点と線
花沢不動産社長は、携帯電話の画面を見て舌打ちした。
「棟梁のロボットと磯野さんちがついに衝突したか……中島くんたちはまだ現場に着いていないようだな。しかし、今から行っても何が出来るか……」
磯野家と駅前で起きている二つの戦闘についての情報は、町中にいる協力者たちから次々に寄せられてくる。
こんな大きく戦局が動く局面を見逃すわけには行かなかったが、大っぴらに出て行くわけにも行かない。
現場については中島たち一味の者に任せて、自分はあくまで「不動産屋」としての仕事をしなくてはいけない。
夜闇と混乱に紛れて花之丞がやってきたのは、ちょっとした知り合い関係にあるリカの家だった。
目的はリカの家族の状況を探ること。
母親は放送で死亡を確認したが、父親とリカについては情報が少なかった。
リカは今日の夕方までは目撃情報があるが、子どもゆえに不確定要素が大きい。
「ここいらで確定させとかないと、今後ちょっと動きにくいからなあ……」
知り合いという者は、味方にもしやすいが一歩間違えば足を掬われかねない存在である。
花之丞は不動産屋社長の特権として手にしている合鍵でリカの家へと侵入した。
足を忍ばせて部屋の中を一つ一つ見て回る。
最初に目にしたのは、リビングルームの中央に横たわる女性の死体。
リカの母親のものに相違なかった。
花之丞は顔色一つ変えずにその死体を検分する。死因は背中からの刺殺だった。
家の中で事切れているところからすると、犯人はもしかしたら……
さらに台所の生ゴミの腐敗具合や埃の量から、丸一日はこの家に誰も帰っていないことを確信した。
そもそも死体をそのまま放置しているくらいなのだから、ここへ戻るつもりもないのだろう。
リカと父親の向かった先を突き止めようと、さらに家の中を渉猟する。
特に目を引くようなものはなく、花之丞はただ、この家をこの状況下で誰かに貸すとしたらどれくらいの家賃が妥当だろう、ということのみを考えていた。
ある扉の前で、花之丞は立ち止まった。
五感が何かを感じ取ったのか、あるいは単なる勘か。
答えを出すのは後回しにして、その風呂場のドアを開いた。
中にあった二人分の死体を眼にして、花之丞は初めて驚愕した。
人が死んでいたから、ではもちろんない。
そこにあったのは服装からしても体格からしても、リカとその父親のものに相違なかった。
ただ一つだけ不可解なこと――それはその二人分の遺体、殊にリカのものが、どう見ても死後数日以上経っていたことである。
「花沢さんのお父さんが第一発見者になったか……しかし、果たして真実に気がつくかどうか、見ものだのう」
主催本部にて、椅子の上でモニターでリカの家の様子を見ていた波平は愉しそうに笑った。
その傍らには波平の片腕、磯野藻屑が実体化して経っている。
「雪室先生の世界のデータを用いてリカの偽者を再現するのはなかなか骨の折れる作業だったのだぞ。雪室先生を間違ってこっちの世界につれてきてしまうというオマケまであったしのう。それなりに愉しい結果になってくれんと困るわい」
「わかっていますよご先祖様、ようやくそうなりそうじゃないですか」
波平は藻屑の愚痴に、自信満々な様子で答えた。
そう、「リカ」などという少女は、この世にはもういないのだ。
本物のリカは殺し合いが始まった直後、気のふれた母親によって殺害された。父親も一緒にだ。
今殺し合いに参加しているのは、雪室先生の脳内の情報から再現した、不完全な偽者にすぎなかった。
あまりに早く知り合いが死んだことに気落ちした波平のために、藻屑が急ごしらえで用意したのである。
こんなこともあろうかと、雪室先生を最初に倉庫に集まった参加者の間に混ぜておいたのが結果的には吉と出た。
「しかし、あまり花沢さんばかりを注視しているわけにもいかんのが残念ですなあ」
「左様、今夜は山場になりそうだ」
波平と藻屑は、磯野家前とがんこ亭内部に設置したカメラの映像へと目を移した。
【七日目 午前零時】
【リカの家】
【花沢花之丞】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考: 基本・ 殺し合いの中で不動産を売りさばいて利益を上げる
1・リカの家を探索
2・中島と岡島を動かす
3・花子の命は最優先で守る
【主催本部】
【磯野波平】
状態:健康
思考:
1・殺し合いの完遂
【磯野藻屑】
状態:健康
思考:
1・波平をサポートする
※主催側の人物です
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