ぼくたちの失敗






「はぁ…」
「姉様、心配していらっしゃるだろうな」
奏子は初音がこの地にいることはまだ知らない、ただケルヴァンに
「悪いようにはしない、比良坂初音の無事を思うのならば、大人しくしていることだ」
と言われただけだ。
もちろん直感的に(姉様が何か良からぬことに巻きこまれている)とは思ったのだが…。
奏子はここに入るときのことを思い出していた。
「ここに…入るんですか?」
目の前に吊り下げられた巨大な鳥篭を見て奏子は首をかしげる。
「そうだ、私が開発したこの籠はあらゆる防御効果に優れている、これも君の安全のためだ」
「でもどうして、こんな形なんですか?
「これが1番効果的なのだ」
しかし奏子は疑いの目をケルヴァンに向ける、自分がいわば人質なのは理解できてるが、
この扱いは抵抗がある。
だが、ケルヴァンはそこで奏子にダメを押す。
「いやなら座敷牢にでも入るか?」
それは本当に人質扱いにしてやると言っているも同然だった。
「鳥籠でいいです…」

その時だった、いきなり目の前で光がスパークしたかと思うと、そこには見知らぬ誰かが立っていた。
獣のような耳が印象的な少女だ、だが、もの静かそうな外見には似合わない無骨なトンファーを、
両腕に装着しているあたり、やはり只者では無さそうだ。
「ここはどこですか?」
「え?」
いきなりの事態に対応に困る奏子だったが…そっと少女の目を見つめる。
(怖そうだけど、この人の目にはあいつらのような濁りは無いそれどころか…だったら)
何か思うところがあるのだろう、奏子はそっと籠の隙間から紅茶を差し出す。
「まずは…お話しませんか?」

「さて」
ここで時間は少し遡る。
ケルヴァンは冷たい瞳でカトラとスタリオンを見つめる。
「お前たちには懲罰が必要だな・・・恥さらしどもめ」
単純に戦って敗れたのならば咎めはしない、しかし敗れ方が問題だ、
こともあろうに女を手篭めにしようとして、返り討ちにあうとは!
ケルヴァンのようなタイプの男にとってそれは許しがたい破廉恥な行為に他ならなかった。
彼は必要とあればいくらでも非道な計略を実行できる男だったが、反面、
意味もなくそのような行為を行うような男では決してないのだから、まぁ善良で慈悲深いわけでもなかったが

「こっちに来い・・・」
二人の縛めを解いてやったケルヴァンは自分の後に続くように促すと部屋を退出していく。
恐る恐るその後に続く二人。
「俺たちどうなるんだ・・・」
小声で話すスタリオン。
「そりゃあ・・・殺されるんでやんすよ」
「冗談じゃねぇぞ、小娘の1人犯そうとしたくらいでなんで死刑にならなきゃならねんだよ!」
しかし血の匂いが刻一刻と強くなっている、これはヤバい。

「逃げるっきゃないでやんす」
小声で呟くカトラ
「逃げるって何処にだよ、それに逃げたところで・・・」
「いーい考えがあるんでやんすよ」

などと不穏な相談をしている2人にはまるで気がつかないケルヴァン、やがてとある部屋の前に到着する。
「とりあえずだ、この部屋をきれいに掃除してもらおうか、それから・・・」
ケルヴァンはそのまま振り帰らずに用件を淡々と話す、が返事が無い…。
振り向いたときには脱兎のごとく逃げ出す2人の姿が映っていたのであった。


「おい!本当に勝算があるんだろうな!!」
廊下をどたどたと走るスタリオンとカトラ
「この先に絶対入るなって言われてる部屋があるんでやんすよ、それと実はもう1つ〜」
「おう!そりゃ女囲ってるに決まってらぁな、よっしゃ!人質にしてここから脱出だ!!」
俄然元気になったスタリオンはカトラを置き去りに猛然とダッシュしていくのであった。

そして残されたケルヴァンだったが。
「あの、馬鹿どもが・・・」
出来るだけ穏便に事を済ませようと思っていたというのに・・・いかに歴然とした反抗の証拠があれど
それを防いだのがあくまでも彼の私兵たる神風では、やはり痛くも無い腹を探られかねない。
だから彼らにはその隠れ蓑になってもらう予定でもあった。
つまり神風の立てた手柄を、彼らの手柄として報告する。
そうすればあらぬ疑いを掛けられる可能性は格段に減るし、口止め料にもなる。

しかし実行司令官たるケルヴァンの命令に公然と背いたとなれば、その事情や彼自身の見解とは関係なく
処断せねば示しがつかない。
ここで引き下がれば舐められる。
つまり彼らは自分で自分たちを窮地に追い込んでしまったのだった。

「で・・・これは私が片付けるのか?」
ケルヴァンは部屋の惨状を見てため息をついた。
こともあろうにそこは彼の寝室だった…。

もちろん荷物は後で運び出すとして、それでも部屋は片付けなければ何があったのかと、
やはり痛くも無い腹を探られる。
神風に清掃などという芸当ができるとは思えないし、
どこの馬の骨とも知れぬ闇魔法学会の連中たちが大半を占める中で、本当に信頼できるわずかな部下たちには
それぞれ重要なポストを任せている、死体だけは片付けてもらってはいるが、
本来こんなことをやらせる余裕は無い。

数だけ多いメイドどもは口が軽すぎる、こんなところを見られれば数日後にはケルヴァン様は、
新種の病原菌を開発して世界を壊滅に導こうとしているなどと根も葉もないうわさが広まっていることだろう。
だから奴らに手柄という形で口止めをさせて、こっそりと後始末をさせようと考えていたのに・・・
ケルヴァンは改めて自分の寝室を見る、入り口のドアの前にはだれがやったか知らないが死体の跡が
白チョークで描かれており、床といい天井といい血痕が生々しく、しかも壁には大穴があいている。
「自分でやるしかないのか・・・」

(それにしても奴ら…まさかあの場所を知っているはずはあるまいな、行った先が深山奏子の部屋ならば
 半殺しにして営倉入り程度で許してやれるが、あれを見られるようなことがあれば…)
「生かしてはおけんな…」

「ケルヴァン様!お耳に入れたき事が!」
「モノローグの最中にいきなり声をかけるな!こけるだろ!それにお前の持ち場はここではないぞ!」
いきなりの声に一瞬びくっとするケルヴァン。
「召喚装置の誤動作が発生、すでに1名がこの地におりたった模様」
ケルヴァンの配下はどなり声にも頭を下げず、事務的に用件を告げる。
「何?それは問題だな、で…場所は特定できるか?」
「ですからここです」
「何だと?」

そして…例の開かずの部屋の中では、
ティータイムの最中に突如として現れた馬面の男をみてきょとんとしている奏子と凶アリア…
そしてその姿をみるなり、
「ケルヴァン…あいつは…あいつは…ロリータ軍師だったのかぁっ!!」
全然わかっていないスタリオンだった。

「しかもこれが緑色の髪の振るいつきたくなるようないい女でやんしてねぇ」
そしてカトラは未だに追いついていなかった。

【スタリオン@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし】
【カトラ@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし】

【凶アリア@デアボリカ(アリスソフト) ? 状態○ 所持品:トンファー】



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