遭遇戦
「ううう…お腹空いたな」
ななかはへろへろと力無く歩きながら呟く、あれから島中走り回った行為でお腹ペコペコ状態だったのだ。
と、そこに美味しそうな匂いが漂ってくる。
「食べ物の…ニホヒ…」
正常な判断など望むべくも無くななかはふらふらと匂いに釣られていくのだった。
薪の爆ぜる音と、香ばしい香りが周囲に漂う。
双厳ら一行はやや遅めの食事タイムに入ろうとしていた。
焚き火の周りには串に刺さった岩魚がずらりと並べられている。
命が待ちきれないといった様子でくんくんと鼻を鳴らす。
そんな食事時だった、がさがさと目の前の茂みが揺れたかと思えば、
紫づくめの少女が、いきなり倒れこむように現れたのであった。
「走り回り過ぎてお腹が空いて…もうダメ」
「あーおいしかった」
ななかと名乗る紫づくめの少女は結局全員の岩魚をすっかり平らげてしまった。
いいかげんにしろよという目で一同はその様子を見つめていたのだが、本当に飢えて今にも死にそうな感じだったので
あえて言わないで置いた、それに満腹したときに見せた笑顔に少し癒されたそんな気持ちもしたので。
「仕方が無いな…いくぞ十兵衛」
そして双厳は十兵衛と蓉子を伴い、また谷川へと魚を採りに出かけるのであった。
渓流の魚は総じて敏感だ、1度漁をした場所ではもうその日は何も採れないと思ったほうがいい
したがって3人はますます上流へと遡っていかねばならなかった。
そして中間地点まで来たときだった、気恥ずかしそうに蓉子が言う。
「あの…ご不浄です…すぐに戻りますけど」
「そんなもん川ですりゃいいだろ」
「いいの…でしょうか?」
さらさらと渓流が音を立てて流れている、その清らかな流れに目を移す双厳
「ダメだ!!ダメダメ!」
双厳より先に十兵衛が慌てて答える。
蓉子はふっ、と微笑むと、2人に一礼して茂みの奥へと消えていき。
それを待つことなく双厳らはさらに上流へと向かうのであった。
「ほう…」
ようやく辿りついたポイントで手製の竹槍を持ち、次々と魚を突き刺していく十兵衛と双厳、
そしてそこからやや離れた場所で、それを値踏みするかのように見つめる一人の男がいた。
紅の騎士、ギーラッハである。
「排除対象を発見した…だが手出し無用に願おう…」
ギーラッハはおそらく自分とそれほど離れた位置にはいないであろう和樹に、
それだけを伝えて通信機のスイッチを切る。
やはり彼は戦いを尊ぶ騎士である、せっかくの強敵との邂逅を邪魔されたくはなかったのだ。
やがて水煙で霞んだ岸に佇む巨体は、漁に熱中していた双厳らにもはっきりと見て取れるようになっていた。
「これは…とんでもない大魚が引っ掛かったようだな」
先ほどから誰かに見られているような気配はあったが、これは桁が違う。
ずいと進み出るギーラッハにまずは十兵衛が声をかける。
「あんた、あの放送の奴の仲間なんだろう?」
ギーラッハは無言で頷く。
「生憎だが俺たちは従うつもりは毛頭ない、伝えといてくれ」
ギーラッハはそれを受けて今度は満足げに笑う。
「よかろう、ならば己と戦ってもらう…だが断っておく、己は今機嫌がすこぶる悪い…」
あれから理由をつけて何とか武器庫への案内からは解放されたものの、
無影との一件はギーラッハの気分をひどく害していた、この嫌な気分を払拭するには
やはり強き敵との戦い以外に無い。
そして、目の前の2人の剣客はそれにふさわしい相手と思われた。
「さあどちらからだ?同時でも一向に構わんぞ」
そのころ、下流では命とななかが他愛ない話をしていた。
2人とも同世代で明るい性格だったのが幸いしすぐに仲良くなることが出来たのだった。
だが、ななかの言葉でその様相は一変してしまった。
「敵を探しているの…比良坂初音って言う」
「比良坂初音!?」
ななかの口からの意外な言葉に命も表情を一変させる。
「知っているの!?、ねぇどこで!?いつ!?教えてよ、ねぇってば」
ななかは命の胸倉をつかみ、夢中で揺さぶる。
「ちゃんと…教えるから…手ぇ離して」
ななかの馬鹿力で揺さぶられた命は、苦しい息の中でようやく呟くのだった。
「そう…そんな奴なんだ」
命の話を聞き終わったななかは歯軋りをしながら、うつむいてしまう。
名乗りをあげた上で弄ぶように相手をいたぶる、そんな奴が沙由香という美味しい標的を目をして
あんなにあっさりと殺すだろうか、ありえない。
沙由香は正面から何ら警戒・抵抗することなく一撃で刺し貫かれ絶命していた。
文字通りの不意打ちである。
それは彼女が語る、比良坂初音の戦い方や言動とは大きく異なっていた。
(じゃあ誰が…誰がお姉さまを殺したっていうのよ)
だが…もはやななかにとってそんなことはどうでもよくなってきていた。
(もう、いちいち探すのもめんどくさいな)
ねぇ?どしたの
苛立たしく爪を噛む仕草を続けるななかを心配げに覗き込む命、そしてその時だった。
ななかの二の腕が突如、命の身体を斬り裂いたのだった。
「どう…して」
何とか身をよじって致命傷は避けた命だったが、その背中はざっくりと裂けてしまっている。
「いやーもう面倒くさいから、全員殺しちゃおっかなーって」
「大体お姉さまのいない世界なんて価値なんてないし、お姉さまが死んでどうしてあんたたちが生きているのかも
不公平な話だよね」
ななかはあっけらかんとした笑顔で恐ろしい言葉を口にする。
「何勝手なこと言ってるのよ!!」
そのあまりにも理不尽な言い草に、憤慨する命。
「そっかなー、そうかもね、でもせめてごはんのお礼に痛くしないように殺してあげるね」
ななかの瞳が冷たく光り、そしてその爪が大きく振りかぶられる…命は悲鳴を上げた。
「!!」
下流から聞こえてきた微かな悲鳴に、顔を見合わせる双厳と十兵衛
命の身に何かが起こったのだ、踵を返し沢を下ろうとする2人、だが、この騎士を何とかしなければ…。
と、ここで十兵衛がずいと双厳をかばうように進み出る、それはこの場は俺が引きうけたという、
意志表示に他ならなかった。
「行け!!」
十兵衛の言葉に躊躇する双厳、この目の前のバテレン騎士は桁が違う…、
十兵衛一人置いて行くわけにはいかない。
「俺には柳生仕込みの裏芸がある、表芸しかできないお前よりは出し抜ける可能性がまだ高い」
「しかし!!」
だが双厳は十兵衛の選択が恐らくは正しいのだということを感づいてはいた。
(確かに…正面から戦うことしかできない俺よりは、お前に任せた方がいいかもしれんな)
「蓉子に出会ったら俺のことは教えるな、一緒に命の元に急ぐんだ」
双厳は頷き、その場から離脱し命の元へと向かった。
そしてギーラッハと対峙する十兵衛、十兵衛の腹積もりは決まっていた、できる限り時間を稼いだ後
一発勝負で離脱し援護に向かう、この矛盾した命題をこなせるのは双厳には無理だ、
自分以外にはいない。と…しかし
(なんだかヤバイ予感がするな…)
十兵衛の胸中を不安がよぎる、それは今までどんな強敵と戦ったときとも違う
得体の知れぬものだった、そして十兵衛はそれが何なのかを悟りつつあった。
(俺の死に場所は…下手すりゃここか…だがな)
「柳生が真髄!とくと御露じろ!!」
十兵衛は己に言い聞かすように吠えた。
だが、彼は知らなかった…夜族の時間がすぐそこに迫っていたことを。
時間:満月数分前
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(鬼) 状態:○ 装備:ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
(夜になれば吸血鬼としてのフルパワーを発揮可能)
【双厳@二重影(ケロQ)状態○ 装備品 日本刀(九字兼定) 狩】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ)状態○ 装備品 日本刀(三池典太光世)左腕に鉄板 狩】
【命@二重影(ケロQ)状態△ 装備品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(10発) 炸裂弾(3発) 狩】
【皇蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(オービット)状態△(左腕骨折)
装備品 コルトガバメント(残弾4発)マガジン×3本 クナイ(本数不明) 招】
(行動目的 ヴィルヘルムを締め上げる)
【FM77/ななか@超昂天使エスカレイヤー(アリスソフト)狩 状態○ 所持品?】
(行動目的・全てに対して復讐)
【友永和樹@"Hello,World" (鬼) 状態△(右腕欠損) 所持品:サバイバルナイフ(刃こぼれ等の破損) 行動方針:魔力持ちの保護、魔力なしの駆除、末莉を守る】
(作中には出て来ていませんが、近くにはいます)
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