犬死せし者たち
要塞内部のケルヴァンの邸宅の中で息を潜め、脱出のチャンスを待つのは
高町恭也ら3人だ。
彼らはあれからリニアの手引きによって、どうにかここまで辿りついていた。
あともう一息でとりあえずは外に出る事が出来るはずだ。
しかし、ここまできてリニアが戻ってこないのだ。
もしかして…という不安が3人の脳裏を掠める、しかし彼らにリニアを見捨てるという
選択肢は存在していなかった。
「もう少し待とう、いずれにせよ彼女の案内無しでは不安だ」
「きゃあぁぁぁぁっ」
その頃だった、ケルヴァンの放った雷撃がリニアの身体を貫く。
「どうしてバレたのかまるで分からない風だな?」
ケルヴァンの言葉にこくこくと頷くリニア、ケルヴァンはため息交じりにリニアに理由を教えてやる。
「貴様やはり頭脳が間抜けだな、増えた人数分の食器を出したまま片付けてなければ、誰でも怪しいと思うわ!」
そんなところまでしっかりとこの男は見ていたのである。
「小遣いからさっぴくためだ」
誰に聞かせているのか分からない言葉を口にするとケルヴァンはぱちんと指をならす
と、ドアの向こうから弓を持った胴着姿の少女が現れる。
少女の正体は神風、弓を自在に操る、妖魔の中でも上級に位置する強者だ。
「お小遣いは減らしてもらっても結構ですう、ですからどうか…」
「もういい…造反の代価は命だと古来より決まっている」
ケルヴァンはもう1度神風へと指を鳴らす、その瞬間リニアの口から凄まじい悲鳴が上がる。
リニアの四肢は文字通り目にもとまらぬ早さで放たれた神風の矢によって、もぎ取られてしまっていたのだから。
「機械でも一人前に痛みを感じるらしいな?」
泣き叫ぶリニアにはもはや構わず、ケルヴァンは神風に命令する。
「鼠を炙り出せ、そして見つけたら殺せ」
「かまわん、事実連中は抵抗を試みている…」
ケルヴァンはそういうと、自分の足元に縛り上げられたままの姿で転がるカトラとスタリオンの襟首を掴み
そのまま神風と共に部屋を出ていってしまった。
(鍵が…壊れてる)
それからしばらく経過して、リニアは誰もいない部屋からそっと抜け出す。
両足と左手を落とされ、残る右腕も単に繋がっているだけの状態、もう長くは持たないだろう。
「お知らせ…しないと…逃げて…いただかないと」
かろうじてコード1本だけで繋がってる右腕だけで這いずりながら、
最後の命の灯火を燃やし尽くしながら、ひたすら廊下を進むリニア…
だが彼女は背後の影にはまるで気がついていなかった。
そしてリニアはついに現在3人をかくまっている部屋まで辿りついた。
「逃げてください…感づかれました」
その声と同時に慌てて飛び出す3人、しかしその時恭也はリニアの服についていた長い糸に気がつく、
それは廊下の向こう側まで伸びていた。
「罠だ!部屋から出るな!!」
2人に叫ぶ恭也、しかしそのために一瞬、動作が遅れた、そしてその時、壁を貫通して襲ってきた矢によって、
恭也の弱点である両膝は見事に射貫かれてしまっていたのだった。
「私…私の…せい?」
血煙が飛び交う中で自分が嵌められたことをリニアはようやく理解していた、あの時ケルヴァンが部屋から出たのも
廊下にだれもいなかったのも全て自分を利用して、恭也らを見つけ出そうとする手だったのだ
「お助け…しないと」
こんな事態を招いてしまったのは自分の責任だ、だから自分でけりをつけるしかない。
リニアは自分のエネルギー残量を確認する。
「あと、一回なら行けます」
リミッターを解除し、フルパワーの一撃を食らわせる、これなら倒せる自信があった
だがこの状況でのそれは、リニアの死を同時に意味していた。
(それでも私はみんなを助けたい!!)
ためらうことなくリニアはリミッターを外す、そしてその力をもって右腕で床を叩き、
大きく跳躍するリニア、そのまま拳を握り上空から神風へ、
渾身の、自分の命を全て注ぎ込んだ必殺パンチを叩きこもうとするリニア。
しかしその時リニアは見た、神風が笑いながら呟くのを。
(グレートいひっ)
そして案の定、その鉄腕が貫いたのは神風ではなかった。
「そん…な」
リニアの顔に鮮血が飛び散る、そして目の前には驚愕の表情の桜井舞人。
そう、たまたま同時に殴りかかった桜井舞人をすかさず盾にして、神風はリニアのパンチを防いだのだった。
「どうして…」
自分の行為に愕然としながら、血に塗れた腕を舞人の胸から引きぬくリニア…
もはや戦う意志は消えてしまっていた。
そして神風が弓を構えるが、もうリニアは抵抗しなかった、いやできなかった。
「わたしは…ただ…」
そして一方の恭也だったが、先ほどの先制攻撃によって彼は古傷の膝を射貫かれていた。
「血が止まらないよぉ、恭ちゃん!!」
美由希は恭也の傷口にハンカチを当てながら泣き叫ぶ。
おそらく両足の動脈を射貫かれてしまったのだろう、だとすると、つまりもう自分は助からない…。
しかしそれでも…、やらなければならない、こうなっては自分が何とかしなければ、
美由希だけでも助けたい…それに今、恭也は何故か妙な自信が満ちてくるのを感じていた。
「龍燐…貸してくれないか?」
「ムチャよ!そんな身体で!」
「こんな身体だから…出来そうな気がするんだ」
それは単に出血多量のため軽いトリップ状態になっているだけだが、
恭也は自分の集中力が確かに高まっていくのを感じていた、今なら…出来る、これしかない!
(たのむ、俺の身体よ、あと一瞬だけ動いてくれ!)
恭也は震える手、いやすでに震えは止まっている、で、構えを取る。
それを見た美由希の口から溜息が漏れる。
そう、恭也の構えはまったく非の打ち所が無い、まさに完璧だった、彼は死を目前にして
ついに奥義を極めたのだった。
「いいか…俺が切りこむのと同時に、お前はドアに走れ…」
美由希は駄々をこねるようにいやいやをするが、恭也の顔を見て、やがて力なく頷いた。
それを確認し、はーっはーっと恭也の口から気合が漏れはじめる、そして次の瞬間、
恭也は己の全ての力を注ぎ込んだまさに必殺の一撃を放ったのだった。
だが…神風は刃と化した恭也をくるりと身を翻し、あっさりと交わした、確かに凄まじい一撃ではあったのだが…。
彼の膝はもう限界を超えていたのだった。
結局、恭也が切り裂いたのはその背後の壁に過ぎなかった。
さらに、反転した神風の手からまた弦の音が響く、そして光の矢によって恭也の下半身が砕け散り、
階下に落ちていくのを美由希と舞人は確かに見た、
しかし恭也の顔は奥義を我が物にした改心の笑顔に満ちていたのだった。
(恭ちゃん…)
後ろ髪を引かれる思いで美由希はドアに向かい走る、恭也の死を無駄には出来ない…。
それを見て神風がすかさず矢を放つ、が、
「させるかよ!」
舞人が美由希の盾になり、その身体に矢を受ける。
それを見て立ち止まろうとする美由希だったが。
「俺に構うな!逃げろ!俺たちの死を無駄にしないでくれっ!」
その言葉に一気にドアを潜り抜ける、もう彼女は振り帰らなかった。
そして舞人はドアの前に立ちふさがり、美由希が逃げるまでの時間稼ぎをしようとする。
風穴の開いた胸からは血が止め処も無く流れていく、
「聞けよ…俺の身体の血が一滴残らず流れ出すまで、俺はここを決して動かないからな…」
「さぁ、来い…桜井舞人の死に様を…」
だが、神風は舞人には付き合わず、そのまま恭也が切り裂いた壁の穴から外へと飛び出していった。
「くそったれ…め、お約束のわからねぇやつは嫌いだな
ずす…とへたり込む舞人、その傍らでは。
「わたしはただ…わたしはただ…」
胴体から吹き飛ばされ、壁に縫いつけられたリニアの頭が壊れたテープレコーダーのように、
同じ言葉を漏らしつづけていた。
「そう思うだろ?」
その言葉を最後に桜井舞人は息を引き取った。
そして誰もいなくなった部屋で、やはりリニアの声だけがエンドレスで響いていた。
「わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…」
美由希は階下で発見した上半身だけになってしまった恭也を抱え、ふらふらと歩いていた。
逃げなければという気持ちはあったが、その無残な恭也の姿を見てしまった瞬間、
自分の中の生きたいと思う気持ちが掻き消えていくのを感じていた。
「俺は…やったぜ、ついに奥義を極めたんだ」
「うん…凄かったよ…恭ちゃん」
涙ながらに応じる美由希。
「さてと帰らないとな、皆が待っているから、今日の夕飯は何だろうな」
帰るって…と言いかけて、美由希は口をつぐんだ。
もう、彼の心はすでに海鳴の街に帰っているのだろう…。
「今日はね…恭ちゃんの大好物…だよ、奥義習得記念だから…ね」
無理に笑顔を作る美由希。
「そうかぁ…嬉しいな、レンや晶もきっと喜んでくれるだろうなあ」
満面の笑顔で恭也は頷く、その口から血泡がこぼれる。
もはやかける言葉が見つからない、美由希はただ祈るように、このまま恭也が幸せな夢の中で
死ねるようにと祈りながら、その髪をそっと撫で続けていた。
だが…美由希はその目の中にこちらに進んでくる神風の姿を見つける。
「おねがい…来ないで、最後まで夢を見させてあげて…安らかに、死なせてあげてよ」
しかし神風は美由希のそんな願いを無視するようにわざと音を立てて弓を明後日の方向に飛ばす。
まるでお前は犬死だと言わんばかりに。
その弓の音に首を傾ける恭也、そしてその顔が絶望に彩られていく。
「何で…何であいつ生きてるんだ…俺は、確かに…」
そして彼は現実に戻ってきた、恭也の口から皮肉気な笑いが漏れる。
「くくっ…はははっ…ははっ…はははっ、わらっちまうぜ…こんな落ちかよ…」
「最後まで…半端者…か」
それが高町恭也の最後の言葉だった…彼は現実と自分自身に絶望しながら、死んだ。
そして最後に残った美由希へと神風は矢を番える。
もはや美由希は逃げようとはしなかった。
俺たちの死を無駄にするなと言う、舞人の言葉が甦る、だが…。
「ごめんね、私そんなに強くないの…」
美由希は手に持った龍燐を自分の腹部に突き刺し、さらに真一文字に腹を切り裂く。
割れた腹からはらわたが飛び出し、周囲は真紅に染まる。
美由希の血で龍燐も真っ赤に染まっていく。
「そうよ・・・私たちの血と涙と苦しみと恨みと憎しみを・・・たっぷりと吸いなさい、そしていつの日か
無念を・・・晴らして」
復讐の念をたっぷりと刃に送りながら、まもなく美由希も3人の後を追ったのだった。
神風はその様子をつまらなさそうに見ていたが、やがて無造作に美由希の手から龍燐を引き剥がすと、
それを庭石で粉々に粉砕してしまったのだった。
【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 死亡】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS)死亡】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(バジル) 死亡】
【リニア@モエかん(ケロQ) 死亡】
【神風 @ランスシリーズ(アリスソフト)魔獣枠 】
【スタリオン@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし】
【カトラ@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし】
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