誓いより強きもの






「今日子、あまり無理すんなよ」
「何言ってんの!!光陰こそへばるんじゃないわよ!・・・って言ってもあんたに限ってそれはないわね〜」
空虚の呪縛から開放された今日子は自我を取り戻した。
光陰の『因果』にも空虚の反応はしない。
(空虚に何があったのか・・・魔力にも食い合わせって奴があるのか?)
いまだに空虚の不気味な沈黙に奇妙な不自然さを感じている光陰であったが、その事は頭から振り払う。
(今日子が自由になったんだ。何を迷う事があるんだ・・・もう今日子は人を殺さなくてもいいんだから)
光陰は並んで歩く今日子の様子を少し観察する。
普段から活発でお転婆娘と呼んでも差し支えないであろう今日子ではあるが・・・今の彼女にはどこか無理をしている雰囲気がある。
(あえて普段以上に明るく振舞ってる・・・そういうことなんだろうな)
これから行く場所とそこですることを考えればある種当然の行動なのかもしれないが。

今日子の提案を聞いた時、行くべきかどうか光陰は迷った。
そしてその場所に近付きつつある今ますます光陰の心は揺れている。

スパーン!!

「ってぇ!いきなり何するんだ」
突如光陰に今日子のハリセンが炸裂する。
「なんて顔してんのよ・・・らしくないじゃない。
あんたはいつも通り憎ったらしいくらい余裕の顔してればいいのよ!でないと・・・」
今日子のハリセンが振りあがるのを見て、光陰は習性で咄嗟にハリセンに対して身構える。
しかしハリセンの音は響かず・・・

(不安になるから・・・)

今日子の小さな声が聞こえただけだった。


「それに・・・あたし全部覚えてるからね・・・マナの塵に変えたスピリット達、この世界に来て最初に殺してしまった女の人、
あのおやじ、・・・さっきの男の人」
今日子の表情には後悔の念が浮かんでいる。
「今日子・・・お前本当に大丈夫なのか・・・別に行く必要なんかないんだぞ」
「あたしはやった事をちゃんと見ないといけないの・・・その行動があたしの意思じゃなかったとしても。
この手に残ってる感触はまぎれもなく本当にあったことなんだから・・・
空虚の束縛が解けた今、あたし自身の気持ちを整理しないといけない」

そう・・・今日子の言った場所とは、高円寺沙由香の遺体がある廃墟なのだった。

だから光陰はまだ迷っている。
今日子は光陰が知る限りそんなに強い精神を持っていない。
自分のした事を改めて直視することで今度こそ精神が完全に壊れてしまうのではないか?その懸念は頭の片隅に付きまとっている。
しかし・・・このままではいずれ今日子は罪の意識に苛まれやはり壊れてしまうだろう。
(偉そうなこと言っといて・・・俺は結局何もしてやれないのか)
あの時───今日子を守る誓いを立てた場所に再び戻ろうとしている。
光陰は『因果』の刀身に映る自分の顔を覗き込む。
(あの男・・・八雲だったか。俺と同じ目をしてやがったな)
その目は愛する者を守るために不器用な手段しかとれない人間の目であった。
(あの男は・・・守れたのだろうか?)
八雲辰人の最後の顔は・・・未練を残したものではなく何かをやり遂げたような、そんな清々しいものだった。
だからあの男はきっと守りきったのだろう。
(俺は・・・今日子を守れるんだろうか)

「ねえ・・・光陰?」
今日子が光陰の様子を見て声をかけて来る。
(・・・なにやってんだ俺は。今日子を不安させてどうするんだ!!)
「・・・る・・から」
「え?」
今日子の声は余りに小さく・・・光陰の耳には一部分しか聞き取れなかった。
今日子は意を決したのか今度ははっきりと
「全部・・・覚えてるから。あたしが人を殺した事も・・・あんたが言ってくれた事も」
「今日子・・・お前・・・ってぇ!!」
光陰の言葉を途中で遮って今日子のハリセンが振り回される。
「とろとろ歩かない!さっさと行くよ!!」
今日子は叩くだけ叩いて、早足で光陰を追い越して先に突き進む。

この調子ならきっと大丈夫だろう。
もし・・・一人で背負えきれない罪なら二人で分ければいい。
何をしても今日子を守る。
その一方的な誓いは、今約束になったから。

【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『因果』】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『空虚』(意識は無貌の神)】



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