無題
捻れ捻れて。
再び、場所を森の中へ戻す。
一人と一匹のコンビがてくてくと歩きつづける。
ピタッ。
二人が歩くのを止める。
「困ったね」
「ええ、完璧に迷いましたね……」
そう、ハタヤマとアーヴィは見事に道に迷っていたのだ。
木の年輪を調べてみたが、均一になっており役立たず。
見渡せる場所はないかと探したが、付近には一望できそうな丘はない。
遠くの方に山が見えるが、いくにしても物凄い距離がありそうである。
「うーん、大分歩いたし、少し休もうか」
ハタヤマが休憩を提案した。
二人は、そのまま近くにあった木に寄りかかると一息つく。
「せめて、方角さえ解れば……」
「木の年輪もダメ、やっぱりあの遠くの山に登るしかないのかなぁ」
「標札でも立っていればいいんですけど」
「流石にそれはないと思うよ……。 あっ」
丁度、上を見上げたハタヤマににあるモノが目に付いた。
「ちょっと、待っててよ」
そう言うとハタヤマは、するすると側にあった木を上り始める。
「どうしたんですか、ハタヤマさん?」
アーヴィが木の上に登ったハタヤマに声をかける。
「うーん。 木に登れば、何か見えるかとも思ったけどダメだったよー」
「そうですか……」
「でも、面白いもの見つけたから落とすね。 ちょっとそこから離れててよ」
「……?」
ハタヤマに言われた通りに、アーヴィは木の下から少し離れる。
丁度、離れると同時にボトッと木の上から幾つか球体が落ちてくる。
「これは、……リンゴ」
続いてハタヤマがすたすたと木から降りてくる。
「本当は、これを見つけたから登ったんだよ」
えへへと笑顔をアーヴィへと向けるハタヤマ。
「ほんとだ。 これだけリンゴの木だから目立ったんですね」
「うん。 ちょっと待ってて、毒味するね」
そう言うと、アーヴィの制止も待たずにパクッと一口食べるハタヤマ。
「うっ…………」
「ハ、ハタヤマさん、大丈夫ですか!?」
「美味しいいぃぃいい!!!」
「お、驚かさないで下さい」
「ごめんごめん、だってここに来てから、やっと取れた食事なもんだから美味しくって」
「もう……。 心配かけないで下さいね」
「うん、今度からは気をつけるよ」
「それじゃぁ、頂きますね」
ハタヤマの取ってきたリンゴをしゃくっと女の子らしくかじるアーヴィ。
ハタヤマの方は、既に二個目をがぶりと食べ始めている。
談話も交えて、束の間の休息を満喫する二人であった。
が、ハタヤマは忘れていた事を今の毒味で思い出していた。
ハタヤマがメタモル魔法を習うきっかけになったのは、
フェンリルの毒を浴びた事が原因であった。
そのフェンリルは、他でもないハタヤマの闇魔法の師匠篠原さんが正体である。
当時、学園で女の子を襲う魔物がいるからとクラスメートと一緒にハタヤマが討伐に行き、
変身していた篠原さんを退治した時に毒を浴び、あれやこれやで師弟関係が生まれたのだった。
そしてメタモル魔法を習うきっかけになった一つに、
フェンリルの毒を定期的に体外へ排出しなくてはいけないというのがある。
勿論、ぬいぐるみ科チャック族のハタヤマでは、そんな事はできない。
そしてその為に篠原さんから教わった方法は、とんでもない方法であった。
<メタモル魔法で変身し、女の子を襲って射精する>
同意してくれる相手がいれば構わないが、「やらせてくれ」というのもまた無理な相談であった。
幾ら人間の女の子にモテるために人に成りたがっていたハタヤマでも
実際に襲うのにはためらいがあった……。
だが、このままでは毒が体内に残留しつづけやがては死にいたる。
篠原さんの甘い誘惑とそれに負け、闇魔法をメタモル魔法を学びながら、
女の子たちへ悪戯する事で毒を排出していたのだった。
(どうしよう、すっかりその事を忘れていたよ……。
でも、毎日やらなくても死にはしなかったし、2〜3日はまず大丈夫そうだけど、
苦しくなってきたら、どうすればいいんだろう……。
まさか、アーヴィちゃんを襲うわけにも、かといってこんな事をお願いするわけにも……)
リンゴを食べながらもうーんうーんと悩むハタヤマ。
実際には、何度目かの悪戯でとっくに毒は排出され尽くしていて、
未だに篠原さんに騙されてるだけなので、その必要性は全くないのだが。
一方、横でハタヤマが悩んでると見えたアーヴィは、
(ハタヤマさん……。 きっと私の事で悩んでる。
なんかハタヤマさんってナナスに似てるな。
お人よしで、自分で背負い込んじゃって……)
勘違いも全くはなただしかった。
ずさっ。
休憩している二人の前にいかつい長身の男が姿を現した。
「アーヴィちゃん、下がってて……」
ハタヤマがアーヴィの前に一歩踏み出る。
「己の名は、ギーラッハ。
我が主の命により、汝達を中央へと保護しに参った」
前回のせりなの時の反省を活かして、今度は最初から名乗るギーラッハ。
「ハタヤマさん、もしかして」
「あいつの仲間みたいだね……」
ギーラッハへと聞こえないようにひそひそと話をする二人。
襲って来ない所を見ると、まだ彼は、ハタヤマたちとアイが交戦した事を知らないようである。
「ぼくに、任せて、考えがあるんだ」
「闘うんですか?」
それならば私も戦うとアーヴィは乗りでようとする。
「ううん、違うよ。 大丈夫、回避してみせるよ」
「解りました」
「受け入れられないのなら、此方にも考えがあるが……」
そういいつつ背中の大剣に手をかけるギーラッハ。
「やだなぁ。 そんなに怖いこと言わないでよ」
ニコっと笑顔でハタヤマがギーラッハに語りかける。
「では、己と共に来てくれるのだろうか?」
「君の主って、ヴィルヘルム・ミカムラでしょ?」
「な、何故、それを知っている!?」
ハタヤマにしてみれば当然で、ギーラッハにしてみれば驚愕であった。
「いやぁ、彼ってぼくの通ってた学園の校長なんだよ。
ぼくもね、校長に会う為に中央へ行こうとしてたんだけど、道に迷っちゃってね」
「う、うむ……」
(どうする? 嘘を言っているようではない。
ケルヴァンから受け取った書類によると
実際に、生徒なのだから今回の事を聞かされて、召還されていたとしてもおかしくはない)
「いやぁ、召還されたんだけど、気づいたら辺境にいるもんだから吃驚したよ」
(やはりそうか……。 召還は不安定だったらしいからな。
予定外へ飛ばされた者がいてもおかしくはあるまいだろう……)
嘘が嘘を塗り固め、ギーラッハはハタヤマの嘘にはまっていく。
「大丈夫。 中央の方角と道さえ教えてくれれば、幾らぼくでもたどり着けるよ。
そう簡単にやられるほど、ぼくは弱くないしね」
「我が助けはいらず……か。
ヴィルヘルム殿が目にかけるだけの逸材ではあるな……。
信じよう。 其方のアーヴィは?」
「私もハタヤマさんと一緒に中央へ行きます」
「了解した。 このまままっすぐ北……私の向いている方へだ」
言いながらくるっと中央へ身体を向けるギーラッハ。
「この向きの北西に山のような丘が見えるだろう。
それを目印に北へ進めば、歩いても早ければ数時間で着けるはずだ」
「ありがとう、それじゃぁ、ぼく達はいくね。
おっちゃんは、仕事頑張ってね」
「う、うむ……。 心遣い感謝する」
そのままハタヤマとアーヴィは、ギーラッハの示した中央への方角へと歩き始める。
それを見送ったギーラッハも、すっかりと信じたようでそのまま次の任務へと移る。
「やりましたね、ハタヤマさん」
ギーラッハが見えなくなった所で、アーヴィがハタヤマに語りかける。
「変に争って危険な目に会うのはもうごめんだからね」
前回とは違う、アーヴィを危険な目に会わせたくないと言うハタヤマ。
「ふふ……」
そんなハタヤマに優しげに微笑みかけるアーヴィ。
「そうだ、リンゴ少し持ってきましたよ。
この先、入手が困難になるかもしれませんし……」
「さっすが、アーヴィちゃん」
てくてくと、北へ向かって歩きつづける一匹と一人。
彼らの行く末には、何が見えるのだろうか?
【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態○ 招 行動方針:中央へいって全てを見極める】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、リンゴ3個 状態○ 招 行動方針:ハタヤマと共に】
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