策謀の城
ケルヴァンは部下がリニアの残骸を片付けているのを眺めていた。
(少々判断を急ぎ過ぎたか・・・?)
あのまましばらく放置しておけばヴィルヘルムに対する当て馬として使うことくらいはできたかもしれない。
しかしリニアが彼らの仲間にいたことを考えると自分の事は明確な敵として認知されており、
その認識を覆す事は相当困難であったに違いない。
そもそもリニアはヴィルヘルムの部屋は知らなかったが、ケルヴァンの部屋は知っていた。
結局こうなるのは時間の問題だったともいえる。
(結界の力で初音の蜘蛛を避けていたのがこのように裏目に出るとはな・・・)
初期の段階でこの事態を把握していれば、もう少し策を練る時間もあったのだが、ケルヴァンが状況を知った時には既に手遅れであった。
(ヴィルヘルムの目をこの件に向ける事ができるのが幸いと言った所か・・・。細工が露見しては元も子もないからな)
突然───ケルヴァンの体から力が抜ける。
(何だ───!?)
咄嗟に傍の壁に背中からもたれ込んで自重を支える。
気がつくとケルヴァンは息が上がっているのが分かった。
大きく息を吸い込み───ゆっくり吐き出す。
幸い、周りの部下達には気づかれていないようだ。
(やはり少し無理が過ぎたか)
ケルヴァンはリニアだったものの残骸を見ながら溜息をついた。
(魔獣と言っても代償なしで創造することなどできぬ・・・神風に力を割きすぎたな)
闘神ユプシロンに対抗するために、創造した神風はユプシロン程ではなかったが、かなりの戦闘力を持っていた。
(しかしこれほどまでに力を消耗することになるとは・・・それに召還装置にした細工もかなりの魔力を消耗した)
一時的にとはいえ、只でさえヴィルヘルムや初音に比べ劣っている魔力を消耗するのは、
ケルヴァンにとって本来得策ではないのだが・・・
(この状況ではそのリスクもやむなし、か)
そもそも本来ならばリニアはケルヴァンの持つ切り札の一つであった。
ヴィルヘムルと本格的に相対することになった時に古代魔道兵器「ゾルガッシュ」に改造し手駒となるはずであったのだが・・・
(結界内に召還者が出現するなどという事があるとはな・・・)
そして召還者に情をかけ、ケルヴァンと敵対した。
(和樹の監視を強化しておく必要があるな・・・リニアの二の舞というわけにもいかん)
いざとなれば一度記憶を消去する準備も必要であろう。
表面では取り繕っているが、ヴィルヘルムとケルヴァンは実質敵同士となっているようなものだ。
(これ以上手駒を失う訳にはいかんしな・・・)
今ケルヴァンの指揮下にある信用できる駒は神風、和樹の2人しかいないのだ。
そして和樹は解明できていない部分が多すぎて信用しきれないのも事実だ。
(あの魔力保持者の娘共がもう少し才覚があるのであればな・・・今の段階では足手纏いしかなるまい)
(それとこれからあの男がどう出るかだな・・・)
幸い───今回リニア諸共、魔力保持者を殺害したことに関してはヴィルヘルムから文句がでることはないだろう。
(事実、我々の意思に──いや、ヴィルヘルムの意思に逆らったのは間違いないのだからな)
今回は追及されないだろうが、これからも同じ事が続くのであればヴィルヘルムも黙ってはいるまい。
(早めに例の死者の記憶を読み取る力に対しての対策をしなければな・・・)
とは言っても既にケルヴァンに算段は整っているのだが。
ヴィルヘルムが魂の力で召還装置を作動させれば、ケルヴァンが意図した人物を召還するように細工したのだ。
ヴィルヘルムが何も言ってきてもそれこそ装置の暴走、で話しがつく。
(こちらとてやられたままというわけにはいかないからな・・・そろそろ反撃開始といくか)
・・・それでもひとまずは休息だ。
(できれば私の魔力が回復するまで召還は控えて欲しいものだが・・・不確定要素に頼るとは私も墜ちたな)
【ケルヴァン・ソリード@幻燐の姫将軍1と2(エウシュリー )状態△(魔力消耗状態) 所持品 ロングソード 鬼】
【犬死せし者達の直後の話です】
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