北の動乱






五月某日

札幌の都心から車で数十分に位置する有限会社スケアクロウこと、アボガドパワーズの事務所では、緊急の会議が開かれていた。

「このままでは業界は先細りの一途をたどるっ!!」
あぼぱ社長(兼資金提供者、兼雑用)、浦和雄は開口一番そう切り出した。
「パイの数がが変わらないのに、それを奪い合うメーカーが増えれば収益が下がることは自明。」
「うちなんかは火の車だっ」
その場に居合わせた開発スタッフ全員、さらに浦自身も自ら突っ込むことはしなかった。(何が起きてもいつも火の車だ…とは。)

「言いたいことは、よーく分かるんですけど、じゃあ実際問題どうする気ですか?しゃちょさん」
無言で聞く浦。
「うちらから業界に何か吹っかける、なんてことは絶対無理ですよ。基礎体力がないんですから。」
そう、それは…誰しもがわかっていることだった。
無論、浦自身も重々承知の上だ。

「まぁ、大槻聞いてくれ。」
「確かにうちは貧乏だ。不渡りになりそうなことだって何度もあったし、俺のせこいバイトでどうにか持っているようなものだ。」
「しかし、俺は社長として、社員を養わなきゃいかん。それが会社をまとめるものとしての義務だ。」
「とびでばいんのマスターアップも終わって、流通におろした分でとりあえず経営は五分ぐらいにはなる。」
「しかし、このままの状況ではじきにどうにもならなくなる時がくる。」

開発スタッフ全員の顔色が翳る。
「そこで…だ…」

「パイの数が変わらない以上、そこでのシェアをいかに伸ばせるか…そこが最も重要となってくるわけだ。」
「せっこいビジネスソフトの下請けをやりながら、打開策を考えてみた。」
といい、浦はそれぞれのスタッフに概要をプリントした物を配った。
「まず第一に、他の市場へも手を広げる、という案。」
「…だが、うちらはあくまで”えろげー”を作ることに誇りを持っている。他の業界へ手を出すなんて考えたくもない。そんなことするくらいなら、どんな仕事をしてでも、俺は”えろげや”を続ける。」
表情を少し緩め…
「こんなのは、ぽいぽいぽ〜いだ。」
と、そのページを破り投げ捨てる。
「つぎの案、いいゲームを作る」
「そう、いいゲームをコンスタントに作って1年1本ペースでも片手内輪で遊んで暮らせるぐらいのゲームを…だ。」
社員全員から声があがる。いいゲーム以外は作っちゃいない、と。
「ゲームの質では、絶対に大手に引けを取っていない。それは俺も認める。」
浦は言葉を続ける。
「だが、やはり厳しい、つまりそれはいままでの路線で行くということだ。」
会議室の空気が重くなる。
「とりあえず、次のページをめくってみて欲しい。」
そのページには、ただ一言

北海道同盟

とだけ印刷されていた。
誰となく「リューノスか」という声があがる。

「正確には…違う」

「それは、真の意味での北海道同盟…アーカムの枠をはるかに越える、最終手段だ。」
会議室がざわめく。
「文字どうり北海道のソフトハウス全部に声をかけてみる。」
「うちの会社の力だけじゃ半分も集まらないですよ、きっと」
最古参の秋山、ケン太両名が口を揃える。
「確かに…現実はそんなに甘くない。俺の力だけじゃ多く見積もってもアーカム関係ぐらいしか味方にはできんだろう。」
「じゃ・・・じゃあどうするつもりなんですかっ」
少し間を置いて
「まず、あの漢に声をかけてみようと思う。」
「メイビーソフト社長、日高真一に……」
「しかし社長はあそこを退社した身では…」
「社員のためなら意地ぐらい…いくらでも捨てるさ。」

秘密裏に会議は核心へと進んでいった。

桜も完全に散リ終わった5月、北の地で静かに、しかし確実に物語りは動き始めた。



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