脳力者・前






TADAは一人自分のブースで考えていた。
今の業界とアリスソフトの身の振り方を。

そう、アリスソフトならば現状の維持さえ続けられれば恒久的に問題ないはずであった。
その報告を聞くまでは…。

北海道のソフトハウスが結託するらしい。

札幌のアリス会員から情報とそのソースたるメモリースティックが送られてきたのだ。
メモリースティックにはアボガドパワーズの社長、浦和雄の熱弁が録音されていた…。

今の業界は大まかな見方として、エルフ、F&C、そしてアリス
この三竦みの状態であるとTADAは考えていた。

そしてこの状態が崩れた瞬間に何らかのアクションを起こすだろうメーカーとして
VA、千代田連合、D.O.+祖父倫をマークしていた。
三竦みの外にもうひとつ三竦みがあり、相互に牽制しあっている…
そしてその外周に、中堅と呼ばれるメーカーがひしめき合っている。

その枠組みがが北の同盟により破られようとしてる…。
机の上に載せられた紙に、ハニワを描きながら、TADAは悩んでいた。

仕掛ける時期とその相手を…。

「うーん…。」
TADAは一言うなると机から六角鉛筆を取り出した。
「せめて大悪司が出た後なら悩まなくてもすむんだけどなぁ…」
といいつつ鉛筆を転がす。”A”と書かれた面を表にして鉛筆が止まる。
「アイデスさん…かぁ」
「TADAくん、どーしたん?」
といいながら、そこにとりが姿をあらわす。
「乃絵美がめがねッ子だったら、よかったんだけどなぁ…そんでもって夜のキャラを苛めるんだったらなぁ」
「とぉっ」
すびしっ。
間髪いれずとりが突っ込む。
「あほなこといっとらんと、わかめ作んなさい。」
「は…」
「はにほーっ、いいこと思いついちゃったよ。」
という間に、崩れかけたハニワしか描かれていなかった紙に、三角や丸、矢印、めがねが書き込まれていく…。
「はにほー、はにほー」
「…わかめちゃんと作るんよ。」
とりは無駄だと知りながらそういって、TADAの前から去った。
(あの調子だときっと1ヶ月は延びるだろうなぁ)
依然、背後からは「はにほー」という声だけが聞こえつづけた。


翌日、TADAは夜開発チームに社内LANでメールを送った。文面は
「とりあえず会議室にきて」

会議室の前にきた夜開発チームは扉の前で顔を見合わせた。
会議室の扉には
「夜開発チームお説教中、入室厳禁 はにほー」

という張り紙が出ていた…。
「バグいっぱいあったし、ゲームバランスもあれだったからなぁ」
とりあえず、会議室に入っていった一行が見たものは以外にも笑顔の部長だった。

「あー、とりあえず鍵かけてねー。」
最後に入ってきたkarenが扉に鍵をかける
「これから秘策を授けるから、よく聞いてね」
室内にいる全員が息を飲む。

「全員F&Cに出向ねっ。」
「………」

五月のある晴れた日のことだった。



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