もったいないオバケの逆襲
玲二と沙乃は目の前にあるそれの中を釈然としない表情で歩いている。
何も無い山道、その中腹にいきなり○○商店街にようこそとアーチがかかっていたのだ。
まぁ、中に入ると、入り口付近に数軒のこじんまりした店があっただけで、
その先は草ぼうぼうの獣道が続いていたが。
2人はその店で補給を済ませると(幸いにも薬屋があった)
また先を急ぐ、と、今度は。
「コンビニか…」
草ぼうぼうの野原に、コンビニエンスストアがやはりこれも唐突に建っていたのだった。
その異様なロケーションに2人は思わず額に汗してしまったが、だが、同時に長年の勘か、
2人は敏感にそれ以外の…自分たちを取り巻く周囲の風景の微妙な不自然さに気がついた。
「沙乃…そこを動くな」
玲二はそう言って、身を低くすると這いずるように草むらの中に潜っていく。
果たして、草の中に周到に隠されたクレイモア地雷が見つかったのであった。
玲二は近寄ろうとする沙乃を手で制して、さらに注意深く周囲を観察する。
「なるほど…このロケーションで爆発の効果を確認しようと思うなら、やっぱりあそこしかないな」
50Mほど前方のコンビニを玲二は指差す。
「俺が裏口に回る…合図をしたらここの場所をそこから動かずに槍で弾いてくれ、頼んだ」
玲二は木陰に身体を隠しながら、コンビニへと急ぐ…沙乃も草むらに身を隠し、合図を待つ。
やがて建物の影に侵入した玲二が沙乃に向けて白いハンカチを振ってみせる。
沙乃は向きを慎重に確認すると、ゆっくりと草むらの中を走るテグスの付け根を槍の穂先で弾き落とした。
かくして、破裂音と同時に、数百個のボールベアリングが撒き散らされたのであった。
「ふん、チョロイもんね」
爆発音を聞いて、コンビニのカウンターの中に潜んでいた鳳姉妹は顔をほころばせる、
この姉妹にとってはお互い以外は全て敵だ。
大切なのはお互いとそして行方不明の父親だけ、だからそれ以外の他人は邪魔者でしかない。
「ああ、全くだな」
ギョッとして振り向く双子の目の前に、裏口から入ってきた吾妻玲二が立っていたのであった。
コンビニのカウンターを挟んで、鳳姉妹と玲二&沙乃…見た目では鳳姉妹が非のうちどころのない美少女なのに対して
拳銃を構える玲二と槍を担いでいる沙乃…どちらが加害者なのかまるで分からない。
「あの…お腹が空いてたの、だから怖くなって私たち…それで」
「うわーんうわーん」
「今更泣かれても勘弁できないわよ!それに涙出てないじゃないの!!」
沙乃は呆れ顔で双子を見つめる、だが玲二はやけにシリアスな顔をしている。
お腹が空いていた…か?
玲二はごみ箱の中やその周囲に散乱する、まだ中身が入っている大量のスナック菓子を目ざとく見つけていた。
パッケージにはXXフィギュアつきと書かれている。
そして不意に思い出す、(ハンバーガーを山ほど食べるのが夢だったんだ)
そう言って目の前の山ほどのハンバーガーに満面の笑みを浮かべる少女の記憶を…。
たかがハンバーガーにそこまで喜ぶ子供もいれば…玲二はスナックの袋を握りつぶし、鳳姉妹を睨みつける。
この2人によって自分の大切な思い出を汚された、そんな気がしたのだ。
「そうか、なら望み通りたっぷりと食べさせてやる」
そう吐き捨てるように言うと玲二は食料品売り場に向かい、埃をかぶった陳列棚をがさがさとまさぐっていく。
「2年前のしめさば、これなんかいいな…それと年号が昭和時代の牛肉のたたきなんか熟成されていて、
きっと美味しいぞ」
玲二はそういった類の食品類を鳳姉妹の目の前に置く。
「さぁ食べろ、誰かの命を奪ってまでも食べたかった食事だろ、食べろ」
「ちょっと!やりすぎじゃないの!?」
「これでも上等だ…さぁ食べろ、それがいやなら」
玲二は姉妹に向けてS&Wを構える。
「もう食事が永遠に必要ない世界に連れてってやる」
鳳姉妹は顔を見合わせると、やがて観念したかのように2年前のしめさばを口に運ぶのだった。
それからしばらくたって。
「1年と8ヵ月前の牛乳…もうチーズになってるなこりゃ」
粘液状のかつて牛乳だった何かを玲二はグラスに開ける。
「3年前のマヨネーズと混ぜれば、カッテージチーズみたいで美味しそうだろう」
異様な食事会は未だに続いていた。
「殺してやるわ…あんたたち2人とも必ず殺してやるんだからぁ!!」
本性を剥き出しにして泣き叫ぶ鳳姉妹。
「そうか…」
その瞳が冷たく光ったかと思うと、見えないほどの素早さで玲二はもう1度S&Wを抜き放ち、
2人の眉間に向けて構える。
「ならその時は本気で相手をしてやる、無駄口叩く暇があるならもっと食べろ」
玲二は容赦無く、双子の口に九ヶ月前のピーナツバターサンドをムリヤリつめこんでいく。
もはや沙乃は異様な光景に耐えられず、外に逃げ出してしまっている。
「大体、食料品店に潜んでおいて腹が減っていたなんて、そんな浅はかな理屈しか吐けないようじゃ
俺たちは倒せない」
確かにそういう所がまだまだ子供だなと、入り口でやり取りを聞いていた沙乃は思う。
用意周到な罠を張るまではいいが、それを見破られたときの臨機応変さが根本的に不足しているのだ。
とはいえ、新撰組十番隊組長とファントムを出しぬくことなど、至難の業なのだが。
やがてウーンと唸り声を上げてまずはあかねが、それからなおみがついに目を回してぶっ倒れてしまった。
玲二は目を回した鳳姉妹の枕もとに、胃腸薬を置いてやる。
「武士の情けだ…あばよ」
【吾妻玲二 ファントム・オブ・インフェルノ ニトロプラス 状 ○ S&W(残弾数不明) 狩 】
【原田沙乃 行殺!新撰組 ライアーソフト状 ○ 十文字槍 鬼(現在は狩) 】
(食料・医薬品等補給済)
【鳳姉妹@零式(アリスソフト) 持ち物 クレイモア地雷x2 プラスチック爆弾 AK47 状態 △ 狩】
(どちらか片方が招の可能性あり)
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