冥府因縁
しばし、時は遡る。いや、正確にはこの話の舞台に
時間は存在しない。時とは生者とその世界が謳歌する
モノであり、死者とその世界に在る時間など意味を成さぬ
単位だからだ。
延々と続く荒野、立ち並ぶは、白骨の腕の如き枝を寒風に晒す
枯れ木の列。冥府と呼ばれるこの地では大地に精気は無く、灰色の
暗き空に煌く太陽の光も無い。そして風音に混じり流れる激しい
金属のぶつかり合う音は既に数十、数百を数えていた。
「負ける……訳にはいかない。皆が待っている、もう一度あの場所に
帰れるなら……っ!」
身長を超える長さの黒鋼の刀―斬馬刀を少女が振るうたびに大地が
削られ、枯れ木が薙ぎ刈られる。しかしその必殺の刃も眼前の敵を
倒す事は適わない。眼前の敵、少女を追ってきた狩猟者は表情も変えずに
手にした大鎌で斬馬刀の斬撃を払いのける。生前についた彼女の額の
古傷が、幾度もの斬り合いで再び血を流す。だが相対する狩猟者は、
嵐の様な斬り合いでも、まったくの無傷だった。
狩猟者の名はエアリオ。冥府に死者を引き戻す為にその鎌を振るう死神である。
「あきらめなよ。死者が現世へ戻る事なんて許されない事なんだから」
冷たく突き放す言葉と共に振るわれた死神の大鎌は、無慈悲に少女を
切り裂いた。少女の願いと涙を刈り取り、浅葱のだんだら模様の羽織が
血に染まる。
「ゆーこちゃん……トシさん、そーじ…みんな……っ。ゴメン……」
沖田鈴音は遠い悲鳴を聞いた気がして振り向いた。現世に戻った身体は
以前の病に冒された体と違い、驚く程軽かった。眼前には自分達を冥府より
呼び戻し、新たな身体を与えた男、ケルヴァンが睥睨している。
冥府での眠りからケルヴァンの誘いに乗り、引き寄せる魔力に招かれ現世へと帰ってきた。
魔力でこじ開けられた召喚のゲートへと辿りつく為に、冥府で死者を管理する死神はその刀で
切り捨てた。世界の摂理を捻じ曲げる大逆、それも、全ては『誠』の旗の下に
再び戦う為にだ。勇子さんがいる、トシさんがいる。芹沢さんもいる。向こうでは
沙乃が難しい顔をしていた。
「戻れなかったのね」
微かに眉をひそめ、朱色の鞘を強く握り締めた。何より仲間といる事の好きだった彼女の
無念を想い、暗い炎が胸に宿る。そうだ、この身体なら何者でも斬り捨てて敵を討てるだろう。
眼前の召喚者が自己紹介を始めた。
「再び会えて光栄だ。私の名は魔将軍ケルヴァン……」
回想シーン
【エアリオ@忘レナ草(ユニゾンシフト)状態? 所持品 大鎌 招 スタンス:魂の浄化】
【藤堂平@行殺新選組ふれっしゅ 状態:死亡】
【沖田鈴音@行殺!新撰組 (鬼)状態; ○ 装備:日本刀】
【ケルヴァン@幻燐の姫将軍1・2(エウシュリー) 状態○ 所持品ロングソード 鬼】
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