戦場を彩る者達
「アンドロイドとはな…」
すでに戻したワイヤーを握った手をスーツのポケットに突っ込み、飯島は走り去る少年を一瞥する。
あの手応えは間違いなく無機物を切断したものだった。
アンドロイドそのものはカンパニー時代に飽きるほど見ているので驚きはしない。
もっとも、今までの経験からこの世界は何でもありだと達観しているので、何が出ようと驚きはしないが。
当然、アンドロイドの戦闘力の高さもよく知っていた。
まあ約一名、役立たずのポンコツにも心当たりはあるが。
深追いをする気はない。第一、追いつけない。
「あの程度で撤退するとは妙だがな…、まぁ今はありがたい」
ひょっとしたら、援軍を連れて戻ってくるかもしれない。
その前にこの場を片付けて、こちらも撤退するべきだろう。
(さて、それじゃ戻るとするか)
今度は同行者二人の援護をするべく、飯島はまた物陰へと身を潜めた。
「…うむ」
弾丸など一発も入っていない38式歩兵銃を肩に担ぎ、旗男は立ち上がった。
「…しかし、飯島め…まったく勝手な奴だ…」
また視界からいなくなった飯島に向けてぼやくと、数瞬前の出来事を思い出す。
背中に衝撃を受けて驚いて振り向くと、飯島があさっての方向に移動しているのが見えた。
何事かとその方向を見ると、駆けてくる少年が視界に入る。
状況が理解できずにそこで対応が遅れたが、近づいた少年が悠人のいると思われる方へ銃を向けたのを見て敵と判断。
だが距離が遠い為、自分の攻撃は間に合わない。
そこで取ったのが先ほどの行動だった。
自分が撃たれる危険は高かったが、本来旗男の目的は戦場で散ることにある。
生きる意味を考え始めた今でも、自分の身の安全より戦友の身の安全を優先して行動していた。
(…高嶺にも私の声は聞こえたはずだ)
姿こそまだ見えないが、少し先の資材の山を越えればそこはもう戦場だ。
(…今行くぞ、高嶺!)
突撃態勢を取ると、旗男は戦場へ向けて駆け出していった。
和樹が戦線を離脱し、飯島、旗男の両名もそれぞれの行動に移った後、
誰もいなくなったその場所で、地面に転がった右腕を拾い上げた存在があった。
「ククッ、思わぬ拾い物だな」
握られたままの右拳からシグ・ザウエルを引き剥がすと、直人は残弾を調べる。
十分な数が残っているのを確認すると、ニィッと口の端だけで笑みを見せた。
全ての人物から死角になる場所でじっと息を殺していたが、どうやら事態は都合良く展開してくれたらしい。
少し離れた場所ではゲンハがタイマン中だ。増えた相手の人数は分からないが、この銃があれば自分も参加できるだろう。
しかし、なぜこんなに無粋な輩が多いのか。女は犯すものであって、守るものなどではないというのに。
だがまあ、そういう輩がいるならそれなりの楽しみ方というものもある。
(くっくっくっ、奴等の目の前で犯してやったらさぞかし良い気分になれるだろうな)
そう考えるが、そこで自分の体調を思い出す。
そういえば、今回は自重しようと決めたのだった。
(ちっ…まあいい、その分あいつに全て吐き出せばいいさ)
良門を組み伏せ、罵詈雑言を浴びながら肉襞を割って思うさま陵辱する光景を思い浮かべる。
(くくっ、くはははははっ…おっと、いかんいかん…しかし、それにしても…くくっ)
想像だけで思わず達しそうになり、あわてて思考を打ち消す。
(まったく、ヤリたい盛りのガキじゃあるまいし…どうしちまったんだ、俺は? くくくっ)
良門のことを考えると、どうにも自制が効かない。止まらなくなる。
もしかしたら、恋焦がれるとはこういう気持ちを指すのだろうか?
だとしたら生まれて初めての経験である。
愛だの恋だのは軟弱者の幻想とバカにしていたものだが、これなら悪くない。
生きる気力が沸いてくるというものだ。
(さぁて、それじゃ相棒の援護でもしてやるか)
飯島と似たようなことを考えると、これまた似たように直人は資材の影へと入っていった。
三者三様、男達は動き出す。
集う場所はすぐ目の前。
材木の茶色と鉄骨の赤錆色で彩られた、――そしておそらく、鮮血の紅でも彩られる、戦場。
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:ワイヤー】
【長崎旗男@大悪司(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:銃剣】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:シグ・ザウエル】
【高嶺悠人@永遠のアセリア(ザウス) 狩 状態○ 所持品:永遠神剣第四位『求め』】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態○ 所持品:鉄パイプ】
【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態△(軽いショック状態 外傷は無し) 所持品:なし】
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