カモメは歌う、悪魔の歌を
「そこ押さえておいてくれ」
「こう?」
絶壁と絶壁との間をかなり強引に切り拡いて作ったようなしなびた漁港。
遠葉透と広場まひる、それから牧島麦兵衛は油に塗れながらもそこにあった漁船のエンジンの整備を行っていた。
ひなたらが気絶していた麦兵衛を介抱してからのことだが
脱出を主張する透と、執拗にこの島に残ると言い張る麦兵衛とが殴り合いの喧嘩になったこと、
ひなたが道中、まひるらの事を思いだし泣きじゃくった事など様々な事があった。
ともかく、彼らはお互いの身に起こった状況を話し合い、そして結論を出した。
そして今、彼らはその目的に向かい合致協力していた。
と、エンジンが軽快な音を響かせる。
分からないなりに努力した甲斐があった、これで何とか行けそうだ。
「ねぇ?これで良かったのかな?」
不安げにまひるが透に問い掛ける。
「良かったのか…って、助けを呼んでくるしかないだろ、携帯も通じないし」
そう、彼らはひとまず船で島を脱出し、救援を呼んでくることにしたのだった。
「でもぉ…」
「大丈夫、日本語が通じるってことはここは日本のどこかだと思う、それに見ろよ」
透が指差した先には、赤錆が浮いたオロナミンCの看板があった、小さな巨人ですというあれだ。
そしてさらに透はそっとまひるに耳打ちする。
(大丈夫、天使だっているんだから、あんな連中別に特別でも何でもないさ)
じゃあ、ここに来る前に見た、怪し気な言葉が描かれた標識とかは何なんだよとは横で聞いていた麦兵衛は
とても言えなかった。
それに麦兵衛自身もやや弱気になっている、そうだここは日本なんだ、余計なことは考えるな、
このまま船でしばらく沖に出れば携帯も通じるようになるし、そしたらすぐに助けがやってくるはずだ。
しかし一時的とはいえ、何も出来ないままこの島を去る…。
それは人一倍正義感の強い麦兵衛には耐えられない屈辱だった。
だがそれでもどこか頼りないこのコンビを放って行くわけには行かなかった。
つまり牧島麦兵衛はそういう男だったのだ。
そんな彼の心中を察したのか、2人はあえて何も言わない、きっと彼にも辛い出来事があったのだろう。
やがて見様見真似ながらも準備は整い、3人は街で集めた食料等を船に積み込みこんでいく。
そしてエンジンは景気のいい音を響かせ、おんぼろ漁船は颯爽とまではいかないがとりあえずは船出したのだった。
ちなみに3人とも、何とかエンジンを起動させることは出来たが、操縦することは出来ない。
操縦席のカジを回せばその方角に船が曲がる、それくらいのことが理解できる程度だ。
だが、それでも構わない、携帯が通じる場所まで出られればそれでいいのだ。
どんなにここが本土から離れていても、丸1日もあればきっとそこまで到達できる、気候からいっても
南の果て、いわゆるマーカス島やら、沖の鳥島なんてことはありえないだろうし。
「どっちに向かう?」
「日本列島ってやつは南北に長いだろ?だから北だな」
麦兵衛の言葉を受けて透はカジを切っていく。
こうして無謀にも(無論、彼らなりの勝算があってのことだが)海原に漕ぎ出した彼らの運命はいかに…。
【広場まひる(♂)、遠葉透@ねがぽじ(Active) 状○ 所持品なし 行動目的:島から脱出、救援要請】
【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(Basil) 招 状態△ 所持品なし 行動目的:島から脱出、救援要請】
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