求めるものは。
暗く狭くジメっとした空間。
鉄の錆びた臭いの漂う場所。
要塞内にある牢屋である。
だだっ広い牢屋の数々の中に、一つだけぽつんと色違いな点のある牢があった。
「…………う、あう、え、う……」
そこから奇妙なうめき声が聞こえてくる。
「ぼくは……、ぼくは……、ぼくはぁあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
叫び声と共にハタヤマは、意識を戻した。
「はぁはぁ……!?」
目覚めた彼は、くるくると辺りを見回す。
目の前には、鉄で囲われた柵があり、周りは丈夫な石の壁で囲われている。
どうやら、窓はないようだ……。
そして、彼は、次に自分の身を確認し、再び絶望の淵に連れ戻される。
「うわぁああぁあああぁ!!!!!」
一時の欲望に負けた事を、自分の考えが甘かった事を、
ヴィルヘルムと戦い負けた事を、そしてメタモル魔法を封じられた事を……。
ハタヤマは全てをコナゴナに打ち砕かれたのだ。
「うがあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!」
狂いに身を任せて、魔法を放とうとするも使う事ができない。
ハタヤマの尻尾に付けられているリングが彼の魔力を封じているのだ。
何もできることなく、ただ一匹の狂った獣の咆哮が牢に響き渡っていた。
カツ、カツ、カツ、カツカツ…………。
咆哮の鳴り響く牢に誰かの靴音が鳴り響く。
「目は覚ましたか?」
牢屋への扉の前に辿り着いたケルヴァンが、見張りの門番に尋ねた。
尚、ロードヴァンイパイアは、地下の特別な所に管理されており、一階にあるここにはいない。
「はっ!! ですが、終始うめき続けております……」
入り口の門番の彼は、そう言うと中の見張りの友人が耳栓してますよと愚痴も付け加えた。
「そうか……、まぁ、計算通りだ。 では行ってくる」
「お気をつけて……」
分厚い扉の鍵を空け、ケルヴァンはゆっくりと牢屋の中へと入っていった。
「うぐあがああぁぁぁぁあああ!!!!!!!」
罪と全てを失った苦痛にハタヤマは、未だ叫び続けていた。
近づいてくる足音に気づく事もなく。
やがて、足音の主、ケルヴァンは、ハタヤマのいる牢の前でと止まり、彼の方を向いた。
そして、
「ふむ…………。 やぁ」
(我ながら似合わん事を今回は、よくやるな)
と心の中で苦笑しながら、笑顔でハタヤマに語りかける。
だが、当のハタヤマは、叫ぶばかりでそれに気づく様子がない。
「やれやれ……、ふん!」
気だるそうに、ケルヴァンは軽い電撃をハタヤマへと放つ。
「ウギャァ!!」
ぷすぷすと焦げを上げて、軽いショックと共に叫ぶのが止まった。
「こほん……。 気がついたかね?」
「あうえう……。 ここは?」
まだ心しっかりとここにあらずと言った虚ろな表情と口調ながらも、
ハタヤマは、ショックにより何とか正気を取り戻す。
「あ、なたは……?」
「失礼、私の名は、ケルヴァン。 ハタヤマ君、君の処遇を一任されたものだ」
「ぼくは……、殺されるんですか?」
「その方がいいのかね?」
内心、そんな事は絶対にさせないとケルヴァンは念を押した。
「罪を償う為にも、こんな悲劇を二度と起こさない為にも、ぼくは死ぬべきなのかもしれない」
「それは逃げてるだけじゃないのかね?」
「そうですよね……。 だからぼくは解らないんです。
生きて、罪を背負い償い生きるべきなのか、でもぼくは間違えてばかりで……。
もう何をしていいかすら解らないんです」
「ハタヤマ君、良く聞いて欲しい」
おそらくハタヤマが自分の話を聞いてくれるのは、ここを逃せばそうそうないだろう。
ほんの一時、正気に戻っている今を逃せば、そして今の境遇と状況を逃せば、
彼を完全に掌握するのは、難しくなるだろう。
ここが正念場だと、ケルヴァンは自らの持てる限りの話術を注ぎ始めた。
「人は……、いや、失礼、私も魔族で人ではなかったな」
焦らず、ゆっくりとケルヴァンは慎重に話を進める。
「いいかい? どんな者でも間違いを犯す時はある。
時には、それが取り返しのつかない事となることもあるのだ」
「それで、ぼくは……」
「まぁ、もう少し話を聞いててくれ。 過ちの元なんて人の数以上にある。
ハタヤマ君、君の場合は、何が原因だったのかね?」
知っているのを敢えて言わず、ケルヴァンはその答えをハタヤマに求めた。
「ぼくの……心の弱さが、原因です……」
ガタガタと振るえながら、またさっきに状態に戻りそうな様子でハタヤマは、答えた。
「それは違う」
ケルヴァンは、ハタヤマの答えをきっぱりと否定した。
「えっ!?」
思ってもいなかったケルヴァンの答えに、思わずハタヤマは動揺する。
「……同情ですか?」
「そうではない。 いいかい? 過ちを犯してしまったことはもはや仕方がないのだ。
ならば、過ぎた事に捕われるのではなく、如何にして前へ向くかと言う事ではないかね?」
「それは、罪を忘れろと言う事ですか……?」
ハタヤマが尋ね返す。
「違う。 君に足りなかったことだよ。
罪を認め、背負う、それだけではない。二度と同じ過ちが繰り返さないように償い努力する事だ」
「じゃぁ、ぼくは……」
「ハタヤマ君、君はさっき心の弱さが原因といったね」
「はい……」
「けど、それも違う。 誰しもがあって然るべき欲の範囲なのだ」
「ですが、ぼくはそれさえも抑える事も……」
「君の境遇は知っている。 そしてその欲望は誰しもが持って当然の範囲のものなのだ。
ならば、誰だって、そのような事を犯さないとも言い切れない。
そして、例え、なったとしても残念なケースになるとは限らない。
ハタヤマ君は、運が悪かったのだよ」
「結果は結果です……」
「先ほど私が言った言葉を思い出して欲しい。
犯してしまった罪は消えない。
ならば、二度と同じ過ちを繰り返さないように償い努力する事だ」
「それは……」
「もし、君がもっと強かったら……。
彼女を殺すことなく、コトを終えれるだけの力があったとしたら?
確かに襲ってしまったと言う罪は、消えないだろう。
だが、今のような事態にはならなかったのではないかね?」
「……」
「君を打ちのめしたヴィルヘルム……、もし彼だったら彼女は悲劇に遇っただろうか?
いいや、彼ほどの力なら、何ら問題なく抑え付け、無事に済んでいただろうね」
「……」
ハタヤマにとって、ケルヴァンの言う事は尤もだった。
もし彼があの時、魔法を受けても全く平気なほど強かったら。
そして、彼女を楽々と抑えつけれたら。
彼女は死ぬ事はなかっただろう。
それでも彼女が怒る事は、避けれない必須の問題だ。
だが、それは、心を込めて、自分の状況を、苦しみを打ち明ければ、彼女は理解してくれる人だった。
そして、自分は、短いながらも、この島でそれだけの関係を築けていたと思っていた。
「ハタヤマ君、私は思う。
君は強くなるべきだ。 それこそが彼女への一番の償いではないのかね?」
「は……い・……」
この瞬間、ハタヤマは、完全にケルヴァンの思惑通りに考えを染めきられていた。
「ヴィルヘルムを見ろ。 彼はその強さを持ってして、自らの信念を貫こうとしているのだ。
過ちを償うだけではない。 何かをやろうとするには、それに見合った力が必要なのだ。
私は、君の一存を任された。 そして私はそんな君の力になりたい。
私の元で強くなろうではないか!!」
ケルヴァンは、拳を掲げる。
「ぼくは……強くなる。 そしてアーヴィちゃんを……」
「なりたければ、彼女の姿になればいいではないか。
それが君が罪を償う方法と選択した事なのだろう?
償いの方法に、人によって様々だ。 逃げてるかどうかは本人の気持ち次第だ。
なぜなら、償いと言う行為は、罪を悔いる証拠なのだから」
「お願いします……。 ぼくはあなたについていきます。
なぜなら、今のぼくにはあなたの言う事が正しいと思えるからです」
そしてハタヤマの意志は、ケルヴァンについていくことに固まった。
「嬉しいよ、ハタヤマ君。 では早速専用の部屋も用意しよう」
ケルヴァンは、牢を開け、ハタヤマを出すと、彼を引き連れていく。
(まずは第一段階成功と言った所か……)
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 状態△(魔力消耗) 鬼】
【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態△(疲労・傷は手当て済み) 招 行動方針:ケルヴァンに従う】
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