男三人






さて、ここで少し時間は遡る…

全体放送も終わりケルヴァンは自室で策を巡らせていた。
(あれを・・・試してみる頃合か)
ケルヴァンは、一つ策を弄する事にした。
ケルヴァンの隠し玉とも言える物を使って・・・
(あれの束縛に耐えうる強靭な精神力を持つ者はあまりいないだろうが・・・)
覇王となるべき者の精神力を試す試金石。
束縛に負けてしまえば墜ちるだけだが、束縛を跳ね除け完全にコントロールできたならば覇王の資格あり、という事になる。
(人とは目的の為には驚くほど強くなるからな、あの者達が適任だな)
候補者が多すぎた時の為の選定装置としての役割ではあったが、今となっては資質者をこちらに取り込むのは相当困難であるといえる。
初音、新撰組が派手に暴れたのでこれに関わった者達等は特に協力しない可能性が高い。
しかしケルヴァンにとってはそういった者の方が好都合である。
美希のようなしたたかな者もいいが、他人に従わず覇道を突き進むタイプの者も悪くない。
(候補者は大くて困る事はないのだからな・・・。それに下手な者に渡すよりはましというものだ。
上手くいけば初音を……番狂わせがある事を期待したいものだな)

「ずいぶん手馴れてるな…」
あっさり火を熾して見せた透に、麦兵衛は素直に感心する。
「これくらいできないと人としての楽しみを満喫できないよ」
脱出が失敗した時こそ表情が変わった物の、それ以外の時は常に無表情である。
こういう言葉を無表情に言われても反応に困るのだが…。
「どういう事だ?」
「すぐにわかるよ」
相変わらずのポーカーフェイスではあるが心なしか声は弾んでいるように聞こえる。

「あ、まひるさん。もう大丈夫なんですか?」
「うん、もうぜんぜん平気だよ」
まひるはガッツポーズを取り平気なのをアピールする。
「あ、キャンプファイヤーだ〜。う〜ん、あったか〜い」
「まひる。もっと暖かくなる方法があるけど知りたい?」
「え、本当?知りたい知りたい!」

「じゃあ脱ごうか」

「………」
「あう……なんていうかその透の事は嫌いじゃないけどその…あたしには決めたひとが……
いやそうじゃなくて。なんでそういう流れになるの」
「必然だから」
即答だよ、おい。
「ふふふ…覚悟を決めたまえ…」
「ぎゃー、イヤー!にじり寄って来ないで〜!そのあやしい手つきもやめて〜!」
やばいぞ、あたし。貞操の危機だぞ、早くこの場から逃げないと…
「やめんか〜!」
透が怒号と共に放物線を描いて空に舞った。
……なんか鈍い落下音がしたけど気にしない方がいいのかな。
「ハ、ハレンチな!ハヂをシレ!!」
ああ…麦兵衛君ありがとう。おかげであたしの貞操の危機は去りました。
「いいパンチだ、さすがだジョー」
化け物かこいつは。しかも台詞棒読みだし。あとジョーって誰…?
「透…いくらなんでもこの状況で悪ふざけが過ぎやしないか」
ああ、麦兵衛君がいてくれて本当によかった。これであたしは透の魔の手から解放されるんだね。
「別にふざけてるわけじゃないんだけどね…」
透は痛たなんていいながら立ち上がる。
「そもそもまひるが寒いのは服がまだ濡れているからだよ。だから脱いで乾かせば暖かくなる。何も間違った事はしていない」
そっか、さっきの頭痛で忘れてたけど、あたし達の服ってずぶ濡れなんだっけ。
「そういう事だから脱ごうか」
「だからなんでそうなるの」
まずい、なんとか流れを変えないといずれは貞操が奪われる。
「とは…いっても透。まひるさんは嫁入り前の女性だし…俺達は席をはずした方がいいんじゃないか…」
あれ?麦兵衛君顔が赤い。
いや、気持ちはうれしいけどあたしはもっと年上の方が好みというか……いや、だからそんな事言ってる場合じゃないってあたし。
「そうか、牧島は知らないのだったか。じゃあ既にまひるが嫁に行けない体だという事を教えてあげよう」
「と、透、貴様!まさか…嫁入り前の女性に…ハヂをシレ!」
麦兵衛君のフックをあっさりスウェーで避ける透。
「ふふふ、来るとわかってるなら避ける事などわけはない…それに心なしか手加減したように思えるけどね」
「そ、そんなことは断じてない!」
どう言っててもやっぱり男の子なんだねぇ…うんうん。
「じゃあ牧島も反対してないようだしさっさと脱いでしまおうか」
……和んでる場合じゃなかったね、再び貞操の危機が!
「よいではないかよいではないか」
「あ〜れ〜」
「……」
はっ!ついノッてしまった。麦兵衛君がやる気をなくしてる!
あたしの本心をアピールしなければ…
「いや〜助けて〜〜お〜か〜さ〜れ〜る〜」
「……なんか楽しそうだし静観した方がいいのか」
うを!逆効果だし!
「年貢の納め時だね」
「ひ〜ん、断固として嫌だって言ってるのに〜」
「では牧島にまひるの真実を見せてや」

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

「なんだ?」
「チャイム……こんな島で?」
ああ、天の神様ありがとう。なんか知らないけど助かりました。

「まひる、この放送をどう思う?」
背後で声が聞こえる中、透があたしに意見を振ってくる。
「あんまり好みのタイプの声じゃないなぁ…さすがにもう少し若い方が…いや、そうじゃなくて。
放送部として言わせてもらえれば、BGMくらいは使った方がいいよね、それに機材の調子が悪いのかな?響きが……」
『………』
あれ?二人してなんで黙ってるの?
「あはははは。ああ、ごめん、もう大丈夫そうだね」
透…その反応は一体……急に笑われてもわけわからないけれど……
でも……(もう大丈夫そうだね)。
気を使ってくれてたんだね。ありがとう……

声が止んだ、放送は終わりらしい。
あたしはまったく聞いてはいなかったけど、内容は透に聞けばいいか。


「うん、きっといい人だよ」
ズガッ!
透の秘伝の突っ込み(チョップ)が炸裂する。
「いひゃい…」
「牧島はどう思う」
まひるには(案の上)聞くだけ無駄だと判断した透は呻くまひるを無視して話を続ける。
結構本気で叩いたのでしばらくは復活しないだろう。
今のうちに方針を決めてしまった方がいい。
「一部の者の行き過ぎた行為か…」
「さすがに信用しろというのはね…」
明らかに初音は最初から不要な者は処分するように動いていた。
初音の所業を目の当たりにした彼らにそれを信用しろと言っても不可能である。
(しかし…中央にひかりさんがいる可能性があるのか)
「牧島」
「ん…?どうした?」
「あせっても仕方ないぞ」
(顔に出てたかな…)
確かにあせっても仕方がない。
透がいなければ今すぐにでも中央に向かっていたかもしれない。
「時に牧島…僕は変わりないか」
妙な事を聞くものだ…
「変わるも何もその微妙に間延びした声と無表情がどうやったら変わるんだ?」
「そうか…顔にでてないうちは大丈夫だな…」
(そういえば透も知り合いを殺されたんだったな…)
先程の透の言葉は互いに焦って先走るのを見張る役目としても、誰かと行動したいという意味だったのだろう。
「せめてあの女を倒せる力があればね…」
「ああ…せめて武器でもあればな…」

「力が欲しいか?」
突如した声に麦兵衛は声の方を見る。
「誰だ!?…白い鳩?」
透は無言で手に持っていた薬品を鳩に垂らした。
ボンッ!
小気味いい音と共に爆発が起きる。
「透…動物虐待はよくないよ」
「只の動物ならこんな事はしないんだけどね」
「いきなりご挨拶だな…」
鳩はなんとか薬品を回避したようで、体勢を立て直すと取り繕うように言った。
「平和の象徴が何か物騒な事を言ってるな、と思ってね」
「先制攻撃したのはそちらだろう…それに私なら比良坂初音を倒せる力を知っているのだ。欲しくはないかね…力を!」
「お前…なぜ初音と俺達の事を知っている?」
「私には人の未練、悲しみ…そういったものが聞こえるのだ。君達にも聞こえるだろう?殺された仲間の無念が!慟哭が!
悲しみが!…恨みが!!」
「恨み…」
「そうだ…私なら無念を…恨みを…晴らす方法を知っている…その力を…知っている」
「力…」
うわ言のように繰り返す言葉はもはや誰の声か定かではない。

「かかったな…」
ケルヴァンは自室で邪悪な笑みを浮かべていた。
(私とて初音の暗示程ではないにせよ、これくらいの事はできる。上村雅文は失敗したからな…今回こそは)
「さて…そろそろ最後の詰めだ」

「ここより南に建物がある…そこにある剣をとれ。それがお前達が初音を倒せる力…」
「力…倒す…初音を…」
「駄目だよ…透!麦兵衛君!」
突然それまで沈黙を保っていたまひるが叫んだ。
(何?なぜこいつはかかっていない?)
そう…ケルヴァンは知らなかった事ではあるが…まひるは人の話を聞かない性格だった。
それゆえ催眠が効果を発揮していないのだった。
「俺は…何を?」
「む…嵌められたね」
麦兵衛と透がケルヴァン(姿は鳩だが)を睨みつけた。
「くくく…まさかしくじるとはな…しかし覚えておくがいい。お前達が初音を倒す方法は私の言った力を手にするしかないという事を…」
それだけ言うと白い鳩は自らたき火の中に身を躍らせる。

鳩の残骸だけが残り、火は消えてしまった。
もっとも長話のおかげですっかり服は乾いているが。
「潔いというかなんというか」
「付き合いきれないね…しかし今回はまひるに助けられた」
「いやー、あたしが蟹さんと遊んでたらあんなんだもんびっくりしたよ〜」
麦兵衛と透は思わず笑ってしまう。
「行ってみるかい?」
一通り笑った後透は確認するように言う。
「さすがに罠にかかるつもりはないな…」
「うんうん。他の人達を探して協力すればなんとかなるって」
三人は改めて方針を確認した。
「じゃあ誰かに会える事を祈りながら適当に前進!」
まひるは元気よく一歩を踏み出した。
「そっちは海だよ、まひる」

【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(バジル)招 状態○ 所持品なし】
【遠葉透@ねがぽじ(Active)狩 状態○ 所持品 妖しい薬品】
【広場まひる(天使覚醒状態)@ねがぽじ(Active)招 状態◎ 所持品なし】

【全体放送後〜112話:「魔法じかけの人形」の前】



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