トランスミッション






アイと悪司、それから五十六とあゆ…奇妙な邂逅だったが、それはほんの僅かな時間に過ぎなかった。

ピンポンパンポーン
緊張の中を割って入った放送…4人はやや拍子抜けした感を持ってそれを聞いていた。
そして放送が終わったと同時だった、悪司が追撃を再開するより早く、何故かアイはいずこかへと
立ち去ってしまったのだった。

「っ!逃がしたか…変なタイミングで放送なんぞ入れやがって」
負け惜しみを口にしながら悪司は、そのまま立ち去ろうとする。
「何処へ行くのさ?」
ようやく唐突な展開から立ち直ったあゆが悪司へと声をかける。
「あんたらも聞いただろう?嫁さんの敵討ちにいくのさ」
それは2人にとってまさに衝撃的な言葉だった…。
「その様子だとあんたらあいつらの仲間じゃないだろ?邪魔したな、あばよ」
言葉を失ったままの2人を尻目にまた先を急ごうとする悪司だったが、その時だった。

ヒュ!と悪司の耳元を風が霞める、と、彼の喉元数センチの所の木の幹に矢が突き立っていた。
「待て、故あってお主をこのまま行かせるわけにはいかぬ」
矢を放ったのは五十六だった。
「どういうつもりだ」
予想外の攻撃に怪訝な顔をする悪司。
「何故なら…」
そこまで言いかけて五十六はやや迷ったような表情を見せる、が…意を決して次の言葉を言う。
「何故ならお主の新妻を襲ったのは我が主だからだ」

「何だと…テメェあの人でなしの仲間だってのか」
悪司の顔がみるみる間に憤怒の表情に染まっていく、だが五十六は冷静に言葉を発していく。
「確かにランス殿が行ったことは人として許せぬ所業だ、だが、例え弁解の余地なき外道と言えど、
 力ある者に仕えることこそ乱世の処世術、我が忠義にはいささかの揺るぎもない、したがって」
五十六は矢を弓につがえ、悪司に向けて構える。
「どうしても行くというのならば、不本意なれど討たせてもらう」

「おう!良く言った、ならまずテメェから血祭りだ!」
売り言葉に買い言葉で応じる悪司だったが、表の怒りの表情の裏では冷静な計算を行っていた。
(マズイな…)
いかに超人的なタフネスを誇る悪司でも、人間である以上決して鍛えることの出来ない急所は存在している。
五十六の技量ならそれを苦も無く射抜くことが可能であることは、悪司には充分理解できた。
つがえられた矢は5本、
(5本中2本は確実に食らうな・・・そこからどうするか)
問題はその2本をどこに受けるかだ…両目かもしれないし、耳かもしれない、はたまたアキレス腱か…。

そして一方の五十六も、
(5本中2本は確実に命中するはず・・・だが)
その2本で果たしてこの目の前の男を止める事ができるのか…。
にらみ合いはしばらく続いたが、やがて悪司が苦笑しながら踵を返す、
ここで命を張るのは割に合わないと判断したのだ、それに五十六の心情も分からないわけではなかった。
「勝負は預けたぜ」
そう言い残し悠々と立ち去る悪司、その背中はスキだらけだったが、五十六の手は動くことはなかった。
「お見通しというわけか」
彼は一連の会話から、山本五十六という少女がいかなる相手であろうと、背後から騙し射つような真似は
決してしないし、また出来ないということを見ぬいていたのだった。

五十六はそれからまだしばらく考え込んでいたが、やがて。
「あゆ殿…すまぬがここで別れよう」
と言ったときにはすでにあゆの姿はどこにもなかった。
「そちらもお見通しというわけか…」

一方、五十六から別れた後の悪司だったが、自分が何時しか背後を尾けられていることに気がついていた。
「せこい真似を…」
と、言いかけたところにその本人、大空寺あゆが姿を現した。
「おい、頂上に野ざらしになっているのはどうするつもりさ」
「るせぇな…」
あゆには構わず先を急ごうとする悪司、しかしあゆはしつこく追いすがってくる。
「現実を受け入れるのが恐ろしくなったんか?だから復讐で自分を忘れたいんか?」
あゆは容赦無く悪司を口汚く罵る。
「……」
悪司は応じることなく、黙々と足を進める、どれくらい経過したのか、ついにあゆの堪忍袋が爆発した。

「あほんだらぁ!嫁さんの亡骸ほったらかしにするつもりかや!!」
「その上、死んだ人間の最後の言葉まで踏みにじるつもりか!コラァ!!この恥知らずがっ!!」
ここまで言われると悪司も黙ってはいられない。
「いいかげんにしやがれ!!俺は何が何でもトコの敵を討つって決めたんだ!」
「これ以上減らず口を叩きやがると」
悪司はあゆの口元を掴んで思いきり引っ張る。
「テメェから犯っちまうぞ」

「みゃだひゃなひひゃふんへなやー」
ふにふにと苦しそうに、だがそれでも懸命に訴えかけるあゆ、それを見ているうちに悪司の手が緩む。
「死んだ人間の言葉に何時までも縛られろとは言わないさ…けれどせめて守ろうとする姿勢は見せて欲しいさ、
 でないとあまりにも浮かばれないじゃないかさ!」
ここぞとばかりに訴えるあゆ、その瞳には涙が光っていた、何事においてもシニカルでリアリストな
彼女には珍しい姿だった。
暫し無言でその様子を見ていた悪司だったが、張り詰めたものが切れたような表情を浮かべると、
意を決したように、元の道を引き返し始めたのだった。

山頂にて。
「ここから先へは来るんじゃねぇぞ」
「ああ、思いきり泣いてくるがいいさ」
あゆの言葉に悪司は一瞬むっとした表情を見せたが、
ああとだけ呟くと山の頂に安置されたままの新妻の元に歩み寄る。

「私は決めたさ、お前が何時まで遺言を守るかその嫁さんの代わりに見届けてやるのさ」
背後からあゆが叫ぶ、負けじと悪司も叫び返す。
「勝手にしやがれ!でもよ、あのイソロクはいいのか」
五十六の名前を聞いてあゆは寂しそうに目を伏せて応える。
「次に会うときは多分…敵さ」


【アイ @魔法少女アイ(colors) 装備・ロッド 状態・○  鬼】
【山本悪司 @大悪司(アリスソフト) 装備・無し 状態・△(額に傷 招 行動方針:元子の遺言を守る】
【大空寺あゆ @君が望む永遠(age) 装備・スチール製盆 状態・○ 招 行動方針:悪司に付いていく】
【山本五十六 @鬼畜王ランス(アリスソフト) 装備・弓矢(残数16本) 状態・○ 招 行動方針:ランスを探す】



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