DESIRE






突然の乱入者を検分する、初音とアル
とりあえず乃絵美を蝕んでいるのが強力な呪詛であることは一目見て分かった。
それが自分たちの操るものとは根源的に違う原理のものであることも…。
…だが、こんな強力な術を操れる者がいたのだろうか?
「原理としいては人間の肉体の許容量以上の力を強引に与える事で精神に負荷を与え
そしてゆくゆくは肉体もろとも崩壊させる、こんな感じかしら」
「あくまでも”力”を与えるというところが厭らしい手口だな、これでは被害者は認識できまい」
「ええ、腐っていく果実が腐ったことを認識できないのと同じように、そのことに最後まで気がつかないまま
消える事になっていたでしょうね」
ともかく解呪が先だ、見るとかなり進行が早い…このまま死なれては相手が誰なのかもわからない。
それにかなり上質の力を持っているのが見ただけでわかる、こんな美味しい獲物を逃す手は無い。
初音は心の中で舌なめずりして同時に今度は悪戯っぽくアルを見る、
この娘にもちょいと一役買って貰うとするか…。

「これだけではいかんともし難いですわ、後は本人に聞かないと、幸いにも力の質は似ておりますので、この娘から
 魔力を切り離し、肉体と精神の負荷を抜いてやれば自ずから元に戻るかと」
「呪詛返しか?、ならば手伝うぞ」
「で、その方法ですが」
と、いうなり初音はよろよろと起きあがり、乃絵美へとのしかかる。
「お、おい!いきなり何を!」
「これが1番効率のよい方法だというのは貴方もご存知ではなくって?」
古来、房中術というものもある、確かに人から人への力の受け渡しに最も適しているのは、
直接的な肉体の交わりをおいて他に無い。
「それに消耗した私たちの力も回復できて一石二鳥ですわ」

しかしアルにしてみれば、理屈ではわかるが倫理的に受け入れられる行為ではない。
「奏子に悪いと思わないのか!!」
「思わないわ、私が愛しているのはかなこ只一人よ、他の誰を戯れに抱いたところでそれは所詮戯れ、
 私の思いは揺るぎもしないわ」
そう断言されるとアルはぐぅの音も出ない、初音の言葉に嘘は無いと言う事を知っているのだから、
「それに貴方も我慢できないのではなくって?」
初音はアルの太股から滴る液体を見逃してはいなかった。

「そんなに妾を浮気の共犯にしたいのか?」
「大丈夫よ、心に定めた殿方は彼一人なのでしょう?心の操さえ守れれば身体なんて些細なことよ」
立場が逆なら…と言いかけてアルは考え込む、考えて見れば九朗も自分に隠れていい思いをしているではないか…。
だとすれば、自分も気持ち良くなって何が悪いのだろう?
それにこれは負荷抗力だ、目の前の少女を救うためのやむを得ぬ行為だ、それに失った力も回復できる。
「いいか!これはその娘を救うためだぞ!、断じてあらぬ悦楽にふけろうなどと考えてはおらぬからな」
そう言いつつも我慢できなかったのだろう、アルは初音を押しのけるように乃絵美にのしかかるのであった。

かくして行為は終わった、呪縛の解けた乃絵美はやすらかに寝息を立てている。
アルも初音もうっとりと頬を赤らめながら寄り添って眠っていた。

「九郎、妾を置いて逝くな!死ぬときは共に…」
が、いきなりアルはバネ仕掛けの人形のように跳ね起きる、寝汗で身体はぐっしょりと濡れていた…
何かものすごく悪い夢を見たような気がするが思い出せない…。

ともかくアルは自分の状態を確認する、力が戻っている…、そして傍らの初音は未だに眠りの中だ。
今なら容易く寝首を掻けるだろう、しかしアルは何もしようとはしなかった。
1度救った相手を倒す事などこの少女の考えには無かった。
それに、倒すのならば堂々と名乗りをあげた上での事にしたい、でなければこの誇り高き蜘蛛に失礼なように思えた。
(好色で残忍で冷酷で傲慢で…しかし憎めぬ、不思議な娘よ)
「かなこ…」
そんなアルの複雑な心境も露知らず、最愛の少女との睦み合いを夢見ている初音だった。

と、もう一つ起きあがる影がある。
それは初音の呪縛から解放された水月だった、彼女も眠りから覚めたようだった。
「あああああっ!!孝之ぃ!!」
だが水月は目覚めるなりいきなり悲鳴をあげ、そして手当たり次第に周囲を引っ掻きまくる。
まさに狂乱といってもよかった。
「どうしてよ!!どうして起こしたのよぅ!!」
泣き叫ぶ水月をやんわりと嗜めるアル。
「バカな事を…かりそめの幸せの中に逃避してそれが何になる」

「汝は立ち向かわなければならないのだぞ、その身体の中に宿る新しい命のためにも」
新しい命、その言葉を聞いた瞬間、水月は凍りついたように固まる。
「なんだ知らなかったのか?」
「ねぇ?どういうこと!!ねぇ」
「言ったとおりだ、汝の身体には赤子がいる、汝は母親となるのだぞ」
母親、という言葉にまたぴくりと身体を震わせる水月。

「生き抜いて元気な子を産まねばならぬな、子を産み、育むは我ら女の最大の喜びなのだから」
アルは水月の背中を撫でてやりながら、優しく水月に諭す。
だからアルは気がつかなかった、水月がとても危うげな笑顔を浮かべている事に…
「これで勝てる…ようやく…初めて勝てるわ…遙に」

【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:○(睡眠中) (鬼) なし 行動目的:休息】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状: ○ ネクロノミコン(自分自身) (招)行動目的: 休息(初音とは休戦) 島からの脱出】
【速瀬水月@君が望む永遠(age) 状態:○(狩) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた)
 行動目的 不明】
【伊藤乃絵美 @With you〜見つめていたい(F&C) 状態:○(睡眠中) 所持品:ナイフ 行動方針:不明 】



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