脳力者・後






「そこで井出さん…今回の件で、F&C諜報部(広報)の動かしたいのですが…」
「事実上諜報部は君の管理下だからね、君の子飼いの諜報員も既に動いているのだろう?」
「知っていましたか…」
「なんと言ってもここは”井出商店”だからな。」

こうして、高田馬場の夜はふけていった。



次ぎの日のアリスソフト、ハニービルでは、始業の音楽とともに各社員がパソコンに向かっていた。
(んー…そろそろ種明かししとくべきだね。)
TADAはおもむろに自分の席を立つとHIROのブースへと向かった。
「HIRO君、あとでちょっといいかな?」
といってTADAは、ディスプレイに向かっているHIROのかたを叩いた。
「終業時間終わったあとに僕のところにきてね。」
………
日が傾き、社内には終業時間を知らせる音楽が流れていた。
社員が皆退社していく中、ひとりTADAのブースへと向かうものがいた。

「TADA部長…」
HIROが話し掛けた相手…TADAは自分のブースから夕焼けにより赤く染まっている天満を見下ろしていた。
その後姿からは、いつもの安穏とした雰囲気は微塵も感じられなかった。
「今のこの業界はまさに下克上だと思う…。」

おもむろにTADAが口を開く。
「たとえばkeyさんなんかがその代表例か…まぁ、VAの資金力、スタッフの話題性と技量南下の後押しがあって…というのは言うまでも無いが。」
「はぁ…」
「それでもね、やはり今のこの状態は緊張状態にある硬直なんだ。」
「僕はその”らち”をあけようと思うんだ。」
TADAは淡々と語る。
「そうすれば大きな”戦争”が起こって、力なきところは淘汰され業界を元の形に戻せる…と思っている。」
「…部長」
窓から外を見下ろしていたTADAが振り返りHIROに視線をあわせる。

HIROは正直戸惑った。
今、目の前にいる男の重圧は一体なんなのだろう。
めがねッ子好きの親父とはあまりにもかけ離れている。
「HIROくん…。」

「君と、夜のチームにはその”らち”をあけてもらおうと思ってるんだ。」
「どこ、とは言えないけど近いうちに何らかの接触が君のところにいくと思うから、そこにいってかき混ぜてきて欲しい。」
「ある程度かき混ぜたらそこを出て来て戻ってもらう。」
次にTADAがつむいだ言葉はさらにショッキングだった。
「そうなったら後は、中小のハイエナにむさぼられて終了、戦争の幕が上がる。」
と、いきなりHIROにかかっていた重圧が無くなる。
「じゃあそういうわけだから、がんばってねー。」
「お疲れ様〜、帰って提督の決断4でもやろっと、はにほー」

後には、冷や汗をぬぐうHIROが残された…。
「部長…いや、あの男は絶対に敵に回しちゃいけない…。」

数日後、F&C諜報部(広報)が極秘裏に夜開発チームに接触してくるのだった。



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