倒すべき者






彼らの希望はいとも簡単に打ち砕かれた。
3人共に怪我がないのは不幸中の幸いなのであろう。
透は記憶を辿る、何が起こったのかを正確に把握するために…
「なんというか……あれはテンタクルスとかクラーケンとか呼ばれる生物なのか?」
どんなに努力して思い出しても彼らが体験した事実は単純なもので……
出航して5分程すると海から巨大な触手が出て来て、岸まで一気に戻された。それだけである。
「透ぅ……あんなのがいたら誰もこの島から脱出することなんてできないんじゃない?」
ひなたと香澄をセーラー服の女に殺され、もとより気が滅入っていたまひるは今にも泣き出しそうだ。
麦兵衛から聞いた話しだとあのセーラー服の女は比良坂初音というらしいが……
(結局根本的にまひるの不安を取り除くには、比良坂とかいうあの女をなんとかしないといけないのか)

「結局脱出は無理か……まひると透はこれからどうする?俺はあの女を追うが……」
麦兵衛はもとより脱出には気乗りではなかったためか、既に巨大な触手の衝撃からは立ち直っている。
「正直俺はあの女にまともに立ち向かっても勝てるとは到底思えないが……」
透はそこまで言ってから船の方に目を向ける。
船は浅瀬に座礁してしている上に透の位置から見てもはっきりと船体に穴が開いているのが確認できる。
(むしろよく持った方か……)
「脱出するにも船があのザマじゃな……。君と俺達だけでなんとか倒す方法を考えないといけなくなったか」
「───!?お前最初からそのつもりだったのか」
麦兵衛は透の本心を知り感嘆する。てっきり生き残るのを最優先して脱出という道を選んだのだと思っていたのだが。
「俺だって香澄とひなたを殺されてるんだ、気持ちはお前と同じだけどな……まひるは……
こういう事に巻き込むべきじゃないと思ったんだよ。まひるさえ安全な場所に置いたらあの女をなんとかしようと思ってた」
「すまん……俺も考えが足りなかった」
麦兵衛は透の本心を察せずに脱出を提案した透を殴ってしまった。
自分はただ自分の無力さに怒って我を忘れていた。
透は同じ状況下にあってなお冷静に、あの女を確実に倒すための算段をしていたというのに……
「あやまることはない。まひるの手を汚させたくないってのも俺の我儘なんだから……。
それにあの女だって神様じゃないんだ。俺達だけでも倒す方法はあるはずなのにな…俺もどうも弱気になってるみたいだな」
「ね……透。あたしも……手伝うよ。今のあたしなら多少無茶したって平気だし、それにあたしだって……悔しいもん」
最後の方は涙声になりながらもまひるは自分の意思を告げる。
「……わかったよ。どの道この島に安全な場所なんてないだろうしな。一緒に居た方が余計な心配をしなくてもすむからな」
「ううっ……ぐすっ……透……透だけはいなくなったら嫌だからね……」
「少なくても賽の河原で石積みする気はないから安心しとけ。……とりあえず休めそうな所でも探すか、麦兵衛」
「ああ、少なくても服が濡れたままってのは体力を消耗するからな…どこかで乾かさないとな」

(───どこにいる?)

お姉さまを殺した奴はどこにいるのだろう?
復習を心に誓った後、沙由香の体を少し調べた。
できればあのまま眠らしておくべきだったのだろうが、沙由香に対する最後の我儘と思って
心の中で謝りつつも体をかなり大雑把にだが調べた。

(お姉さまを殺した奴は大きな針──レイピアか矢のような鋭利な武器を持っている奴だ──!!)

今ななかにわかることはそれだけである。
相手はお姉さまのやさしさにつけ込んでその優しさを裏切るような奴だ。
見つけたら───例えどんなに善人ぶっていたとしても。

(見つけた瞬間にこの手でお姉さまにあやまりにいかしてやるんだから!!)

「誰か……来る」
まひるの感覚は鋭敏である。
ひなたから羽を返されてからはさらに鋭くなっているようだ。
「比良坂か?」
「ううん……これはあの人じゃないよ」
まひるが答えて間もなくして、3人の前に気配の主が姿を現す。
「よう……あんたも突然この島に連れてこられた口かな?それとも……」
透は現れた少女に声を掛けながらも持っている瓶をいつでも投げれるように備えておく。
「初音とかいう女見たいに人を殺しまわってるのか?」
しかし透の意図とは違い少女は透の言葉に答えることはなく……しかし襲い掛かってくるでもない。
(俺達を……観察してるのか?)
「……違う」
「えっ!?」
唐突に少女が発した言葉に透はドキリとする。
「あなた達は……違う」
今度ははっきりと聞き取れた。
「俺達が違うってどういうことだ?」
麦兵衛は目の前の少女に敵意がないことを見て取ると少女に疑問を投げかける。
「初音……どういう女?」
少女は先程同様麦兵衛の質問にも答える気はないようだ。
「ふう……いいか───」
透は少女からの答えをあきらめたようで初音の特徴とその所業を語り始める。

「その女が姉さまを殺したんだ──!!」
初音の話しを聞き終えた少女はそう呟いた。
「なに!?あんたも誰かあの女に殺さ──おい、待て!!」
少女は呟くと同時に常人離れした速度で来た方向に駈けていった。
「なんだったんだ?今の子は……」
「あの子も誰か大事な人を殺されたのかもな……、そのショックで錯乱してるみたいだったが……追ったほうがいいな」

ドサッ

後ろで何かが倒れる音。
「──!まひるっ!?」
「誰かの……心が……頭の中に入ってくる」
「まひるさんも……俺と同じ物を見てるのか……?」
「お前もか……麦兵衛」
さすがに2人を放ってあの少女を追うわけにもいかない。
(こっちから聞きたい事もあったんだが……諦めるしかないか)

(比良坂初音……その女が姉さまを殺したんだ!!絶対に許さないんだから───!!)
ななかはその名を胸に刻みながら再び島を駆け出すのであった。

【遠葉透@ねがぽじ(Active)狩 状態○ 所持品 妖しい薬品】
【広場まひる@ねがぽじ(Active) 招 状態◎(天使覚醒状態)所持品なし】
【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(バジル)招 状態○ 所持品なし 】
【目的:打倒!!比良坂初音!!】

【FM77/ななか@超昂天使エスカレイヤー(アリスソフト)狩 状態○ 所持品?】
【目的:復讐(現在の目標は初音)】

【魔獣:クラーケン 状態○ 海岸線からある程度離れた人間を岸まで押し戻す】
【全体放送前、デリリュームと同時刻】



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