武人の誇り






 悪司と羅喉が倒れてから、しばらく。
 雪とリップは、人狼との戦いで破壊された民家とは別の一軒に二人を運ばんだ。
 元あった家から持ってきた布団と、今来た家にあった布団に二人をそれぞれ寝かせながら。

 「お兄様が羨ましい……」
 「えっ?」
 二人を寝かしつけた布団の横で、羅喉の顔を見ながら雪は呟いた。
 「思うんです、私も普通の女の子だったら、、
  お兄様と一緒に格闘技を習えたんじゃないかなって……」
 「普通の女の子か……」
 雪のぽつりと漏らした言葉にリップは、反応した。
 「あ、リップ様、ごめんなさい。 そう言うわけじゃ……」
 目の前にいる戦う騎士としての道を選んだ少女の事を思い出し、
今、自分のした発言は、彼女の気に障ったのかもしれないと雪は不安を抱く。
 「あ、大丈夫よ。 気にしないで」
 リップもまた、自分のふいに呟いた言葉が彼女に気遣いをかけたと思い、返答をする。
 「私はね、思うの。 この力があるから困っている人を助ける事ができる。
  自分だけに与えられた使命って言うのかな。
  それができるって、とっても素晴らしい事だと思うわ」
 「自分の力でできる事……、リップ様って凄いんですね……」
 「ううん、そんな事はない。 私だって少女であるのには、変わりないわ。
  けど、この姿でいる時は、この力を使う時は、戦士でいようって決めているだけ……」
 自分の隣にいる少女は、自分に比べ、なんと力強く前向きに進んでいるのだろう。
 雪の中に、リップへの憧れの感情が生まれ始める。
 「私もリップ様のように強くなれますか?」
 「大丈夫、雪さんなら、きっと強くなれますよ。
  私のような騎士にまでなったらお兄さんが泣いちゃうかもしれないけどね」
 にっこりとした笑顔で、リップは目の前にいる少女を勇気付ける。

 あれから、しばらくの間、二人の話は弾んでいた。
 「そう……。 大変だったのね」
 「はい、怪我の功名ってやつです」
 自分の力の事、そして元いた世界でそれを狙われていたこと。
 兄が常に守り抜いてきてくれた事、そしてこの地にやってくる前の事を共に語り合っていたのだ。
 対するリップも自分が元いた世界で戦っていた相手の事等を話していた。
 そんな最中……。
 「っつ……。 今何時だ?」
 寝起きで頭が痛そうに、悪司が目を覚ます。
 「ああ…………、夢だったら良かったんだけどな」
 現状を、そして何を経験してきたのかを思い出したようだ。
 「羅喉は、まだ起きてないのか?」
 「ええ、隣のお布団の方で……」
 悪司の問に対して、雪が答える。
 「しゃーねぇな。 おい、いつまで寝てるんだ。
  お前が寝てたら誰がじょうちゃん守るんだ」
 ゆさゆさと羅喉の身体を揺さぶる悪司。
 「……ん? なんだ悪司か」
 「妹さんの方が良かったのか?」
 「悪司様、お兄様は、私達を守るために連戦していて疲れも溜まっているんです……」
 新撰組、人狼、そして悪司との喧嘩。
 ここの所、羅喉は戦い続けであった。
 「んなの俺だって同じだ」
 悪司もまたアイと戦い、新撰組と戦い、そして羅喉と喧嘩したのだ。
 だからこそ、それらの疲労から二人は長い事眠っていた。
 「大分、長い事眠っていたみたいだな……、すまん」
 自分達を運び、その間見ていてくれた二人の少女へと羅喉は礼を述べた。
 「いえ、私も助けてもらいましたから……」
 それに対し、リップも先の一件で忘れていた礼を述べる。
 「さて……、これからどうするかな」
 立ち上がり、肩をぶんぶん回しながら悪司は言う。
 「仇を追うのか?」
 「ああ……、けど情報が少なすぎるし、探すったって何すればいいか解らないしな。
  っと、その前に羅喉、お前に一つ聞きたいことがあるんだ」
 「なんだ?」
 悪司の突然の問に、羅喉は?マークを示した。
 「お前、何であの時、打ち合いに応じたんだ?
  わざわざ俺と同じタイプの技を使わなくても……、ほら、えーっとあれだ。
  はどーけんみたいなやつとかだったら、俺は負けてかもしれないぜ?」
 悪司の必殺技、大悪司は単純明快な技である。
 闘気を高め、一気に相手に詰めより、気を込めた拳で殴りつける。
 単純だからこそ破るのが難しい。
 「なぜ、わざわざ『天陣神舞』で迎え撃ったかか……」
 対する羅喉の『天陣神舞』。
 闘気を高め、拳にのせて連打する。
 どちらも良くにた技である。
 「おう」
 「勝負だからだ」
 「?」
 今度は、悪司が顔に?マークを浮かべる。
 「殺し合いではない、純粋にお前と私の勝負だったからこそ、
 『天陣神舞』で、打ち合いに応じたのだ。
  相手が最高の技で来る。 ならば、私も同じ系統の技で打ち合い、
  お互いの技量をぶつけ合う、それが礼というものだ。
  その結果、私とお前は、引き分けた。
  そして私は、その結果に満足している。
  もし、悪司、お前を殺すタメの手段を取っていたら、私はあの戦いに何ら価値を見出さないだろう」
 「武人の誇りってやつか……。 俺には良くわからないが……。
  でも嫌いじゃねぇ、むしろそういう所を気に入ってるぜ」
 「ふっ、お前も相当なバカのようだな」
 「……かもな」
 そう言い、二人は、友として笑った。

   「いいなぁ……」
 そんな二人の様子を見て、雪が羨ましそうに言う。
 「おう、何ならじょうちゃんも一度組に入ってみるか?」
 「悪司、それは止めてくれ……」
 「冗談だ、冗談」
 この地において、悪司は、ほんの一時ではあるが、
わかめ組の時の雰囲気を感じる事ができた。
 また鴉丸兄妹たちにしても久しく楽しい時を過ごせた。

 「さて、そろそろ真面目に考えないとな……」
 悪司の顔が、今までの表情とは打って変わり、キリッとしたものになる。
 「まずは、お互いの情報交換から……、これが一番だろう」
 同じく羅喉も真面目な表情へと切り替える。
 「情報と言っても、私達は余り……、リップ様はまだ目覚めたばかりですし」
 「ううむ……」
 「結局、俺が一番情報がありそうなのかよ……」
 と悪司はため息をついてしまうのだった。

【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○(ほぼ回復) 所持品:なし 行動目的:雪を護りぬく】
【鴉丸雪@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 招 状態○ 所持品:なし 行動目的:兄についていく】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り) 所持品:グレイブ】
【山本悪司 大悪司 アリスソフト ○(ほぼ回復) なし 招 ランス(名前、顔は知らない)を追う】



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