出会うは運命






 出会いと言うものは時として意外な事態を引き起こす。
不幸、奇跡、愛情……そしてこの出会いは何を起こすのだろうか。
 島内を一望する山頂。悪司は眼前の人物を見た瞬間に時間を
巻き戻されたような錯覚を受けた。
「トコ?」
 そんな筈は無い。彼が愛した加賀元子の骸はたった今、即席の
墓標を立てて埋葬した筈だ。
 しかし、悪司へと日本刀の切っ先を向ける相手は元子の姿と
驚くほどダブった。艶のある長い髪、知的さを感じさせる広い額、
怜悧な切れ長の瞳は見据えるように悪司を映している。
 いや、よく見れば別人だ。トコを喪った心の空隙が悪司に見せた錯覚か?
だが、男ですらひるむ気迫、他人の命を預かるリーダーとしての雰囲気、
そしてその奥に潜む脆さ。何もかもが元子と重なる。
(こいつは反則だな。こんな奴と引き合わせるなんて、トコの奴の嫌がらせかな)
 悪司の口元に自嘲とも苦笑ともつかぬ笑みが浮かぶ。
「貴様、名を聞いてるのに嘲笑するか」
 悪司と対峙する相手、新選組副長・土方歳江は静かな怒りを込めた言葉を
乗せてゆらりと剣先を上げた。
(ふん、トコも俺が復員してきて抗争始めた時はあんなツラで向かって
きたもんだな)
「もう一度聞くぞ。貴様の名は?それと倉庫の件に貴様は関係してるか
答えろ」
 間合いは一足。援護は後方の茂みに潜む近藤勇子のみ。沖田鈴音とカモミール
芹沢は山頂への道を逆から周り込んでいる為に、この戦闘には間に合うまい。
 相手は素手でしかも一人、状況は圧倒的に有利の筈だ。だが、剣士としての
勘が歳江の足を踏みとどまらせる。
 そんな歳江の姿を見て悪司は笑った。嘲笑でも苦笑でもなく力強い自信を
抱く不敵な笑い。
「泣く暇も与えちゃくれねえのかトコ。……なら!」
 日本刀など意にも介さず、両手をズボンのポケットを入れたまま、
刀を構えた歳江へと突っ込んだ。刀対無手での戦いのセオリーを無視した突然の
攻撃に歳江も勇子も反応が遅れた。
 悪司の脳裏にオオサカ制圧へと駆け抜けたあの日々が蘇る。
「もう1度、始めてやろうじゃねえか!俺の……山本悪司の喧嘩をよぉ!!」
「歳江ちゃん!」
 勇子の銃剣『虎徹』が火を噴き、悪司の頬を掠める。
 掠めた傷の血を意にも介さず、悪司の蹴りが歳江の鳩尾へ吸い込まれる。
だが、蹴りに合わせて自分から後方へ跳びダメージを消し、開いた間合いを
歳江の片手平突きが悪司へ襲い掛かる。
 一つ、二つ。まさに、神速の突きが喉と心臓を機械の如く正確に狙う。かわせる
スピードでも急所をはずして受けてさえ無事に済む勢いでもなかった。
「甘ぇよ!」
 拳を水平へ振るい、刃身を横面から叩いて強引に必殺の軌道を逸らさせた。
同時に死角の下方から突きの為に伸びた刀の握り手を爪先で蹴り上げる。
「貴様こそ壬生狼を侮るな!」
 刀を叩かれ横へと流れた体を逆らわずに流しす。蹴り上げられた刀を素早く
手から離し、ぐるりとその場で回り、屈みながらの下段回し蹴りが悪司の軸足を刈る。
屈んだ歳江の後ろからは勇子が茂みから飛び出し、上段から悪司の脳天目がけて
『虎徹』を振り下ろす。上下からのピタリと息の合った攻撃こそが集団攻撃を得意と
する新選組の真骨頂だ。
「侮っちゃいねえさ」
 全てが静止する。『虎徹』の銃剣は銃身部分を悪司の左手で鷲掴みにされ、額の
薄皮1枚で止まり、膝骨を折れる勢いで蹴り込んだ歳江の足は、まるで根を張った大木
の如く微動だにしない悪司の足に阻まれた。
「化け物か貴様……」
 歳江の驚愕の呟きと同時に勇子が殴り飛ばされる。歳江が意識をそちらへ向けた
瞬間、肩口に悪司の踵が落とされた。
 激痛と同時に呼吸が一瞬止まる。だが、痛みにのたうつ間も無く胸元を掴まれ
吊り上げられた。痛みで脱力し、だらり両手が下がる。それでも、苦悶のうめきを
ただの一言も漏らさないのは流石としか言いようが無い。歳江の前に相変わらず
不敵な笑みを浮かべた悪司の顔が相対する。
「今度は俺がお前の名前を聞こうか?まさかトコの姉妹とか言うなよ」
「トコ……?知らんな、私は土方。新選組副長、土方歳江だ」
 あくまでも毅然と歳江は答える。たとえその身が敵中にあろうと、彼女の
強き心根はいささかも揺らいではいない。
(まったく、こんな所までトコとそっくりときてきやがる)
「そうか、お前が俺の大事な女とそっくりだったんでな」
 そう言って、無造作に歳江を地面へと放り降ろす。
「貴様っ!」
「悪司だ。山本悪司、職業は暴力的自由業……まあ、ヤクザだな」
 悪司はきびすを返し歳江に背を向けて歩き出していた。
「止めを刺さないのか……!?」
 先刻放り出した刀は手の届く位置に落ちている。未だ戦闘中だと認識
していた歳江にとって、止めも刺さずに敵に背を向けて歩み去る悪司
の行動は、およそ理解のしがたいものだった。
「トコの墓前を血で汚せねえよ。死にたきゃ身でも投げて勝手に死にな」
 言葉に滲むかすかな悔恨。守るはずだった者を守れなかった無敵の強者。
「だがよ、できればトコに似たお前には死んで欲しくねえかな」
 呟いた悪司の言葉と横顔に、歳江の心臓が早鐘を打った。
(なんだ、この男は……。死ぬ為に生きる私に死んで欲しくないなんて世迷言をっ!)
「山本悪司!次に出逢った時こそ刀の錆にしてやる」
 歳江の頭から、悪司へ後ろから斬りかかると言う選択肢はすっかり消えている。
「ああ、楽しみにしてるぜ」
 呵呵と笑いながら悪司は歳江の前から去っていった。
「あいつの女に私が似ているだと……!?」
 胸に湧き上がる例え様も無い感情を抱いて、歳江は去り行く悪司のその背中を
ずっと見ていた。

【山本悪司 @大悪司(アリスソフト) 装備・無し 状態・△(額に傷)行動指針:島内制覇? 招】
【近藤勇子@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態△(軽い昏倒) 所持品 銃剣付きライフル】
【土方歳江@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態△(打ち身) 所持品 日本刀】



前話   目次   次話