一時を……






 廃墟となった民家……もとい古い建物へ向かう三人の姿があった。
 二人は鴉丸兄妹。
 羅喉に背負われた少女の名は、スイートリップもとい七瀬凛々子。

 「しかし、これは酷い有様だな……」
 凛々子を背に抱えながら、羅喉が言う。
 空より落ちてきた凛々子を拾った羅喉と雪は、近くの民家に姿を寄せていた。
 「ええ、まるで廃墟……」
 遠くから見た時では、気づけなかったが、町もとい民家は、荒廃していた。
 「だが、何か不思議だ……。
  寂れたという感じではない、まるで最初からこうであったかのように……」
 それもそのはず。
 その廃墟や港等は、世界創造の時のイメージとして紛れ込んだものが、姿を現したものである。
 更にこの時代で囲炉裏を囲う家ばかりなのは珍しい。
 まるで昔話に出てくる農民の家のようだ。

   なにはともあれ。
 二人は、手近な民家を選ぶとそこへ入り、凛々子を横にした。
 「鍋に薪……大分揃っているな」
 たまたま入った民家に揃っていたのかは解らないが、
 少なくとも、薪や昔ながらの調理器具はある程度家内の台所と思える場で発見できた。
 「お兄様」
 居間の方から雪の呼ぶ声がする。
 「どうした?」
 「大分潰れてぼろくなってますけど、布団を発見しました」
 「そうか、解ったそっちに行こう」
 囲炉裏にくべる薪を抱え、羅喉は、雪のいる居間部分へと行く。
 「これは、また見事な煎餅布団だな……」
 (ここは、江戸時代か?)
 と思いつつも、羅喉は、不思議と余り埃で汚れた様子のない布団を敷き凛々子を寝かせる。
 (一体ここはどんな世界だと言うのだ……)

 バチバチ。
 囲炉裏の周りに三人がいる。
 あいからわずまだ凛々子は、寝たまま。
 「お兄様、これからどうしましょうか?」
 火の前で身体を暖めながら、雪が羅喉へと話し掛ける。
 「取り合えず、食料さえあれば、暮らしていく分には不自由なさそうなのだが……」
 薪は限りがあるとはいえ、森へ出て行けば調達は可能だ。
 鍋と年代ものそうな包丁などもあった。
 辺りの民家も探したが、ないのは食料と水。
 水は、海に流れ込んでいる川の水が飲めるかもしれない。
 とすると目下の問題は、食料と言う事になる。
 だが、海もある。 森もある。
 浜大根でもいいし、丘ひじきだっていい。
 贅沢さえ言わなければ、困る事はないと思われた。
 一番の問題は、そんな事よりも、今彼らが置かれている現状を把握すると言う事だ。
 (私達、いや私を襲ってきた四人組……。
  彼女達は、一体何者だったのだろうか……)
 時代錯誤ないでたちをした四人の侍娘達。
 それと構成されているこの民家。
 (もしかして、本当にタイムスリップでもしてしまったのだろうか?)
 羅喉は、一瞬そう考えたが、波止場の様子は現代なのを思い出して、
いやいや、と首を振る。
 「どうしたものか……」
 何はともあれ、まずは、この露出の多い少女、凛々子が目を覚ますのを待つ事にしたのだが……。

 『メッツァー!! 覚悟しなさい!!』
 グレイブを掲げた凛々子が下魔達と戦っている。
 だが虚しくも、次第に身体をいいように弄られ、彼女は恥辱を与えられていく。
 『所詮、お前は私の玩具でしかないのだよ……』
 上魔に捉えられた彼女の前にメッツァーが冷酷な笑みと、
これから始まる凌辱劇に対しての高揚の表情を浮かべる。
 『例え、どんなに戒められようともあなたには絶対に従いません!!』
 『その言葉何時まで吐き続けれるか楽しみだな……』
 そこで彼女の見ていた夢は途切れた。

 意識の中で、凛々子は空間を漂っていた。
 光に飲まれ、不思議な意識の濁流に飲まれる。
 彼女は、この世界に辿り着く、元の世界で起こった事の夢を見ていた。
 やがて、夢は終わり、暗い過去から解放される。
 『私は、絶対に屈しない』
 『でも、受け入れてしまえば楽になる』
 『火村クン……』
 少女の思いと弱さ、クィーングロリアの騎士としての決意が、彼女の中で入り乱れる。

   どのくらいの時間が経っただろうか?
 『よくもよくもよくもよくもよヨクモヨクモヨクモヨクモ……』
 突如として、彼女の意識の中にドス黒い負の感情が流れてきた。
 『これは……!?』
 凛々子の中に鮮明に映る魔獣と一匹の少女の姿。
 『アーヴィちゃんをアーヴィちゃんをアーヴィチャンヲ』
 魔獣の意識がダイレクトに彼女に響く。
 どうやら、あの少女が悪者で、あの魔獣にとって大切な人を、
アーヴィという人を傷つけられたのだろう。
 凛々子は、そう認識した。

 「雪、大丈夫か!?」
 羅喉が、頭を抑える雪の元に駆け寄る。
 「凄い負の感情……。 絶望と憎悪に満ち溢れる……」
 ハタヤマの黒い意識を受け取った雪。
 「しっかりしろ!! 自分を強く持つんだ!!」
 羅喉は、雪を抱きしめる事で、彼女の不安を少しでも取り除こうとする
 頭を抑え、ハタヤマの黒い感情に同調し、
また彼の苦しみを理解し、同情をする雪。
 (私には、感じられない?
  雪だけが感じ取れると言うのか!?)
 「お兄様、この人かわいそう!!」
 どのくらい続いただろうか?
 時間にすれば10分程であったが、二人には、
そして凛々子の意識の中でも大分長いように思えた。
 「……収まったか?」
 落ち着きを取り戻した雪の姿を心配そうに眺める羅喉。
 「……はい。 すみませんお兄様」
 「いや、いい……。 雪が無事な事こそ私にとっての喜びだ」

 ごそっ。
 彼女らの横で音がした。
 (敵かっ!?)
 構えをすかさず取る羅喉であったが、そうではなかった。
 彼らが音をした方へと向けた先、凛々子の布団。
 「ここは……」
 彼女が目を覚ましたのだった。

【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:なし 行動目的:雪を護りぬく】
【鴉丸雪@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 招 状態○ 所持品:グレイブ(凛々子の武器) 行動目的:兄についていく】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態△と○の中間(軽傷有り) 所持品:なし 】



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