考察






放送終了とほぼ同時に彼らは、例の建物に辿りついたのだが…。
「なるほど、あんなのがいたんじゃ迂闊に手は出せないな」
良門はそっと木々の影から顔を覗かせ嘆息する。
狼に似た巨大な魔物が、ぐるると唸りながら建物の周囲を徘徊している。
その建物の中からは、確かに何やら”気”のようなものが発散されているのを3人は感じていた。

その気の流れは良門と忠介にとってはただのエネルギー的な物としか考えられなかったが、
魔法科学のエキスパートたるナナスには周囲の状況等を考察した上での答えがどうやらある様だった。
ナナスは悔しそうな表情で2人に説明する。
「結界は単純に彼らの本拠地を守るための物でしか無いと思っていました」
「ですが、実際は外部からの干渉を防ぎ、なおかつ僕たちを逃がさないための物です」

「でも悪い話ばかりじゃないですよ…放送を聞く限り実は帰る方法そのものが一応あるみたいなんです…」
声を潜めるようにナナスは2人に話しかける。

「僕らをこの世界に呼び寄せた召喚装置イデヨンなんですけど、あれは大きな欠点があるんです」
実際はここにはイデヨンは無く、あくまでもイデヨンの稼動に干渉するための魔導装置があるわけだが。
あると仮定してナナスは話を進める。

ナナスの話によるとイデヨンは起動の際、莫大な地脈エネルギーを消費するということだった。
それゆえに無限に等しい高エネルギーで溢れ返っている異空窟以外の場所では実用不可で、
普通の場所では有限のエネルギーを強引に引きずり出すような形で運用することとなる。
そしてそのムリヤリな運用の果てに待つものは…。

「暴走ってことか?お決まりだな」
忠介の言葉に重ねるように良門が口を挟む。
「暴走すればどうなる?」
「この島がどれくらいの大きさなのかは知りませんけど、半分くらいなら軽く吹き飛ぶかも」
こともなげにナナスは言い放つ、ナナス自身、いざとなればイデヨンを異空窟の奥底に切り離して
要塞ごと全速で離脱するという、それだけの覚悟があっての起動だったのだ。

「ああでも、多分多少魔法科学に心得のある相手なら、その危険性にも気がついているはずです
 少なくともイデヨンを複製できるほどの知識を持つ者ならね」
島の半分という言葉にひるんだ2人にナナスはフォローを入れる。

「と、いうことは本拠とは別の場所に設置している可能性が高いというわけか」
「君が先に話したとおり、中心部にしっかりと設置するのがセオリーだろうが、放送の中身が確かなら
 稼動状態があまりにも不安定過ぎる、これでは危なくて本拠には設置できないはず、ということか」
「ええ、暴走した場合、最悪本拠地だけでも守るためにね」

「なら、これから俺たちはどう動けばいい?」
ナナスは少し考えてから応える。
「詳細な地図が欲しいかな…もしくは島全体が見渡せるほどの高い場所に行くか
地脈の充実している場所は地形を見れば大体は見当がつくから」
「それで例えば、地形と照らし合わせて、その場所に何の脈絡も無く雪でも降っていたり
 砂漠化でもしていればそこをエネルギー源としてる可能性は高いかと」

「で、イデヨンとやらを見つけたらどうする」
「状況次第ですね、破壊するとして世界には復元力というものがあります、
 僕らをこの島に招いた元凶であるものを破壊すれば、自ずから僕たちは元いた世界に帰れるはずです」
実はもう一つ考えている手があったが、それをナナスは口にしなかった。

「つまり分かりやすくいえば、今の僕らは糸が伸びきったまま、手元に戻らないヨーヨーみたいなものです」
「なら、原因さえ取り除けば、勝手に元に戻れるというわけか…」
ナナスの例えに納得の表情で頷く忠介。
「あたりまえのようにね」
「だけど、ここでまた別の問題をクリアしないと」
「というと?」

「話した通り、彼らは外部からの干渉を防ぐと同時に、内部からの脱出を阻むように結界を設定しているはずです、
 したがってイデヨンを破壊したとしてもそれだけでは、対処されてしまう可能性が高いです」
確かに生け簀を破っても、その先に定置網が待っているのなら結果は変わらない

「ここからは理想論になるけど、それぞれの結界維持装置と、そしてイデヨンをほぼ同時刻に破壊することが
出来れば…」
「相手に対処のスキを与えることなく、逃げることが出来るというわけだな」
良門が合いの手を入れる。
「で、結界を破る前にイデヨンが暴走したり壊れたらどうなるんだ?」
「島が消し飛ぶのといっしょに死んじゃうか、それとも戻る手段の無いまま、
ここで一生暮らすことになるかのどちらかだろうね」
こんな辺鄙な島で一生涯…それを考えると流石に3人ともげんなりとしてしまう。

「あのさ、ここまで話してくれて悪いんだけど、君のいうイデヨンがここに無い場合はどうなるんだ?」
忠介の言葉にナナスは淡々と応じる。
「先ほども話したとおり、イデヨンは大量のエネルギーを消費します、それに干渉するには
さらに大量のエネルギーを必要とします…ということは」
「危険はますます大きいというわけか」
「少なくとも、そこまでの高エネルギーを代償無しにマトモに制御できる技術は存在しえないと思う、
 等価交換や質量・エネルギー保存の法則は魔法だろうと何だろうと、物質世界での不変原則だからね」
ナナスの言葉に頷く忠介。
「もし、実際にそんな技術が存在していて、自在に使いこなせるのなら」
「こんな回りくどい方法は選択しないと思うし、こんな不安定な結果にはならなかったと思う」
じゃあ、神様の思し召しかもと、そこで忠介が突っ込む。
だとしたら随分と間の抜けた神様だなと良門も笑う。

「しかし実際にお前の方法でやるとしたらかなり面倒だぞ…」
良門に同意するかのように苦笑するナナス。
自分の仮定が正しいとしても、あえてカギとなる装置を本拠とは別の場所に置いているのだとすれば
その守りは本拠地以上かもしれない。

さらに、いくつあるのかも分からない結界維持装置の位置を全て把握し、
なおかつその守りを崩せるだけの人材を確保し、
さらにそれらを全てほぼ同時に破壊する…気が遠くなるような手間だ、
しかも誰が敵で味方かもまるで分からないのだ。
そう考えると素直に中心部に殴りこむ方法を考えた方がマシかもという気分になってくる。

「まだ仮定と予測の段階だから、他にもっといい方法があるのなら喜んでそっちに乗り換えるんで」

そんな3人の耳にまた唸り声が聞こえる。
フェンリルは恐らく八雲の攻撃によってだろうか?幾分弱っているものの、
未だに唸り声を上げて周囲を徘徊している、これ以上の長居は明らかに危険だ。
「まずは協力してくれる人を探そう、それからだね」

【ナナス@ママトト(アリスソフト)招 状態○ 所持品なし】
【小野郁美(良門)@Re-leaf(シーズウェア)招 状態◎ 所持品ハンマー】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron)招 状態○ 所持品改造エアガン、手術用道具入りケース、
液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない)】

【場所:西の結界装置】



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