阻む者、名将の機転






再び結界装置を弄ろうと中に戻っていくナナス横目に、忠介は周囲を見渡していた。
「ん、あれは…?」
遠くから妙な点の光が彼の瞳に移ると同時にそれは……。
「はやくここから離れるんだ!!」
光がほんの少し大きく見えると忠介はできる限りの声を張り上げた。
「忠介さん、何が?」
中に入ろうとしていたナナスが言葉を返す。
「いいから、はやく!!」
尋常ならざる忠介の表情にそくされ、ナナスも郁美も彼に従い、すぐさまその場を離れた。
忠介が気付いてから時間にしてその間、5秒程だっただろうか。
次の瞬間、光弾が彼らのいた地点を襲い、爆風を巻き起こした。
「うわぁぁ!!」
咄嗟に離れたとはいえ、直撃を免れただけで爆風の余波で三人は吹き飛ばされる。
「っつ…忠介さん、まさか?」
吹き飛ばされた時に少々頭をぶつけたのか、頭を抑えながらナナスが立ち上がる。
「そのまさかだね…」
「そうだ…こんな重要施設に守護兵がいないはずが…」
吹き上げられた土で身体が土埃まみれになりながらも、ナナスは光弾の向かってきた先を睨みつける。

「魔力反応は三つ…失敗したか」
離れた場所で、黒く聳える鉄の塊、ユプシロンがぼやいた。
「結界維持装置よりの危険信号…彼らは意図的に結界維持装置を破壊しようとしている。
またマスターへの反逆…」
無法備に外へ置いてある結界維持装置の建物。
当然の如く、情報にない侵入者が来れば、結界維持装置の本体である魔法球自らが中央へと危機を知らせる。
破壊された場合も然り。
中央防衛として、カスタマイズされたユプシロンも同じシステムで信号を受け取る事が可能だ。
「ならば…消去あるのみ!!」
ユプシロンは二弾目を放った。
「また来ます!!」
さっきよりも近く大きく見える光を前に郁美が叫んだ。
慌てて三人は草むらの中へと身を隠す。

「施設が壊れる事は考えていないって言うのか!?」
周りが2発目の魔法による爆発音で、拭き暴れる中、忠介が声を漏らした。
「いや、おそらく結界を維持するだけなら本体となる核さえあれば無事なんだと思う。
放送がここで行なわれなかったように遠くからでも制御できるシステムなんだろうね」
「なるほど…打ってつけの素晴らしいシステムだ」
ナナスの的確な返答に、科学者として思わずうんうんと頷いてしまう忠介であった。
「けど、どうしますか? このままここにいてもジリ貧ですよ?」
「遠距離からのアウトレンジ攻撃…敵は相当な魔法使いだ。
今のぼくたちじゃ、分が悪すぎる…」
「施設の中に入ると言うのはどうですか?」
郁美が二人へと案を持ちかける。
「いや、さっきも言ったように核さえ無事なら後は何が壊れてもいいんだと思う。
それにもし増援が来たらそれこそぼくらはお仕舞いだ」
「一旦、出直すか?」
「賭けだね…ぼくらが接触したせいで、放送の為の回路が外されたり、
警備が厳重になる可能性は高い…かといって今あがらうには戦力が…」
「じゃぁ、どうすれば…」
行き場なしといった、ナナスの答え。
「可能性はまだある。ここは見捨てよう」
「そうか、 まだ幾つかあるはずだね」
そう言うとナナスはてきぱきと説明を始めた。
装置は他にも幾つかあるはずである。
ならば、ここは捨てて敵がここに釘付けになっている間に、
残りを探しに行こうと言うものである。
「相手の目を誤魔化すんだ…」
その間に協力してくれる人が見つかればより計画も成功率が高まる。
「だけどいちかばちかの賭けだ。どうする?」
上手くいけばの話である。
道中での危険性がそれを上回る事の方が大きい。
また、これは時間との勝負でもある。
敵が全てに対策を施す前に行なわなければならない。
「けど、それでも全てへ対策を施そうと思ったら、数時間、最低でも2時間以上はかかると見ていいと思う。
放送が直ぐに行なわれなかったようにね…」
「決まりだね、このままいた方が危険極まりないよ。
音からして敵はどんどん近づいてきてる。 なら、すぐさま離れよう」
「私も異存ありません」
「ありがとう…」
将として、自分の作戦に従ってくれた二人に、ナナスは感謝した。
「まずは、中央から離れよう。
その後、迂回してここ周辺を大きく避け、他のを探すんだ」
そうと決まれば名将ナナスの指示ははやい。
颯爽と三人は施設を後にし、一時中央へから離れて行く。

三弾目を放った後、ユプシロンは建物付近へと既に近づいていた。
だが、まさにほんの少し前にナナス達はこの場から離れており、見つける事はできなかった。
辺りに、何も反応がないのを確かめると、彼は先ほど補足した反応が何処へいったのかを追い始める。
「三つの魔力反応…大きく中央外へと、北へ移動中、追跡可能範囲突破…」
奇しくも、中央から一旦離れて迂回すると言うナナスのとったコースが彼らに運を呼び寄せた。
もし、中央をぐるりと回る順路であったならば、ユプシロンにそのまま追跡され、
やがては、追いつかれていただろう。
「報告…結界維持装置を細工・破壊しようとした反逆者が北へ逃走」
ユプシロンは敢えてその情報をケルヴァンにも届く転送をした。
先に情報を送っておいたヴィルヘルムからの指令が届いたのだ。
範囲外は、彼の手駒に追跡してもらえばいいと…。
「……終了」
情報の送信が終わると、彼は、再び中央の方へと出戻っていく。


【ナナス@ママトト(アリスソフト)状態○(土埃まみれ) 所持品 強化皮膚の装甲 改造エアガン 招】
【小野郁美@Re-leaf(シーズウェア)状態○(同上) 所持品 メッコール(飲むとあまりのまずさに気絶)強化皮膚の装甲 ハンマー 招】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(マロン)状態○(同上) 所持品 液体の入った小瓶2個(うち1個は、塩酸で残りは半分)強化皮膚の装甲 招】
【闘神ユプシロン:所持品:通信用水晶内蔵 状態○ 鬼 行動方針:中央の守護 備考:移動範囲が中央から結界維持装置付近まで】
【満月の夜後】



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