魔法じかけの人形
総帥の間の奥にあちこちにコードやパイプが繋がれている大きな機械人形があった。
「これを使う事になるとはな……」
ヴィルヘルムは大きな機械人形へ繋がったコードの先にある制御装置を弄る。
「だが、これこそまさに余の理想とするものの為に作られた魔法兵器だ。
主の命に絶対に忠実で、魔法使いを絶対視するようにされている。
……できた。 さぁ、目覚めよ……!!」
入力を終えると次第に機械人形へとパイプからエネルギーが、
コードを通し主と認識する為にヴィルヘルムの魔力が送り込められていく。
総帥の部屋から身の丈3mもある巨大な金属人形が出てくる。
それは、体格に似合わずにずんずんと廊下を渡り
周りの衛兵達を驚かせながらも要塞入り口のホールへと出て行く。
「な、なんだ……あれは」
中央を目指すものたちの対策をしようとホールにいたケルヴァンは、
階段を降りてくる巨大な人型の機械を目に映らせ驚愕した。
(あんな堂々とした侵入者はいないと思うが……。
まさか、ヴィルヘルムがあんな機械を使うとも思えない……)
段々とケルヴァンに近づいてくる機械人形。
「……くっ!?」
威圧に耐え切れず、彼は思わず腰の剣に手をかける。
「我は闘神ユプシロン。 主、ヴィルヘルムの命に従い中央を守護する」
「なっ!?」
『HAHAHA!! そんなに驚かずともよい』
「そ、その声は、総帥……?」
『そうだ、通信用水晶を埋め込んであるのでな』
確かに機械の中から総帥の声が聞こえてくる。
「ですが、これは一体?」
機械を最も嫌うヴィルヘルムが機械を使っている。
しかも自分は、このような存在を知らされていなかった。
ケルヴァンにとっては、何が何だか解らなく?が頭を占拠する。
『これこそが魔法の為にある機械。 究極の魔法兵器とも言える存在。
…………闘神ユプシロン』
「闘神……?」
闘神。
それは、ランスや五十六のいた世界の遥か昔に遡る。
その世界で魔力が世界を制した時代に。
そして魔人と戦うために作られた存在。
人に永遠の生命を与えるべく究極の魔法、「バイオメタル」脳細胞を金属に変えるその魔法で、
体長3メートルにも及ぶ巨大な金属の人形に生まれ変わらせたもの。
残念ながら闘神になると元の人格は失われ、主の命に従うだけの兵器となる。
だが、魔法を使いこなす機械人形なのだ。
そのポテンシャルは、非常に高い。
「これがその闘神であると……」
『そうだ、破壊されていたのを余が見つけ、この時の為に備えて修繕したものだ』
そう、闘神ユプシロンは数年前、奇しくもランスの手により破壊されていたのだ。
ユプシロンには一つの特殊なシステムがあった。
生体エネルギー供給システム。
魔法使いの女を背中にある球に入れ、そのエネルギーで無限に活動しつづけるというものである。
……が、当のヴィルヘルムが魔法使いを犠牲にする非人道的なシステムを嫌ったため、
中央から電波のように魔力を飛ばし、供給・命令するタイプへと切り替えたのだ。
無論、本来の供給システムに比べて、効率が悪い為、無限に再生する事は不可能だ。
また行動範囲も中央から結界維持装置周辺までに限られている。
「なるほど……。 中央を守護する役には打ってつけと言うわけですが……」
ヴィルヘルムより説明を聞いたケルヴァンが頷く。
(そして、ヴィルヘルムの言う事を100%聞く忠実な駒というわけか。
切り札として隠すわけだ)
そう心の中で舌打ちするのだった。
『こいつは、中央付近を巡回待機させておく。 其方も警備を怠るでないぞ』
「はっ!! 重々に承知しております」
一礼をするケルヴァンを、そのままユプシロンは通り抜け外へと出て行った。
「切り札を出した……。 それほどまでに動くわけにはいかない事情が有ると言う事なのか……」
【ヴィルヘルム・ミカムラ:所持品なし、状態△ 鬼】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 状態○ 鬼 行動方針:中央を目指すものへの応対とヴィルヘルムへの詮索】
【闘神ユプシロン:所持品:通信用水晶内蔵 状態○ 鬼 行動方針:中央の守護 備考:移動範囲が中央から結界維持装置付近まで】
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