本当に意味のある・・・






「姉さん姉さん!合流地点はあの丘なんとちゃいますのん?」
ケンちゃんの指摘を聞いて藍は言う。
「別に・・・今更、合流する意味はありませんわ。」
「そりゃそうでっしゃろけど・・・心配するやないですか。」
怪訝そうに首を傾げるケンちゃん。
「そうですわね・・・でも、私はあの方たちにお会いするわけには行きませんわ・・・。」
少しトーンダウンしたその声を聞いて、ケンちゃんは何気ない語り口でしゃべり始める。
「ワテが捜してます兄さんは、変な能力持ってましてね・・・」
「変な・・・能力?」
「そう。死んだ人間に乗り移って動くことが出来るんですわ。」
一瞬、藍の肩が揺れた。
「でも、難儀なもんでっしゃろ?亡くなりはった御人は苦しかったり、悲しかったり、ヘタしたら家族が見守ってはるかも知れん。」
一旦飛んでいたケンちゃんは、足場である藍の肩に再び止まる。
「そんな時に兄さんが乗り移って急に息を吹き返す。どんな事になるか、よう敵わんでっしゃろ?」
「そう、ですわね・・・でも、亡くなった大事な恋人が甦るなら――」
「万物、過ぎた時間なんて戻らんほうがエエ・・・。」
「そうですか・・・?」

「戻らんからこそ、変えられんからこそ、時間も・・・人生も、本当に意味のあるもんになるんとちゃいますか?」
藍の心に強く刻まれたその言葉は、自らの中にあった思い出に干渉した。
「ワテらの旅は、本の中の世界とはいえその全てを返ることが出来てまう・・・。それは、本来ならあってはいかんことですわ。」
その小さな瞳が藍の横顔を見つめる。
「例え管理された世界でも、そこには秩序があり、ルールがある。そして、その中で流されながらも懸命に生きる方たちがおるんです・・・。」
いつになく真剣な語り口調だった。
「生き物の命ってもんは、その中でも一番、流れを変えちゃあいかんもんだと思っとるんですわ、ワテは・・・。」
ケンちゃんの脳裏に、大地から引き抜かれは果ててゆくマンドラゴラの兄弟たちが浮かぶ。
「精一杯、生きてる・・・奴ら、が・・・ぐっ――。」
「ケンちゃん・・・?」
いきなり男泣きを始めたケンちゃんに藍は驚く。
「夢を、もって生きてるヤツの・・・夢、摘み取ったらいかん・・・でっしゃろ・・・?」
1匹、また1匹と魔術師の素材として抜かれていくマンドラゴラを思う。
「生きて・・・まだ、したい事とかも、あった、ろうになぁ・・・。ぐすっ。」
「したい・・・事・・・夢・・・」
藍の脳裏には恋の姿が浮かんだ。

――大輔の描いた海の絵を食い入るように見つめていた恋。

――この海の絵は、自分にとって特別なんだと微笑んだ顔。

――自分に出来る兄がどんな人なのか、少し不安そうにしていた表情。

その全ては藍が心から大好きで、慕っていた親友の生き方だった。
「う――!?」
「おわあっ!?」
藍が急に口を押さえて藪に駆け込んだため、ケンちゃんが宙に舞う。
「大丈夫でっか?姉さん!?」
藪の中で嘔吐している藍を心配してケンちゃんが叫ぶ。
・・・今までに経験したことのない、激しい動悸だった。
全身に冷や汗が流れ、吐き気が止まらない。
(私は――私は――っ!!)
再び吐き気に襲われ、胃の中のものを出し尽くす。
「姉さん・・・なんでそない哀しい顔してはりますのや・・・。」
「私は・・・・・・。」
嘔吐のせいだけではない涙を流す藍。

「私は―――親友を・・・殺しました・・・・・・。」


【鷺ノ宮 藍@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○(精神状態不安定) 装備:拳銃(種類不明)】
【ケンちゃん@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)分類:? 状態:○ 装備:クセ毛アンテナ、嫁はんズ用携帯(13台)】

「行動目的」
【鷺ノ宮 藍:中央へ移動?】
【ケンちゃん:藍についていく、コゲ探し】



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