想いという名の痛み






合流地点になっている丘がうっすら森の向こうに見えた。
「大丈夫?休もうか?」
「あたしは平気よ、これくらい。」
額に汗をかきながらまいなちゃんが気丈に言い張る。
「わたしは・・・ちょっと休みたいかも・・・」
対照的にゆうなちゃんはもう限界みたいだった。
「ちょっと、ここで休憩しましょう。」
「そうですね。」
私と百合奈先輩は適当に場所を見つけると切り株に腰を下ろした。
それを真似してまいなちゃんとゆうなちゃんも大きな切り株に座ろうとする。
しかしゆうなちゃんの座った部分は苔むしていて、そのまま地面に尻餅をついた。
「いたいよぉ〜・・・。」
「大丈夫?」
目じりに涙を溜めるゆうなちゃんに私は声を掛けた。
「うん・・・。」
今度はゆっくりと座る。
ぽす。
そんな音がして苔の上に座ることが出来た。
「あ、けっこうあったかい・・・。」
「間に空気が入りますからね。」
のんびりした会話が聞こえてくる。
それはここが異世界であることを一瞬、忘れさせてくれた。
「百合奈先輩、お母さんみたい・・・。」
「えっ?そう・・・ですか・・・?」
頬を染める百合奈先輩。
「きっと良いお母さんになると思いますよ。」
「ありがとう・・・ございます。」
少し百合奈先輩の表情が曇った。
「でも・・・私は呪われていますから・・・母親には、なれません・・・。」
「お姉ちゃん?なんで?」
ゆうなちゃんがクリクリした瞳を百合奈先輩に向けて尋ねる。
それに対して先輩は力なく微笑むと、
「そういう・・・運命なんです・・・。」
そう言ってまた悲しそうな表情をした。

「切り拓く事もせず、受け入れるか・・・。それも良かろう。」

「えっ!?」
私の背後で声がした。
振り返るとそこには着物姿の童女と長い刀を持った女子高生の姿があった。
私は咄嗟にみんなの方へ駆ける。
「誰っ!?さっきの放送の人の仲間!?」
「仲間・・・ではなかろう?」
童女が女子高生に聞く。
「当然・・・。遊びの付き合い、かな・・・。」
木にもたれ、長い黒髪を手で梳きながら物憂げに返す。
衝撃だった。
「ひどい・・・っ!”遊び”なんてひどいもんっ!!」
私は叫んでいた。
「遊びで・・・?命を失っている人がたくさんいるのに・・・。そんな簡単に言い切れるような事じゃないっ!!」
「橘さん・・・。」
「大輔ちゃんも!篠宮先生も!みんなみんな何も悪い事してないのにっ!何で死ななくちゃならないのっ!?そんなの間違ってるっ!!」
大輔ちゃんを庇って倒れた篠宮先生。
私を庇ってその命を落とした大輔ちゃん。
全てが信じられなかった。夢だと思いたかった。

「あのさ・・・」
心底呆れた口調で私に語りかけてくる。
「そういう事・・・ウチらに言わないでくれるかな・・・?関係、ないから・・・。」
「リリスの戯れで我等はここに入り込んだだけだと言うに・・・。」
童女も呆れ顔だった。
そして二人は何事か話すと・・・
「あんまり気が進まないけど・・・」
音もなく鞘から刀を抜き放つ女子高生。
「きゃあっ!!」
ゆうなちゃんが百合奈先輩にしがみつく。
私の後ろでは、まいなちゃんが震えながらも相手を睨み付けていた。
「――行かせてもらうよっ!」
そういってこちらに向かって駆けて来る。
「このっ!!」
私は手近な石を拾って投げつけた。
だが、それはあっさりと弾かれる。
こちらに一瞬、睨みを入れるとそのまま百合奈先輩の所へ。
(始めからあっちが狙い!?)
「橘さんっ!」
百合奈先輩がゆうなちゃんを私の所へ突き飛ばしてくる。
私はゆうなちゃんをしっかり抱き止め、再度、百合奈先輩に刃を向ける女子高生目掛けて投石する。
「邪魔。」
横に逃げた先輩を確認してから私の石を弾く。
「先輩!」
「はあっ・・・!あっ!」
「百合奈先輩っ!?」
百合奈先輩の呼吸がおかしい。
「う・・・くっ・・・。」
左胸を抑えてうずくまる。
「百合奈先輩!!」
「く、薬が、ないので・・・・・・ぐっ!」
異常な状況下で失念していた。
そうだった。百合奈先輩、心臓が・・・。
ここに来てから激しい運動がずっと続いていた。無理があって当然だった。
「たち・・・ばな、さん・・・逃げて・・・」
苦しい呼吸の中で、それでも百合奈先輩は私に言った。
「私は・・・もう・・・限界です・・・・・・」
「そんなこと・・・しません。」
私はきっぱりと言い切った。
「もう、誰かが死ぬのを黙って見ているのは嫌です。」
「ふむ・・・なかなか座興としては面白い。どれ・・・」
童女がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「来ないでっ!」
私は刀をしまい、こちらを眺めている女子高生とは対照的に、まだこちらに向かって来る童女に叫んだ。
「なに、取って食うわけではない。静かにしておれ。」
「え・・・?」
口を開きかけた私の喉元にいつの間にか刀が突きつけられていた。
「ちょっと、動かないで。私も面倒なのはイヤだから・・・。」
童女はそのまま苦しそうに喘いでいる百合奈先輩の元へ行き、
「ふふ・・・・・・。」
ドスッ。
「いやあああああっ!!」
ゆうなちゃんが泣き叫ぶ。
それは、異常な光景だった。

童女の赤い爪が、百合奈先輩のうなじに突き刺さったのだから・・・。

目を見開いた百合奈先輩に童女が囁く。
「何を欲する?何を求める?否定するのではない・・・受け入れよ・・・。」
「あ・・・・・・。」
そして爪を抜く。
不思議な事に、血は出なかった。
「さて、どうなることやら・・・。」
「あ・・・」
苦しそうに心臓のある辺りを押さえる百合奈先輩。
「さて、では我らは次の座興を楽しむとしよう・・・。」
「・・・酷いね。楽しんでるつもりなんだ?あれで・・・。」
女子高生はそういって森の中に消えていく童女を追い、その姿を消していく。
「もう、帰って久しぶりに初美と遊びたいな・・・。」
「おねえちゃん!だいじょうぶ!?」
心配そうに駆け寄ったゆりなちゃんに、百合奈先輩は苦し紛れの笑顔で言った。
「何とか・・・大丈夫です。ごめんなさい、突き飛ばしてしまって・・・。」
ゆうなちゃんは首を振る。
「百合奈先輩・・・」
「はい・・・大丈夫です・・・。落ち着きました。少し、動きすぎたのだと思います・・・。」
うなじを何気なく見るが、大した傷はない。
(一体・・・?)
「もう少し休んだら、また移動しましょう。」
百合奈先輩の意見でまた、休むことにした。
まいなちゃんからもらったキャンディーを一つ、口に入れる。
ミルクのほのかな甘さがした。
もう一つをまいなちゃんに。
「はい。」
「ん、ありがと。」
可愛い笑顔がこぼれる。
「いいなぁ・・・。」
羨ましそうにしているゆうなちゃんには百合奈先輩が。
「どうぞ。」
「あ。ありがとう。」
見透かされたことが恥ずかしかったのか、頬を染めるゆうなちゃん。
一時の休息は、何かの前触れのようで・・・。
私は少し身震いした。



【橘 天音@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○ 装備:キャンディー 】
【君影 百合奈@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:狩 状態:○(赤い爪の呪縛) 装備:キャンディー 】
【朝倉ゆうな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備:キャンディー】
【朝倉まいな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備:キャンディー】



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