鬼道新撰組
そしてそのころ。
「くそっ!しつけーぞ、テメェラ!」
シェンナは目の前の相手に拳を叩きつけるが、それは鉄扇に阻まれ受け流されてしまう。
(つええ…)
さらに一息つく間もなく、彼女の背後から側面から次々と攻撃が繰り出されていく。
今、シェンナが相手をしているのは3人、いずれもぼろぼろの浅葱色の羽織を身体に纏っていた。
「ここはどこかと尋ねただけだろうが!いいかげんにしやがれ!」
シェンナが悪態をつき終わるか終わらないかの間に、自分の正面の金髪女がぶんっと鉄扇を振り下ろす。
避けきれず受けとめるしかなかったシェンナの手首に激痛が走る。
(折れちまったか、なんてバカ力だ・・・!)
痛みに顔をしかめている余裕は無かった、慌てて飛び退くとついさっきまで自分のいた場所に銃剣が突き刺さる。
(くそ…こいつら手馴れてやがる…)
新撰組は殺しを個人の手柄にしない、まさに狼のごとく徹底的に効率を重視した集団戦術で、
並み居る剣豪をことごとく屠っている。
しかも今ここにいるのは、剣客・暗殺集団新撰組の中でも最強クラスの強者たちだった。
(奥の手を出すしかねぇな)
シェンナはくわえタバコを地面に吐くと呼吸を整え、印を切り、自分の奥の手である分身の術を繰り出そうとする。
それもただの残像だの錯覚だのを利用したものとは違う、彼女の分身の術は文字通り、
自分自身を2つに分けるのだ。
これなら片方が斬られても、もう片方は逃れることができる、体力こそ半分になってしまうが、
生き延びることが出来ればなんとかなる。
シェンナは自分の残る全ての力を逃亡に注ぎこみ、全速力で走りながら術を発動させていく。
後ろから声が聞こえるが、それはみるみる間に遠く聞こえなくなって行く。
が、彼女の行く手に気弱そうな眼鏡娘、沖田鈴音が刀を抱えて立ちふさがる、退路を読まれていたようだ。
だが、もう遅い、術は完成している。
シェンナは鈴音の目前で大きく跳躍すると同時に術を発動、2体に分裂したシェンナはそれぞれ逆の方向へと
飛び退こうとした、が、出来なかった何故なら。
「!!」
空中にいた2人のシェンナは確かに見た、恐るべき速度で鈴音の刀身が鞘から抜き放たれ
自分の身体を2つ同時に真っ二つにするところを…
その動きはあまりにも鮮やかで、斬られたシェンナは悲鳴を上げることすら出来なかった。
ただ先に地面に落ちていく自分の下半身をぼんやりと眺めながら、
声にならない声で最後の悪態を呟いたのみだった。
「タイマンならテメェらごときに…」
返す刃で鈴音がシェンナの首を刎ねたときには、彼女はすでに息絶えていた。
「これで一人か…しかしやはり戦はいい、これぞ武士の本懐」
ようやく追いついた土方歳江は未だに死んだことを理解してなさげなシェンナの瞳を閉じさせ、
死に顔を整えてやる。
「喜べ、お前の命は我ら新撰組再興の、そしてゆくゆくは真の武士の時代の礎となるのだ…
そして死ねばみな仏だ、せめて手厚く弔ってやろう」
そういうと歳江は、芹沢らと共に墓穴を掘り、シェンナを埋葬してやる。
墓標に彼女の着ていたジャケットを括りつけ、愛用のタバコを供えてやると
歳江たちはまた次の獲物を探し、島内の巡回を再開した。
【シェンナ 死亡@ママトト@(アリスソフト)】
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