幕間






 「……スイートリップ?」
 目の前の少女は、確かにそう名乗った。
 「あ、いや、失礼。 リップ殿と呼べばいいかな?」
 一瞬、羅喉は、「それが本名?」という素直な気持ちが出てしまったのを慌てて言いつくろった。
 「いえ、気にしないで下さい。 これは、私の戦士としての姿の名前で、
 この姿でいる時の私は、クィーングロリアより授かった力を揮う騎士なんです」
 リップは、当然の疑問に対して、素直に返答をする。
 彼女自身も、普通の人が、突然そんな風に名乗られても、知らなければその反応で仕方ないと思ったからだ。
 「それは非常に失礼な事をした。
  戦士としての誇りある名であるのを、そして戦士としてのあなたの覚悟を露知らず……」
 一瞬とはいえ、先ほどの自分の行為が『スイートリップ』と名乗った彼女の心境を、覚悟を侮辱したと、
羅喉は、リップへ対して頭を下げる。
 頭を下げられたリップも、「だから、そんなに気にしないで下さい」と言いながら、
彼の誠実さに少し困ったような顔ではありながらも、はにかみながら彼に頭を上げてくれと頼んだ。
 二人の様子を眺めていた雪もクスクスと笑っている。
 「リップ様、私からも助けていただいて下さってありがとうございます」
 誠実すぎる兄と純真なリップのやり取りに救済の手を差し伸べるように、
雪が先ほどの礼として、彼女に頭を下げた。
 「あ、此方こそ、私を介抱していただいたみたいで……」
 雪の返礼に対して、リップも頭を下げる。
 自然と二人が頭を上げた頃、羅喉も気を取り直し、口を切り出す。
 「その事なのだが……」

 それから三人は、自分達がどういう風にこの地に招かれたかを述べ合った。
 「では、やはりリップ様も光に包まれて気付いたら……」
 「ええ、でも私の場合は、気絶してしまっていたから……。
  後は、雪さん達の知っている通りです」
 「ふむ、どうしたものか……」
 共通していた事は、三人とも光に包まれ、気付いたらこの地にいたという事だけで、
現状を解決する為の手がかりは、特になにもない。
 「鴉丸さん達を襲ったという四人組の侍さんと言うのは……?」
 先程、鴉丸兄妹の話の中にちらりと出てきた襲撃者の事に関してリップが尋ねた。
 「いや、それさえも、ただ私を狙ってきたと言うだけで何も解らないのだよ」
 「羅喉さんを……、ですか?」
 「そう、明らかに殺気が私だけに向けられていた。
  そして、雪の方を狙う様子も、実際に狙われる事もなかった……」
 今までの人生の中で、雪を狙う者達との間に何度死闘を繰り広げたかは解らない。
 だが、羅喉を狙ってくる者と言うのは、武闘家として勝負を望む者が多く、
新撰組のような、彼特定を狙った殺し屋というのは出会ったことがなかった。
 (風の噂で、勇一を国家組織が狙い始めたと言うのを耳にした事があったが……)
 自分の場合もそれだろうか? と羅喉は、考えたが、直ぐさまにそれを却下した。
 もしそうなら、わざわざ自分と雪を助けまいと思ったからだ。
 彼等の反応は、自分達の身に何が起こったかを少なからず知っているようでもあった。
 「これからどうしましょう?」
 考え込んだ羅喉へと雪が今後の事を切り出した。
 「動くべきか構えるべきか……」
 今、彼等の手元には、何も情報がない。
 (率先して動けば、情報も手に入り、それだけ現状を把握する事も可能だが……。
  それだけ、危険度も増す。 ならば……)
 「私は、しばらくここにいようと思う」
 考えを決めた羅喉は、動くべきではないと提案した。
 「まず第一に、動けば情報が手に入るが、襲撃者や人狼がいるような環境下でうかつに動くのは、
 それだけ危険度も非常に大きい。
  次に、これは感だが、私を狙ってきた襲撃者は、何らかの情報をもっていると見て間違いないと思う。
  ならば、動いて探し回るより、それを待つのも一つの手だ」
 最後に羅喉は、どうだろう? と付け加えた。
 「私は、お兄様に従います……」
 雪の返答は、当然のものだった。
 「私も鴉丸さん達と一緒に行動しようと思います」
 「そうか、それはありがたい」
 リップの返答に羅喉は、再び頭を下げる。
 「よして下さい。 この状況下です。 私も助けてもらいましたし、
 もちつもたれつつですよ」
 ニッコリと笑顔で、リップが再び頭を上げてくださいと手を振る。

 グー。

   その時、三人の間に大きなお腹の虫の音が鳴り響いた。
 途端に顔を真っ赤にする雪とリップ。
 「「あ……」」
 二人の声がはもった。
 雪も歩きっぱなしで大分体力を、リップもやってくる前からの消耗した体力から。
 二人は、同時にお腹を鳴らした。
 「ははは……、よし食料を調達してくるとするか。
  リップ殿、その間、雪を任せてもいいだろうか?」
 そう言うと羅喉は、立ち上がる。
 「解りました。 すみません、羅喉さん……」
 まだ少し恥ずかしさが残った赤い顔でリップは答えた。
 「いや、此方こそすまない。 では行ってくる……」
 立ち上がると羅喉は、表へと出て行った。

 「さてと……」
 何かないかと羅喉は、辺りを見回す。
 「見た所、港町のようなのだから、魚を取る為の道具がありそうなものなのだが……、む?」
 軽く周りを見た所で、彼は、何とか使えそうな道具を発見した。
 「確かに魚は、釣れそうだが、これは……」
 見つかった道具は、街並に似合った古い釣りざおと魚篭。
 この二つを持っているとまるで、浦島太郎のようである……。
 「贅沢は言えないか……」
 手にとり、装着すると、羅喉は、本当に浦島太郎になった気がした。
 「餌は、波止場の方で見つかるだろう……」

 「リップ様、すみません」
 雪もまた羅喉が出かけた後に、リップへと礼を述べていた。
 「いえいえ、お互い様ですよ。
  それより火を起しておきましょう」
 先程の襲撃で消えてしまった囲炉裏の火に薪をくべ、
原始的な方法で、二人は火を起こす。
 やがて、バチバチと音を立てて煙が上がり始める。

 そのまま二人は、元いた世界の事とか、互いの共通認識を深め合った。
 「同じような世界なんですね」
 「ええ、私のいた世界では、世界が幾つかにわかれててますけどね」
 「でも、私達のいた世界と余り変わりないみたいですね」
 そう言うと雪は、自らの世界にもあやしげな人たちはいっぱいいたと話し始める。

   しばらく……。
 「これだけあれば上等だろう。 まさか本当に釣れるとはな……」
 ポピュラーな魚を数匹吊り上げた羅喉は、魚篭と釣り竿を片手に二人の待つ家へと戻る。
 その時だ。
 彼の耳に、民家で待つ二人の耳に、聞きなれたチャイムの音が鳴り響いたのは……。

【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:なし 行動目的:雪を護りぬく】
【鴉丸雪@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 招 状態○ 所持品:なし 行動目的:兄についていく】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り) 所持品:グレイブ】
【全体放送中】



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