも驚いたが、この地図を見て、一目で理解できるとはな……)
 ケルヴァンが取り出した地図は、一般的に普及されているものとは違う。戦略を立てるという事を重視した、軍専用のものだった。
 冥夜の立ち振る舞いと、尊人の能力。
(子供だと思い、甘く見ない方がよさそうだな。……だが)
 視線をチラリと一瞬だけ純夏の方に向ける。
(例外もいるようだがな)
「それで……、この地図がどうしたんです?」
 尊人がケルヴァンに尋ねると、彼は「おお」と呟いて、彼の方へと目を向けた。
「この地図を読み取れる者がいるのなら、話は早い。まず、私達が現在いる場所はここだ」
 ケルヴァンが地図の一点を指差した。
「ここが中央、そしてここが中央と島を隔てる結界が張られている境界線だ」
「そんなに離れてないんだね……」
 純夏がそんな事をつぶやくが、ケルヴァンはその声を無視するように話を続ける。
「まあ、それはとりあえず今は関係ない。次にここ、この場所だ」
 そういって、別の場所へと指を動かす。
「この地図は上側が北、でいいんですよね? という事は……」
「判るのか、鎧衣?」
 冥夜が尋ねると、尊人はコクリと頷いた。
「この場所は……、僕達が一番初めにいた場所だと思う。ただ、縮尺の関係を考えると、そこから、プラマイ一キロくらいの範囲なんだろうけど……」
 ケルヴァンがその言葉を聞くと、その両手を打ち鳴らした。
「素晴らしい。その通り、この場所に私が見る限りでは強大な力を持ったものが眠っていたのだよ」
「その、力を持つもの、って一体なんなんですか?」
 純夏の問いに、今度はケルヴァンも無視せずにその問いに答える。
「鋼鉄の巨人……。私が見ても、それを扱う事が出来なかったが、貴公達ならば……」
「ちょっとまって」
 ケルヴァンの言葉を遮ったのは、それまで地図をじっと眺めていた尊人の言葉だった。
「貴方が扱えないものを、どうして僕達が扱えると思ったんですか? 僕達の世界に、少なくとも鉄で出来た巨人なんてありませんでしたよ」
「ふむ……。その問いに答える前に、この島の簡単な理から話しておこう。
この島には『召喚者』と呼ばれる魔力を持った者達と、それに引きずられるようにして力を持たない貴公等のような者達が呼び出される。ここまでは放送も流れた事だし、聡明なる君達ならば、理解している事だろう」
 尊人達は揃って頷いた。
「同時に彼等が持ち歩いていたもの、例えば服なども同時に召喚されるのだよ。そして……、君達のいた世界に『関連する何か』も同時に呼び出される」
「関連?」
「例えば剣、例えば銃。貴公達もここに来る前に武器庫、いや既に破壊されてはいたが……、そこに寄っただろう? そこに置いてあった武器なども、我々がその理を理解していたが故に手に入れられたものなのだ」
ケルヴァンがそこまで言ったその時だった。
「何だ? 空が……」
 冥夜が窓の外の異変に気がつく。
「始まったか……。すまん、話はまだ途中だが、後は百聞は一見にしかず、という事で勘弁してもらいたい。このタイミングでないと、拙いのだ」
「拙いって何が!」
 純夏が叫ぶように尋ねると、一瞬だけケルヴァンがその冷酷な本性をちらつかせながら。
「決まっているだろう? その鋼鉄の巨人の下へ君達を招待してやろう、というのだ」
 そう呟いた。
 その後、彼は振り向きもせずにこの部屋から立ち去った。
「尊人……、どうする? タケルが言った通り、今はお前が私達のリーダーだ。だから、決断してくれ」
 冥夜がはっきりとその言葉を告げる。
「皆……」
 尊人は純夏、冥夜の顔を見回してから、そして大きく頷いた。
「あの人に、ついて行こう」

   来た道を、数時間掛けて戻る。
 ケルヴァンというこの島の支配者の一人がいる事と、先ほどの建物でゆっくりと身体を休めた結果、
かつて同じ道を歩いた時よりは、比較的早く目的の場所へとついた。
(壬姫ちゃん……)
 球瀬が死んだ場所を過ぎる時、三人の心に重い感情が圧し掛かる。
「何をしている、早くしろ」
 しかし、感傷に浸っている時間など、三人に残されてはいなかった。
「この森を抜けた所にある。準備はいいか?」
 ケルヴァンが三人に向かって話しかける。
「準備?」
 怪訝な表情のまま、尊人が尋ねると、ケルヴァンは「なに、心の準備だよ」と言って、またその足を早めた。
(そう、心の準備だ。もし貴公達がアレを動かす事が出来なければ……)
 力の無い者には死、あるのみ。
 ケルヴァンが望むモノは覇王。
 そして、その覇王に付き従い、命を賭ける強き存在。
 其の最終目的の為に、ケルヴァンは今、ここにいる。
 そうしていると、四人はその森が開けた所に出る。
「ここだ。そしてあれが……」
 ケルヴァンが、道の先を指差し、三人の表情を伺った。
(どうやら……、当たりだったようだな)
 そして内心でほくそ笑む。
「あれは……」
「ああ、あれは……」
「あれって……」
 そして、三人が一斉に叫ぶ。
『バ、バルジャーノン!?』
 その声が、辺りに木霊した。

 バルジャーノン、かつて、武達が元いた世界で流行っていた、対戦アクションゲームに出てくる機体の総称である。
 赤、青、紫……、様々な機種の中から自分にあった一体を選び、複雑な操縦をこなして、銃や剣を使い敵を倒す。
 武と尊人は、元の世界でも例外では無く、暇があれば、小遣いが無くなるまで遊んでいた。
 冥夜や純夏達も、そんな彼等に連れられて、何度か遊んだ事もある。
 それが。
「なんだってこんな所に……」
 尊人が感動を隠せない声でそんな事を呟いた。
「少々形が違うが……、色は我等が使っていたものと同じものもあるな」
 彼等の前に佇む機体は、四種。
 紫色、青色、白、そして銀。
「これ、武にみせたら、きっと喜ぶだろうなぁ……」
 尊人がまだ興奮冷め切らぬ表情のままそんな事を呟いた。
「どうやら、貴公達の知る武器のようだな、それは」
 ケルヴァンが近づいてくる。
「鎧衣、と言ったか? そのように感動などしておらずに、乗ってみたらどうだ?」
 その言葉を聞いて驚いたように、ケルヴァンの顔を見る。
「乗る……。僕が、バルジャーノンに?」
 そう呟きながら、尊人はフラフラとした足取りでその機体に近づいていく。
 機体をグルリと一周し、乗り込む為のハッチを見つけると、尊人は、その機体の上へ器用に上っていき、そのハッチを開ける。
「う、わぁ……。少し違う部分もあるけど、ほとんどゲームと一緒だ……。うん、これなら!」
 冥夜と純夏は、尊人の姿を不安げな表情で見つめている。
 二人の不安と、一人の期待。
 その視線を受けながら。
「バルジャーノン、機動!」
 鋼鉄の巨人が立ち上がる。



      「これだ……。この重厚さ、この威圧感……。これこそまさに騎士。覇王に付き従う騎士、そのものだ!」
 初めは小声で、やがて興奮を抑えきれないようにだんだんとケルヴァンの声が大きくなっていく。
 ケルヴァンは考える。
 有能なる部下と、常にその者を信頼する仲間。
 その上に立つ者、そして、こちら側で調査した結果『魔力』を持つと思われる白銀武、という存在。
 蜘蛛とネクロノミコンの所持者、二人と相対し、生き延びたという話も聞いている。
 ただの人の身でありながら。
 それは幸運というには、あまりにかけ離れ、またそれを幸運と呼ぶのなら、それはまさに力、天運。
(それが……、そのような存在がこの力を手に入れたら? その仲間がこの力を手に入れたら?)
 それこそ、まさに自分が探していた存在、そのものではないか。
 彼等には、この後伝えよう、白銀武の居場所を。
 そして、我が前に連れてくるがいい。
 ハタヤマ、白銀武、そして、この島に彷徨う力を持つ者達を私が取り込んだ時。
(ヴィルヘルム! その時は、私が貴公の代わりになって差し上げよう……!)

【鑑 純夏 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン(あの後貰った) 装填数 20発 狩】
【鎧衣 尊人 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン 装填数 20発 狩】
【御剣 冥夜 マブラヴ age 状態 ○ 持ち物 刀 狩】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 地図 状態△(魔力消耗) 鬼】

時間 放送前〜求めるものは、の後まで



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