シューティスト2人
霧は目の前の男の状態を見て絶句する…
その傷は酷いなどというレベルではなかった、間違いなく三途の川の1歩手前状態だ。
動転しながらも、霧は男を川から引き上げる。
がちゃんと音がして、二つの拳銃が河原に落ちるが気にしない、水を含んで重くなった身体をずるずると引きずり
霧はようやく男を河原まで持っていくことが出来た。
しかし…これからどうすればいいのだ?
自分には医学の知識もないし、サバイバルの知識なんて物もないのだ?
ぼんやりと男のうめきをききながら、その場にへたり込む霧だったが、その時だった。
「おい!なにやってやがんだ!!」
振り向くとそこには金髪の少女が立っていた、
「そいつ殺すつもりか!こういう時はまず服を脱がせてでも、濡れた身体を乾かすのが先決なんだよ!!」
そう言うなり少女は、男の服を脱がせ始める。
初めての男の素肌に目をそむける霧、それを見た少女は呆れたような顔をしたが、矢継ぎ早に霧に命令する。
「ぐずぐずすんな!!早く枯れ枝集めて持って来い!」
こうして2人の献身的?な介護の甲斐があって、大十字九郎はまもなく意識を取り戻したのだった。
「それにしてもアンタもタフだねぇ」
コンビーフの缶を開けながら少女は九郎に笑いかける。
「鍛えてあるからな」
九郎も微笑ながら少女に応じる、一応危機は去ったとはいえまだ重傷であることには間違い無いにもかかわらず…。
たしかにこの男、タフネスには自信があるようだった。
「それじゃもう大丈夫だよな?」
少女は音も無く銃を引き抜くと、2人に向けて構える。
「立ちな、ちょっと付き合ってもらうぜ」
九郎は少女の正体を見てもまるで動じなかった、腰を抜かさんばかりの霧とは正反対に、
「アンタ…敵だったんだな、そういう気は薄々感じてはいたが…ええと」
「ああ…そういや名前まだ言ってなかったな、アタシの名はドライ」
「何で俺たちを助けた?」
「お人よしでねぇ…見捨てて後で後悔するのはいやだろ?、さて、とじゃあ立ちな」
ドライの言葉に苦笑する九郎。
「待て!俺は構わない…だがこの娘は逃がしてやってくれ」
九郎の顔をまじまじと見るドライ…少し考え込む。
「いいぜ…だが条件がある、アタシと勝負しな」
そんな…!と言いかけた霧の機先をドライが制する。
「フェアじゃないってか?だけどアタシなら2人まとめて殺れるぜ、だからチャンスをやろうって言っているんだ
自分じゃなく、あんたを逃がしてくれといったそいつの心意気に免じてな」
そう言い終わるとドライは九郎の方を見る。
「わかった…その勝負受けよう」
「このオルゴールが鳴り終わったときが勝負だ…」
ドライはコンビーフの缶を地面に置く。
「あの缶を先に撃ち落とした方が勝ちだ、アタシはペイント弾だからどっちが勝ったかは一目瞭然のはずだ、いいな」
頷く九郎、それを確認してドライは地面にオルゴールを置く。
賛美歌が軽やかなメロディに乗って流れる、それに合わせて2人は呼吸を整える、
まるでそこだけ時間が止まったかのような、荘厳な緊張感が周囲を包んでいく。
演奏が終わったとき、2人の手が電光のように閃く、そして…
「ああそうそう、あんた銃持ってたっけ?」
ドライの言葉にずっこける一同、
「人が銃抜くときに声をかけるなよ!!こけるだろうが!!大体最初に確かめろ!!」
「いやぁ、服脱がしたとき持ってなかったように思えたからさ、でどうなんだ?」
「もう拾ったよ…大体持ってなきゃ早撃ち勝負なんて受けないって」
「あ、そう、じゃあまたいくぜ」
ドライは仕切直しとばかりにまたオルゴ―ルのネジを巻き、地面に置く。
そしてまた賛美歌が鳴り響き、ついにその時が来た…。そして!!
バシュッ!
湿ったような破裂音がしたかと思うと、缶は赤い塗料に塗れていたのであった。
「アタシの…勝ちだな」
「惜しかったな…」
傷さえなければ…と言いかけて九郎は首を振る。
いや、例え五体満足であってもこの娘に早撃ちで勝つことは出来なかっただろう…それほど早かった。
九郎は愛用のリボルバーを眺めて苦笑する。
それを見て、ドライが顔色を変える。
「なあ?アンタ…そいつでアタシとやりあったのか」
九郎はただにやりと笑うだけだ、(本当はそろそろ話すのも苦しくなってきている)
「ふふ…はははははっ、そいつはすげェ、こんな馬鹿でかい銃でこのドライ様と早撃ち勝負だなんてなぁ」
ドライはバンバンと九郎の背中を笑いながら叩く。
「アンタ気に入ったぜ」
「気に入られたついでに…頼みがある」
九郎は霧を顎で示す。
「やっぱり…この子は…見逃してくれないか?」
「いいぜ…ハンデだ」
ドライは簡単に引き下がった。
同じ銃ならアンタが勝ってたかもしれねぇからな、と口の中でドライは呟くのだった。
何かを言いたそうな霧だったが、結局何も言わず九郎の言葉を待つ。
「奴らは…魔術師を求めている…そして俺の見た限り…君には素質は無いように思える…
もしそうなら…いけば必ず殺される、わかってくれ」
九郎はリボルバー式の拳銃を霧に手渡す。
「これを…君に…渡す、そしてアル・アジフって女の子に…これを見せるんだ…きっと…力になってくれる」
「九郎さん…」
九郎の身体ががくがくと小刻みに震えている。体力の限界が訪れたのだ。
「何やってんだ!早く逃げろ!その男の気持ちを無駄にするつもりか!!」
ドライが追い払うような仕草を見せる…霧はぐちゃぐちゃな気持ちのまま、
何か大切な伝言を託さなければならないのに、それが何なのかわからない…そんな気持ちで
せかされるように走った。
「で、やせ我慢していたってか…つくづく気に入ったよ」
ドライが呆れたように苦笑いする。
「あたり…前だ」
不敵に笑う九郎の顔はまさに蒼白だった。
「アタシの前で死ぬなよな…自分で殺したわけじゃないのに目の前で死なれるのはすげー迷惑なんだよ」
「努力…する…」
そしてまた九郎の意識は途切れた。
【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △ (意識不明・1通りの手当ては終了)
自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、残り弾数不明 (15発以下)】
【ドライ @ファントム・オブ・インフェルノ (ニトロプラス) 状 ○ 所持品 ハードボーラx2 鬼、】
【佐倉霧@CROSS†CHANEL(フライングシャイン) :狩 状態:△ 所持品:
ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要)
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』、残り弾数不明(13発以下) 】
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