歪んだ信念、罪むなしく
「はぁはぁ……」
不完全なアーヴィの姿のハタヤマは、森の中を走っていた。
「いたぞ!!」
「なんで、なんで……」
他の、もっと逃走に適したメタモル獣に変化すればいいものを
ハタヤマは、決して変化を解こうとしなかった。
「こっちだ!!」
追いかける複数の足音は、ケルヴァンの部下のもの。
ハタヤマとアーヴィは既に中央の結界付近に辿り着いていたのだ。
放送以降、中央結界付近に配備された警備兵。
たまたま近場を巡回していたケルヴァンの部下の一人が、
アーヴィの叫び声、魔法の音、鈍い音、ハタヤマの慟哭の叫び、
これらを耳に取り、様子を見に来た所から始まる。
そう、その部下はハタヤマがアーヴィに変化する決定的な瞬間を見てしまったのだ。
困惑した彼は、すぐさま部隊長へと。
部隊長は、ケルヴァンへと報告をした。
『捕獲しろ』
ケルヴァンの命と共に彼らは、ハタヤマを捕獲しようと追いかけた。
ハタヤマは当然のように逃げた。
その逃げる先が彼等の思惑とは知らずに。
「ケルヴァン様、計画通り目標を中央の方へと追い詰めています。
このままいけば、直ぐに霧の中に入りますので、其方で回収をお願いします」
部隊長らしい男が、使い魔を通してケルヴァンへと現状を報告する。
『解った、そのまま続けてくれ』
(ふふ、思わぬ獲物が舞込んできてくれたものだ。
これでヴィルヘルムに対する牽制もできる……ついているな)
ハタヤマの逃げる先に、目の前に霧が見える。
(やった!! あれなら姿を隠して逃げ切れる!!)
ハタヤマは、迷わず霧の中に突入していく。
「目標入りました!!」
ハタヤマを追っていた部下が部隊長へと連絡する。
「了解、後はお願いします」
『ご苦労、後は此方で捕獲する』
そのまま使い魔も霧の中、中央へと戻っていく。
「はぁはぁ……、逃げ切れたかな」
霧の中、自らを追いかけてくる人の気配が、声が、足音がなくなったのに安堵の息を漏らす。
馴れない人の身体で、走り続けたために疲労も相当身体に溜まっている。
「休まなきゃ……」
腰を卸そうとしたその瞬間。
ハタヤマの目の前が一変した。
「な、なにこれ……」
霧は晴れたのでなく、突如として全て消え去り、
目の前が晴れ渡った世界になる。
「隠れなきゃ!!」
咄嗟に彼は、近くに見えた建物へと身を隠そうと走る。
その時……。
ハタヤマの目の前に、巨大な機械人形が映る。
ケルヴァンの部下達よりもはやく、そう偶然にも闘神ユプシロンがその場にいたのだ。
「うう……」
蛇に睨まれた蛙のようにハタヤマの動きが麻痺する。
「魔力パターン、データ内の人物と一定……ハタヤマ・ヨシノリ」
「……!?
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁあぁぁぁ!!!!!!!」
自らをハタヤマと呼ばれた事に、彼は罪の意識から狂い走り逃げようとする。
「目標の人物は逃走……。 止むをえない、捕獲する。
ティーゲル!!」
ユプシロンの手から魔法による光球がハタヤマに叩きつけられる。
「ぐわぁ!?」
彼は、そのまま建物へと叩きつけられる。
「そんな……」
そのまま彼の意識は闇に沈んだ。
『これは……』
辿り着いたケルヴァンの部下達と彼を通した使い魔。
彼等の見たものは、意識を失っても尚、アーヴィの姿のままであるハタヤマ。
そして、その後ろにそびえる巨大な鉄の塊……闘神ユプシロン。
(くそ!! せっかく策をこうしたのに後一歩と言う所でばれてしまったか!!)
使い魔の向こうでケルヴァンが舌打ちをする。
(どうする? 亡き者にして隠蔽できるような相手ではない……。
とにかく交渉してみるしかない)
使い魔が闘神ユプシロンの前に出る。
『ケルヴァンです……。
今回の捕獲作戦は、私の指揮によるもの。
できれば、このまま私にお任せして頂きたいのですが……』
やんわりと彼は、ユプシロンの向こうのヴィルヘルムへとコンタクトを取ろうと試みる。
「ノー。 マイマスターの命により、我は魔力資質者を確保し、
直に中央へ連れて行くことを命じられている。
ケルヴァン様の希望とあっても、その命に背く事は許されない」
(しまった、ヴィルヘルムが介していればまだ望みはあったのだが……)
「では、我は早速……」
『待てっ!!』
ユプシロンからヴィルヘルムの声が聞こえる。
(くっ!? こいつから情報が伝わってしまったか!!)
『ユプシロンよ、彼とは余が話す。
しばらく控えておれ』
「はっ!!」
『ご苦労だったな、ケルヴァン……』
『いえいえ、それより後の事は此方へお任せ頂きたいのですが……』
静かな二人の戦いが始まる。
『後は、余が対処する』
『そうはいきません、前に仰ったはずですよ。
これ以上、そのような行動を取られては示しがつかないと……』
『……………………』
ケルヴァンの牽制に対して、ヴィルヘルムは何らかの返答をしたようだ。
『なっ!? 宜しいのですか? それならば私としても願ったり叶ったり、望む所ですが……』
『構わん。 だがその代わり余の前に連れて来て欲しい』
『その約束に違いはないのですね?』
ケルヴァンは、用心深く確認を取る。
『勿論だ』
『解りました、ならば責任もって私がお連れしましょう。
ですが、約束を違えた時は……』
『解っている』
『では……』
『という事だ、ユプシロンよ、後は彼に任せ、引き続き任務に当たって欲しい』
「了解しました」
大きな腕でアーヴィとなったハタヤマを掴み、彼はケルヴァンの部下達へ引き渡す。
部下達が受け渡すと、ユプシロンは再び元の任務へと戻るのであった。
「ここは?」
暗い闇の中からハタヤマは意識を戻した。
さっきまで自分がいた場所とは違う。
当たりを見回すと、魔法陣にあやしげな水晶や器具の数々。
どうやら、何か特別な儀式を行なう部屋のようだ。
そして、彼はもう一つ見つけた。
部屋の奥に構えるヴィルヘルムの姿を……。
「よく中央まで来たな、ハタヤマよ」
奥から、ゆっくりとヴィルヘルムがハタヤマの元に近寄ってくる。
「あううあ……」
ここでようやく彼は今現在の自分の姿を、そして何があったかを思い出した。
アーヴィの姿に化けている事を、彼に知られたのを焦った。
そして、これ以上の事がばれるのも恐れた。
ユプシロンの時以上に彼は膠着し冷や汗を垂らした。
「その姿はどうした?」
穏やかな……、だが静かな怒りが込められている口調でヴィルヘルムはハタヤマに尋ねた。
「そ、その、これは……、いや、なんでもな……くはないんですが……」
この世の終わりのように、アーヴィであるハタヤマの顔が歪む。
「……一緒にいた娘はどうした?」
その言葉が彼の胸を突き刺した。
「あぁぁぁあああぁ……」
ハタヤマから、もはや言葉にすらならぬ音を口から発せられる。
一呼吸の間が置かれ……
「…………余が解らぬとでも思ったのかぁ!!」
ヴィルヘルムの口から、今までと打って変わった怒声が鳴り響く。
「貴様が気絶してる間に、とっくに頭の中は覗かせてもらったわ!!」
ガラガラと。
ハタヤマの中で決定的な何かが崩れていく音が聞こえた。
「貴様は、余の期待を悪い意味で裏切ってくれた!!
余の顔に恥を塗ったのだ!!」
ヴィルヘルムの怒りが、ハタヤマへとぶつけられる。
この時、彼自身無意識のうちに「悪い意味」と言ってしまっていた。
もしかしたら、心の奥底ではハタヤマが正義の光に目覚め成長するのも望んでいたのかもしれない。
だが、もうそんな事が来る日はないだろう。
それがまた彼の怒りに過剰に火をつけた一因ともなった。
「うるさい……」
ボソッ。
「……ん? 何か言いたい事があるのか?」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!」
壊れた機械のように、ハタヤマが連呼し始める。
「殺す気なんてなかったんだ!!
ほんのちょっと魔が差しただけなんだ!!
なのに何で……、何でなんだぁぁぁぁぁああ!!!!」
「ふん、罪の意識に耐え切れなくなって壊れたか……。
だが、まぁそれもよかろう。
楽にしてやる……」
ヴィルヘルムがハタヤマの元へ近寄ろうとする。
「……なんだその目は?」
アーヴィとなったハタヤマの瞳がヴィルヘルムに鋭い眼光を浴びせる。
「何で僕達をこの地に召還したんですか?」
それは本来のハタヤマの目的。
「放送で言ったはずだ……」
特に気にかける様子もなくヴィルヘルムは、単調に答えた。
「本人の意思も関係なしに!?
あんたのやってる事だって、ぼくと何が違うっていうんだ!!
ただ自分の欲望の侭に、力がある事をいい事にやろうとしてるだけじゃないか!!
そんなあんたに説教をされる覚えも、期待をかけられる覚えもない!!」
爆発したヴィルヘルムに対するハタヤマの怒り。
「欲望などではない!!
余は常に全ての事を考えている!!
魔法溢れる素晴らしい世界、全ての物が魔法の恩恵を受ける世界!!
壮大な信念に基づくものだ!!」
「嫌がる人を無理矢理召還しておいて良く言う!!
……そうだ、そもそもあんたが召還しなければこんな事にはならなかったはずだ!!」
ハタヤマの人格が……どんどんと音をたてて崩れ、暗い闇へと染まっていく。
「何を言うか。 元の世界でも同じような事をしていたではないか。
その報いがようやく来ただけのこと。
余にその責任を押し付けると言うのはお門違い。
全ては貴様の心の弱さが引き起こしたモノ」
「うあああああああああああわぁああああああああ!!!!!!!!!!!!」
心の弱さ。
その言葉にハタヤマの精神は大きく衝撃を受ける。
「違う!! ぼくだって望んで毒を受けたわけじゃない!!
ぼくだけのせいじゃない!!
たまたまなんだ、偶然が重なり合ったんだ!!」
「違うな……、貴様は一時の誘惑に負けたのだ。
その結果が今ここにある。
現実を直視しろ!!」
「直視してる!!
だからぼくは罪を償う為にアーヴィちゃんになったんだ!!
ぼくの心の弱さが原因なんだ!!
それをぼくが抑えれれば、良かったんだ!!
だからぼくは罪を償っているんだ!!」
「罪を償うだと? それの何処が罪を償う事だというのだ……。
ただ貴様が自分を納得させる為だけに、誤魔化してるにしか過ぎん!!」
「うるさい!! あんたにはそれを言う資格はない!!
ぼくは償うんだ!! そうだ……アーヴィちゃんの為にも、
彼女の為にも、あんたを倒してこのアーヴィちゃんを元の世界帰すんだ!!」
以前、アイと戦った時とは比べ物にならない程の
憎悪による負の感情がハタヤマを包み込む……。
「うあぁあああぁあああああぁあ!!!!!!!」
どす黒い闇が、ハタヤマの身体を包み込む。
「メタモル魔法か!? だがこれは……!?」
黒い靄がやがてハタヤマの身体から内に入るように引いていく。
「ぬぅ……。 ばっ、バカな!!」
ハタヤマは……、完全なアーヴィとなっていた。
ただ優しく温和であった本物と違い、冷酷な魔女と言う形容詞が相応しい暗いイメージしか漂って来ない。
聖ではなく、別の人間に完全に化ける……。
ヴィルヘルムを倒す為に無意識の内により強い完全な姿を取ろうと思ったのか、
はたまた憎悪と苦しみと言う負の感情より生まれた現象なのか。
ハタヤマの心がメタモル魔法に影響を与えたのか、ありえない事態が起こっていた。
本来、メタモル魔法とは、種族に化ける事が可能な魔法であり、
この人物と言う特定の対象には化ける事ができないのだ。
聖は、純粋にハタヤマが人間になった姿だからできたのだ。
それ故にハタヤマがアーヴィに変化した時、それは不完全極まるものとなったのだ。
ヴィルヘルムとて、アークデーモンを強化した亜種に変化するのが限度であり、特定の人物には無理だ。
「くっ、こんなことがあり得ると言うのか!?」
長年生き続け、自らもメタモル魔法を極めたヴィルヘルムですら、見た事ない。
過去に前例のない特定の人物に変身すること。
「流石は余が目をつけただけの事はあるということか……」
「お前を倒して、ぼくは……いや、私は元の世界に帰る!!」
「止むをえん……、ここでは、場が狭すぎる。
屋上へ場を移すぞ、ついてこい!!」
光に包まれ、ヴィルヘルムは、要塞の屋上へとテレポートする。
「逃がさない!!」
対するハタヤマも彼の後を追い、窓から屋上へと飛び出る。
「来たか……」
テレポートした事により、一足早く屋上へとついたヴィルヘルム。
「殺す!!」
遅れて、窓から飛び上がってきたアーヴィのとなったハタヤマ。
「行くぞ!! メェタァモォル!!!!!!!!」
ミュラ達と戦った時の、悪魔と言うに相応しいアークデーモンの姿へとヴィルヘルムが変化する。
「さぁ、こいハタヤマ!!
貴様の全てを打ち砕いてやろうではないか!!」
「私は……、もうハタヤマじゃない!!」
ハタヤマの手から、ファイヤーレーザーが放たれる。
アーヴィが使っていたものだ。
いまや、ハタヤマは形だけならば、アーヴィと何ら変わりない。
「ぬお!? だがその程度の威力では余の魔法障壁を打ち破る事は不可能!!」
ヴィルヘルムの魔力の込められた右腕が振るわれ、ハタヤマの魔法を相殺する。
「まだまだ!! ライトニング!!」
「させるか、リフレクション!!」
ヴィルヘルムに向かって放たれた雷が、彼の目の前に浮かんだ透明な壁によって跳ね返される。
「ぐぅ!?」
自らの放った雷を食らい、アーヴィの服と身体に焼け焦げができる。
「所詮、偽りの姿よ!! 死ね!! ソニックインパクトォォォ!!」
ハタヤマが痛みから脱出する前に、ヴィルヘルムは追撃の魔法を放つ。
その時、アーヴィの身体からバリバリと電撃が溢れ出した。
「いかん!!」
アーヴィから、ヴィルヘルムへ向かって特大級の雷の塊が放たれた。
受けた雷を利用して体内電気、エレキ・バーストの威力を高めたのだ。
ヴィルヘルムの魔法をそのまま粉砕し、彼めがけて一直線に直撃した。
「ぐぅ!!」
咄嗟に防御魔法を張り、半減させたとはいえ、流石のヴィルヘルムもたじろいた。
「止めだ!! スターシュートだあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
アーヴィの両手から……、ヴィルヘルムがヒーローに止めを刺したあの脅威の魔法が放たれる。
「ぬおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉ!!!!!?????」
光の流星が、ヴィルヘルムを包み込む。
ありったけの魔力を今の一撃に注ぎ込み、力の続く限りハタヤマは打ちつづけた。
「はぁはぁ……、やった!?」
要塞の天上、足元の瓦礫が粉々に打ち砕け、そこには大きく穴が開いていた。
煙が舞い上がり、よく見えないとはいえ、そこにはヴィルヘルムの姿らしきものはない。
「やった!! やったんだ!! ぼくはやったんだ!!」
アーヴィとなった彼の顔に喜びの表情が見える。
「後は、この姿のまま帰るだけだ……。
そして、ぼくは罪を償うんだ……」
よろよろと歩きながら、ハタヤマはその場を去ろうとしたその時、
「残念だったな……」
殺したはず!? そう思った人物の声が後ろから聞こえてくる。
「あ、あ、あ、あ、……」
煙の中から、ヴィルヘルムがゆっくりと姿を現してくる。
「くそぉおおおお!!」
やけくそに残り少ない魔力で放てる魔法を叩きつづけるハタヤマ。
だが、ヴィルヘルムは平然と歩いてくる。
「く、くるな、あっちへ行けぇ!!」
少女の姿を偽った獣が死を恐怖して怯えている。
ヴィルヘルムの瞳にはそう映っていた。
「効かぬ……、効かぬのだよ」
目の前には、今まで受けた魔法のダメージが全く見えないヴィルヘルム。
今まで受けたダメージは、回復魔法により治療されていた。
迫り来る彼の恐怖に負けたハタヤマは腰が抜け尻をつきながら、姿がしぼんでいく。
魔力を使い果たし、アーヴィの姿を維持する事ができなくなったのだ。
「確かに素晴らしい力だ……。
余が目をつけただけはある」
「あう……」
元のハタヤマの前に立つヴィルヘルムが語り始めた。
「だが、所詮は自らの欲望の力、まやかしの物でしかない。
余のような何かのために、全てを掲げて使われているものではない。
貴様と余の決定的な力の質の違いはそこだ!!
現に貴様は、戦いの最中、彼女である事を捨て、自らを曝け出した!!」
どれだけ曲がっていようとも、間違っていようとも、
ヴィルヘルムの力は、紛れもなく魔法のために、それを人々のために、
彼の確固たる信念に基づかれた力、前へ進もうと言う希望の力。
ただ己の欲望から罪から逃げるためでしかなかったハタヤマの力では届かなかったのだ。
「終わりだ……」
ヴィルヘルムの手にゆっくりと魔力が込められる。
(殺される)
ハタヤマがそう思った時、彼は罪の意識に動かされ再び立ち上がろうとした。
「ぼくは、この姿で死ぬわけにはいかないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
再びメタモル魔法でアーヴィの姿へと変化をしようとする。
「この時を待っていたのだ!! その魔法封じてくれるわ!! レッド・カース!!」
魔力の込められた総帥の手より、呪韻が浮かび上がり、アーヴィの姿へなろうとするハタヤマにまとわりつく。
「そ、そんな、そんな、そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハタヤマの最後の力もむなしく、メタモル魔法は封じられ、彼は元の姿のままと言う現実を突きつけられた。
「ふん!!」
ヴィルヘルムのきつい一撃が元の姿になったハタヤマに浴びせられる。
「ぐぇ!!」
衝撃を受けたハタヤマは、そのまま意識を再び失う。
「ケルヴァン!!」
メタモル魔法を解いたヴィルヘルムが魔将の名を叫ぶ。
「お気づきでしたか……」
屋上の扉の向こうから、ケルヴァンがゆっくりと姿を現した。
「持っていけ……」
「ありがとうございます」
近寄り、気絶したハタヤマを受け取るケルヴァン。
「しかし、本当に宜しいのですか?
貴重な人材を私に直に頂けるなど……」
「殺す価値もない……それだけだ」
「解りませんね。
まぁ、私にとっては有り難い事でしかありません」
ぽつ、ぽつ。
上空から小雨が降り注いでくる。
「おっと、濡れるのは宜しくない。
それではお先に失礼させて頂きますよ……」
ハタヤマを抱え、先に要塞内へと戻っていくケルヴァン。
「雨か……」
まるでヴィルヘルムの心を物語っているように小雨が降り注ぐ。
少しの間、彼はそこへ立ち尽くした。
……小雨は申し訳ないようにほんの一時降り注いだと思うと直ぐに晴れてしまった。
「また当分、瞑想し続けなければな……」
テレポートを使わずに彼はゆっくりと歩いて元の部屋へと戻るのだった。
(代償か……)
余談だが、ちゃんと風邪ひかないように服を着替え、総帥の間にストーブが持ち込まれたという。
【ヴィルヘルム・ミカムラ:所持品なし、状態△ 鬼 行動方針:瞑想に耽る】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 状態○ 鬼】
【闘神ユプシロン:所持品:通信用水晶内蔵 状態○ 鬼 行動方針:中央の守護 備考:移動範囲が中央から結界維持装置付近まで】
【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態×(気絶) 招】
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