鬼畜王の窮地
「ちっくしょう……むかつくぜ、あのアマ……」
足音荒く山道を折りながら、忌々しげにランスは言葉を吐いた。
「糞が。なにが不満だってんだ。俺はお前の命を助けて、
おまけに俺のハイパーキャノンで気持ちよくさせてやろうと思ったんだぞ!」
手近の木に拳を叩きつける。
「破格の条件じゃねぇか!! 死ぬこたねぇだろうが!!」
「そう思うのでしたら、何故もっと堂々となさらないのか!!」
その頭上からの怒声と共に、ヒュンという矢風きり音がランスの耳を襲った。
「な……!?」
身を捩じらせ、辛うじて矢をかわす。ドっと矢が地面に突き刺さる。
「何の真似だ、テメェ!!」
そう叫んで、矢が飛んだ先を見る。
その視線の先には、木の上で弓を構えた女性が、鋭い視線でランスを睨んでいた。
「ほう? この程度の攻撃をかわせないほどには、腑抜けていませんでしたか。
安心しましたぞ、我が王よ」
「お前……五十六か」
「はい。お久しぶりです」
木から飛び降り、ランスの前で五十六はひざまずく。
それを見て、ランスは苛立たしげに舌打ちした。
「……俺が腑抜けているだと?」
「違いますか、ランス王? 山頂の出来事は私にも届いていた。正直失望しました。あれが私の仕える王なのか、と」
「黙れよ……」
「あの出来事が耳に届いたのは、私だけではありませんぞ?
おそらく今頃どこかでは別の人間が貴方のことを嘲笑しているでしょうな」
「黙れって言ってるのが聞こえねぇのか!! 俺の何が悪いんだよ!!」
「何も悪くはない!!」
怒鳴るランスに、五十六もまた怒鳴り返す。
「あ……?」
「何も悪くは無いのです。貴方は王だ。故に貴方のなさる事に悪いことなど何も無い」
「なんだと?」
「貴方はご自身のなさることに絶対の自信を持ち、自分の行動こそが正しいのだと常に信じることが出来るお方だ。
それこそが貴方の魅力であり、そして王としての風格だった。
……今はそれは失われているようですが」
「…………」
「貴方にももろい所があり、シィル殿を初めとした方々がそれを支えていたのは私にも分かっていました。
しかし、これほどにもろいとは……!?」
シィルの名に反応したのだろうか。ランスの手が伸び、五十六の襟を掴んで背後の木に叩きつけた。
「俺は二回、黙れっていったんだぜ?」
胸倉を掴んだまま、ランスは五十六に顔を近づける。
五十六の顔のすぐ前で、ニィっとランスは顔を歪ませ笑みを浮かべた。
「……そうだな、山の上じゃ犯りそこねちまったんだ。五十六、お前で楽しませてもらおうじゃねーか」
五十六は、ランスの視線を真っ向から受け止めた。
「それが貴方の望みとあらば」
「随分と往生際がいいな?」
「貴方は王で、私はその臣下だ。臣下が王の望みをかなえるのは当然のこと。ただし――」
スっと五十六は腕をランスの首に手を回す。
口付けをするかのような距離で、五十六はささやいた。
「その見返りに私は、貴方が王として生きることを、約束してもらう」
「…………」
「その誓約をなさいますか、ランス王?」
「五十六、お前……」
だが、ランスが五十六に答えるよりも早く、五十六はランスを押し倒した。
なにか鋭い衝撃波のようなものが、間一髪ランスと五十六の頭上をかけぬける。
「何奴……!!」
ランスと共に転がりながら、目に止らぬ早さで五十六は矢をつがい、放つ。
飛び放たれた矢は、長剣によって叩き落された。
「またもや奇襲は失敗ね」
「構わないさ、ミュラ。3対2だ。正攻法で問題ないぜ」
赤い鎧をまとった男と、髪を短くした長身の女性が、木々の間からスッと現れる。
「そうね。そちらの方が分かりやすいもの」
そして、彼らを挟んで反対側。小柄な体に似合わぬ戦斧を構えた女性がやはり音も無く現れた。
「挟み撃ちか……!!」
「チッ! お前ら、聞き耳たててやがったのかよ!」
歯噛みするランスと五十六。
その二人に三人のママトトの武将は冷たい目を向ける。
そのうちの一人が吐き捨てるように言った。
「ただでさえヒーローとシェンナが討たれて……その上で、あのような山の上の惨劇だものね。
頭に血が上るのは分かるけど、リック、ライセン、慎重に。
慎重に、確実に、仕留めるわよ」
【ランス@ランスシリーズ (鬼(但し下克上の野望あり)) 状態:○ 装備:リーザス聖剣】
【山本五十六@鬼畜王ランス (招) 状態:○ 装備:弓矢(弓残量16本)】
【ミュラ@ママトト (狩) 状態:○ 装備:長剣】
【ライセン@ママトト (狩) 状態:○ 装備:戦斧】
【リック@ママトト (狩) 状態:○ 装備:パイロード(長剣)】
前話
目次
次話