不死者たち






 傍目から見てもいらいらした三人組が森を歩いている。
 といっても、怒りのオーラを出してるのはうち一人なのだが……。
 「双厳……、もう少し落ち着けないのか? 」
 こんな殺気だっていては、敵にも気づいてくれと言わんばかりである。
 「十兵衛、お前だって、悔しくないのか!? 後一歩だったんだろ!?」
 まだ物足りぬのか、十兵衛へ八つ当たりをかける双厳。
 「確かに、無影は親の仇だ……。 
  だが今の俺たちには背に腹を代えれない理由がある。
  悔しくも、あいつに指摘された通りにな」
 「まぁまぁ、それに私たちからは、離れているようですし……」
 命がなんとか双厳をなだめようとつげたした言葉がまずかった。
 ピキッ。
 明らかに、周囲にそんな擬音が走ったのが、二人に感じ取れた。
 「おい、命……」
 「あ、す、すいません」
 慌てて謝る命。
 それもこれも無影と双厳の因縁が原因である。
 『流石に一緒に行動するのは、そいつの調子じゃ無理だろ?
  なら、余り離れないように別行動を取らせてもらっとくぜ。
  なぁに、どうせ離れてても双厳の位置は解るんだ。
  危なくなったら、そっちに行ってやるよ』
 洞窟から出た後に、無影が提案した行動。
 そして無影が双厳にかけた二重影の呪い。
 そのせいで双厳は無影に居場所を把握されている。
 命の発した言葉は、双厳のその心の傷に触れたのだ。
 「……ぉぃ、余計に双厳の殺気が高まったぞ」
 「……あーん、どうしたら……」
 小声で双厳に聞こえないようにやり取りする十兵衛と命。

 一方、彼らの遥か後方から、その様子を遠目に見ている無影がいた。
 双厳の殺気の代わり具合を感じ、その様子をニタニタと嘲笑しながら、
周囲をじっくりと観察していた。
 (さって、双厳の居場所は解ってるんだ。
  まずは、情報収集からだな……)
 「ん?」
 ふいに無影は、あさっての方を向いた。
 (なんだ…………? 凄い負の力の流れを感じるが……)
 彼が感じた負の力は、ハタヤマのものである。
 魔力資質者ではないためにハタヤマの意識や映像が頭に響くことはなかったものの
幽体という身体が、島に響き渡る負の力……憎悪の感情の流れを感じ取ったのだ。
 「あっちか…………」
 風が吹いたように、幽体が感じ取った流れのしてきた方をみつめる無影。
 対して、前方では、ぐんぐんと前進していく三人の姿がある。
 やがて、負の流れは、収まる。
 (どうせ、居場所は解るし、俺は半無敵だしな……)
 自らの幽体と実力にうぬぼれを抱く無影。
 「あの三人ならそう負けんだろう…………行ってみるか」
 そうして、無影は、流れてきた方へと向かうのだった。

 どのくらい歩いただろうか?
 しばらく、無影は感じ取った流れの方へ向かっていた。
 「そんなに遠くじゃないと思ったんだがな……」
 確かに、無影の言う通り、彼らの位置は、ハタヤマとアイの戦闘場所に比較的近かった。
 このまま歩き続ければ、彼らのいた崖沿いにたどり着けるだろう。
 だが、ハタヤマとアーヴィは目覚めた後に中央へと歩き始め、
それよりも前にアイは、そのまま次の目標へと向かっていた。

 歩きつづける無影の瞳が前方に一つの点を発見した。
 「っけ……、随分と禍々しいやつだな、こりゃ……」
 愚痴を喋りながら、無影が刀を抜く。
 彼の感覚もまた、あの人影から、禍々しい気を感じとる。
 段々と視界にも赤い甲冑に身を包んだ男が来るのが認識されていく。

 「あれは…………、どうやら駆除対象のようだな」
 自分の存在を確認すると刀を抜きにかかる無影を見て、ギーラッハは悩んだ。
 「説得に応じる奴ではなさそうだが……」
 彼もまた無影が闇に潜むものであるのを感じ取っていた。
 そして、少なからず彼が善人ではないということも。

 「何のようだ?」
 二人の距離が射程範囲ぎりぎりに詰まった時、
先に無影がギーラッハへと問い掛けた。
 「我が名は、ギーラッハ。
  この島に舞い込んだ異分子を駆除する使命を受け仰せた。
  だが、無益な殺生は好まん」
 「ってぇと、従わなければ、殺すか……。
  さっきの四人組に比べりゃ、ましか。
  けど、生憎様、俺はお前達に従うつもりはないね。
  とっとと元の場所に返して貰おうか」
 無影が刀を握り締め、構えを取る。
 「話し合う余地はなしか……。 よかろう」
 ギーラッハも剣を持ち構えを取る。

   沈黙が続いた。
 互いに様子を見、互いに相手の実力が相当なものであると認識したのだ。
 (ほーう……、こんなやつもいるのかよ……。
  こりゃ、とっとと切り上げた方が良さそうだな)
 (……できる。 それにこの余裕、ただの剣客ではなさそうだな)
 二人の沈黙の視線の間に葉が舞い落ちた。
 「……!!」
 それを合図に、達人同士の切りあいが開始する。
 「せい!!」
 「ぬんっ!!」
 無影とギーラッハの刀と剣の刃がぶつかり合う。
 「いい刀だ……そして貴殿の太刀筋も鋭い」
 「ふん、そっちもとんでもない力だな」
 ギーラッハの力に徐々に鍔迫り合いを押される無影。
 「はっ!!」
 ギーラッハが力を入れ、無影を押しにかかった瞬間
 「素直に付き合う気はしないんだよ!」
 隙をついて後方へと飛びのく、無影。
 だが、ギーラッハは止まらず、そのまま無影へと剣を振り降ろす。
 「ちっ!?」
 避けきれず、無影の右手の指が何本か切り落とされる。
 再び互いに距離を起きながら、刀を握りにくそうに持つ無影を前にしてギーラッハが言う。
 「良くぞ、交わした……。 だがその手で、これ以上まともに打ち合えるかな」
 剣客にとって、利き腕の指を失うのはかなり致命傷である。
 もはや勝ちは決まったのだの如くとギーラッハは言い放ったが、
 「くっくっく、甘く見ないで欲しいね」
 「なんだと?」
 余裕の表情を見せながら、指を拾う無影。
 「指が惜しいのか? だが…………、まさか!?」
 そこでギーラッハはやっと気が付いた。
 切り落とした所から血の一滴も滴り落ちていない事に。
 「残念賞……」
 すぐさま指をくっつけた無影が、一瞬の隙をついてギーラッハに詰めより首に一刀をかける。
 「おのれ!!」
 今度は、ギーラッハが後ろへ下がる形となる。
 「手ごたえありって感じだな……」
 今の一撃でギーラッハの首の皮が切れ、血が流れ出す。
 「ふ、ふははははは!!」
 ギーラッハが笑い出した。
 「何がおかしい? 浅いとはいえこのままいけば出血死は間違いないぜ?」
 「楽しい……」
 「あぁん?」
 ギーラッハの高笑いの理由が、無影には解らなかった。
 だが、直ぐに彼はその理由を知る事となる。
 「なっ!?」
 ギーラッハの首の傷が……、血の流れが治まり、彼の傷口と同じようにすぅっと消える。
 「お前も不死者かよ……」
 「ふっ、種類は違うようだがな……」
 「やれやれ、こりゃ、決着のつけようがないな……」
 (どうもこいつ武人家タイプらしいな……。 そこに付け入る隙があるかもしれないな)
 「終わりのない戦い……。 どちらが先に根をあげるか」
 ギーラッハが再び構えを取る。
 「無益な戦いだと思うけどねぇ……」
 かったるそうにしながら無影も刀を構える。
 「出切るなら、全力の時に戦いたいものだな」
 (…………ここだな)
 無影は、ギーラッハ回避の切り口をこの台詞に見出した。
 「なら、今が俺にとっては好機というわけだ!」
 勝負に出た無影が大振りの一撃にかける。
 「甘い!!」
 刹那、まだ日のある半減した状態とはいえ、
本気を出したギーラッハの一撃が、彼の胴と足を切り分けた。
 「なっ………!?」
 無影には何が起こったか解らなかった。
 ギーラッハが、確かにとてつもない力をこめた斬撃を繰り出した。
 しかし、それは、まだ無影に届く距離のものではなかった。
 なのに、彼の胴体は真っ二つにされている。
 「こ、こんな技を隠し持ってやがったのか……」
 「貴様の事は忘れん……」
 ドサッ!!
 胴と足が地に落ちる。
 「ち、ちくしょう……」
 その言葉を最後に、切り分けられた無影はそのままピクリと動かなくなった。
 だが構えを取ったまま、ギーラッハは目前の無影を眺めつづける。
 やがて、彼がこれ以上動かないと解ると、
 「やはり、このようになっては、復活できぬか……」
 無影を死んだと思ったギーラッハは、その場を立ち去っていくのであった。
 ギーラッハが立ち去ってしばらく時が経過した。
 周りが安全だと確認した無影は、這いつくばり、胴と足の接着にかかる。
 「はぁはぁ……」
 やっと身体が接合したものの、彼に疲労の色が見える。
 「なんて技だ……。 鎌居達って奴かよ」
 実際は、空間を切断しているのだが、無影からしたら、鎌居達現象のように見えたのである。
 「死んだふりでやり過ごせると思って成功したのはいいが……誤算だったな。
  体力が失われてやがる」
 軽い傷を元の姿に戻すには、使われるエネルギーも微々たる物である。
 だが、胴と足という大きく切断された幽体を、時間を置いて一つに繋げたのだ。
 それにかかったエネルギーは、無影にかなりの負担をかけた。
 「どっかでやすまねぇとな……」


  【双厳@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(九字兼定)】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(三池典太光世)】
【命@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(10発) 炸裂弾(3発)】
【無影@二重影(ケロQ) 狩 状態△(疲労、休めば回復) 所持品 日本刀(籠釣瓶妙法村正)行動指針:休息を取る。備考:物理攻撃半減】
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(ニトロプラス)鬼 状態○ 所持品ビルドルヴ・フォーク(大剣)】



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