Wicked child






「いてぇよ…痛てよぉ」
「人の話を聞かないからでやんすよ」
「うるせえ!性欲過多は馬族の宿命だってんだ!…いてててて」
カトラに支えられ、身体を引きずりながら泣き喚くスタリオン、その左腕はベコベコに折れ曲がっており
しかもどてっ腹にも深々した刺し傷があるのが分かる。
そう…彼は完膚なきまでに凶アリアに叩きのめされたのだった。
「あの…凶が…」
スタリオンはつい先ほどの惨劇を思い出す。

「おうおう、よくみりゃ凶じゃねーか」
スタリオンは凶アリアの耳を見てにやりと笑う。
「どこのデアボリカに飼われてんだぁ?ケルヴァンもいい趣味してやがるぜ」
凶アリアは動じない、その程度の罵倒は慣れっこだ、ただ。
「奏子さん…耳を塞いで下さい、こんな下賎な言葉を耳にしては心が穢れます」
と、挑発気味に注意を促しただけだ、その余裕の態度がスタリオンの心に火を注ぐ。
「かっこつけてんじゃねぇ!今からテメェらは俺にとっつかまって、犯されるんだよ」
犯される…その言葉を聞いて奏子の顔色が変わる。
凶アリアの顔もそれを見て険しくなる。
「おっ、やる気か?凶ごときにやられる俺様じゃねーぜ!!」
司令官の女を襲い、それを人質に取り脱出する、このいきあたりばったりながら大それた計画が
スタリオンからいつもの臆病さを忘れさせていた。

そこにようやくカトラが追いついてくる。
「おう、やっときたか…見ろ、ケルヴァンの奴め。凶なんぞ飼ってやがる」
しかし、凶アリアの顔を見てカトラは真っ青に(スケルトンがどうやって?)なって叫ぶのだった。
「そ、そいつはロードデアボリカの…あのアズライトの凶でヤンすよ!!」
ロードデアボリカ…神に匹敵する力を持つ世界でたった5人だけの最強魔族…
その中でも最強最悪と謳われるあのアズライトの僕…、しかし。
「うるせぇ!!アズライトが何だってんだ!!奴ァ女で身を持ち崩して何百年も行方不明って話だぜ!!」
ああ、とカトラは頭を抱える、興奮と緊張でスタリオンは完全にイッてしまっている。
いつもならロードデアボリカの言葉を聞いただけで、震えあがって土下座しているだろうに…。


「ロードの僕ともなりゃ締りも格別だろうぜ…」
「もう知らないでやんすよ」
カトラは先に外に飛び出す。
「マスターの悪口を言いましたね…」
「奏子さん、今から私は彼らに罰を与えます、ですから私がいいと言うまで
後ろを向いて耳を塞ぎ、目を閉じておいてください」
耳を塞いだら、いいと言われてもわからないんじゃないかなぁと思いながらも奏子は言われたとおりにする。
「罰?罰だとぉ…じゃあ俺様はコイツでお前らを天国に…ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
ズボンを下ろしながらのヒワイな言葉は、最後まで放たれることはなかった。
何故なら電光石火の一撃がスタリオン自慢の逸物をへし折ってしまっていたのだから。
「おおおおっおおおううう」
泣き叫びながらぶんぶんと両手を振りまわすスタリオン、しかし凶アリアはその左手を掴むと、
それをやすやすと叩き折る。
「あぎゃぎゃーっ!!」
下半身のそれとは違う痛みがまたスタリオンを苛む、しかしここまで痛いと却ってどれがどの痛みか
わからなくなるのだろう。
スタリオンは馬のパワーを十二分に生かした体当たりを凶アリアへと敢行する。

が、しかし
「あらら?」
その体当たりも凶アリアによって軽くいなされ、胴体を薙払われ、さらにそのパワーを利用されて
投げ飛ばされる、飛ばされた先には鳥籠があった、そして
「うわわわっ」
スタリオンが金網に触れた途端、青白い光が走りスタリオンの全身を貫き、そして彼を外へと弾き飛ばす。
弾き飛ばされた先にはカトラがいた、1度は逃げたもののやはり親友を見捨てては、置けなかったのである。
「わかったでやんすか…」
「ああ…」
ようやく正気に戻ったスタリオン、だがその背後に凶アリアが迫る。
「まだです…まだ終わっていません…」
「行くぞ!逃げるぞ…カトラァ」
スタリオンはカトラを抱え全力疾走で凶アリアから逃げ出す、本来とても動ける傷ではないのだが。
死の恐怖がクソ力を(それでも知れているが…)を呼び起こしていた。

そして、冒頭のシーンに戻る。
全てを使い果たしたスタリオンは痛い痛いと泣くだけのいつものヘタレに戻っていた。
「どうすんだよぉ…テメェのいい考えって奴に乗ったからこういう目にあったんだぞ」
「だから、人の話を最後まで聞かないのが悪いでやんす」
「人じゃねーだろ、テメェ骨だろうが」
「ともかくこの先に行けば…例のいい女がいるんでやんすから、もう少しの辛抱でやんすよ」

彼らの行く手には何が…


そしてその頃。
「遅かったか…しかし逃げられたのは痛いな」
ようやく到着したケルヴァンは自分の前に広がる広大な庭園を見て舌打ちする。
ここ中央要塞は外から中への侵入は限りなく不可能に近いが…中から外は限りなくだだ漏れに近い、
なにせその主であるヴィルヘルム=ミカムラ自身が、
「わが理想国家から脱走者など決してありえぬ、ありえぬ物に警戒して何とする」
と、自身満々に言い放っているのである。
その結果、たかだか2人合わせて18歳程度の子供にまでやすやすと逃げられる始末。
実際、リニアの失策が無ければ恭也たちも逃亡に成功していただろう。

「さて、君の処遇だが」
ケルヴァンは改めて凶アリアの姿を観察する。
(一筋縄での勧誘は無理か…凶では資質以前の問題だしな)
「私の望みは一つ、私の世界への帰還です、それ以前にここは何処で貴方がたは何なのですか?」
ケルヴァンが何か言おうとした機先を制して凶アリアが先に訪ねる。
「落ちつけ…今教えてやる」


「と、いう事だ、これでわかってくれたか?この世界と、そして君自身の立場も」
「理解は出来ましたが…」
そこで凶アリアはまずケルヴァンを睨みつける。
「貴方の、そしてここを包む空気は黒過ぎます、本来ならば貴方がたに協力なぞする気もありませんが」
「それ以外に帰還の道が無いのであるならば、そうせざるを得ないでしょうね」
「理解感謝する…色々面倒が多くてな、ここで一戦交える覚悟もあったが、そうならなくて良かった」

「ならば改めて頼もう…ここは残念ながらあのような下卑た輩も多い、私もそう頻繁に足は運べん」
「そこでだ、君自身の裁量で構わない、この娘の面倒を見てくれぬか?」
闇魔法学会の連中はただ魔法が使えるだけのごろつきが、大半を占めているといっても過言ではない。
そんな連中に、ここを嗅ぎつけられるとまた問題だ。
彼は深山奏子が比良坂初音に出会う直前に巻きこまれた災難についても知っていたし、
その境遇には彼といえども同情を禁じえなかった。
(己が欲望を満たす…ただそれだけで女を襲うなど獣の所業だな…)
だが、正直な分だけまだマシかもしれない、だとすれば自分は獣以下の存在かもしれん、
と、ケルヴァンは皮肉気に唇を歪める。
「わかりました…それならば、ただし」
凶アリアは納得したものの、ケルヴァンに釘をさすことは忘れなかった。
「私は私自身の意志で奏子さんを守る、これだけはお忘れなきよう」

ふぅーと廊下で一息つくケルヴァン、その隣には部下、仮にこいつをAとしよう、が控えている。
「もういいでしょうか?私も持ち場に戻らないと、あれ?ケルヴァン様、どちらに?」
「部屋の片付けだよ!!」
わかってるくせにとケルヴァンはAにどなりつける。
「あーあれですか、あちこち血まみれでその上壁に穴があいてしかも床といい壁といい矢が突き刺さりまくりで
 まるでアラモの砦でしたねぇ」
「手伝うとか少しは殊勝な言葉が言えないのか…」
「いいんですか?手伝って…闇魔法学会の連中たち、まるで役立たずですよ…闇魔法というより
 闇阿呆学会ですね、あれは」
そう言われると反論できない、事実口は悪いがAたちはよくやってくれているし、
彼らが持ち場を離れるとそれだけ、何か不測の事態が起こり得る可能性は増していくのだ。
「わかったよ…お前らの手伝いはいらん…」
うめくように呟くケルヴァンだった。

で、その頃
「奏子さん…もう耳を塞がなくてもいいですよ、奏子さん、かなこさん、かーなーこーさーん!!」
凶アリアは早速壁にぶち当たっていた。


【スタリオン@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態△ 所持品なし 行動方針 人質を取って脱出】
【カトラ@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし 行動方針 人質を取って脱出(緑色の髪の女?)】

【凶アリア@デアボリカ(アリスソフト) ? 状態○ 所持品:トンファー 行動方針 奏子の護衛】



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