命を救ったマナー違反






家の門の外に出た伊佐坂と校長、およびマスオとワカメは、こちらに迫り来るものを見て絶句した。
それはざっと三十メートルはあるかという巨大な木製のロボットだった。
さらにカツオとフネ、オカルも遅れて家から出てきた。

(棟梁、か!?)

その場にいた全員が思った。こんなものを作れるのはこの町では棟梁しかいない。

「おいおい、反則だろう、こんなの……」

マスオが途方に暮れたような声を出す。こっちは磯野家と伊佐坂家を合計しても大人が四人、子どもが二人に子どもの姿をした大人が二人。こんなロボットとどう戦えというのか。

(いや、待て、サザエは!?)

マスオはそこに集った面々の中に、妻の姿が無いことに気付いた。
何かあったのかと思ったが、貴重な戦力である自分が今この場を離れるわけにはいかない。

「カツオくん、ワカメちゃん、サザエを探してきてくれないか!!」

だがその声に、カツオは首を横に振ることで答えた。

「マスオ兄さんたちは家に戻って、姉さんを連れて裏口から逃げて!! 細い路地に逃げ込めば、こんなでかい奴は手を出せないはずだよ!!」
「お兄ちゃんはどうするの?」
「僕は出来る限り、こいつをうちから遠ざけてみるよ。足だってそう速いとは思えないし、まず逃げ切れると思う」

マスオは慌ててカツオの肩をつかむ。

「ダメだ、その役目は僕がやろう」
「大人よりも子どものほうが撹乱には向いているさ!! ここは僕に任せて、みんなは早く!!」

ロボットの上が電柱をなぎ倒し、大きな振動が皆を襲った。
その弾みでマスオの力が少し緩んだのを見逃さず、カツオは彼の手を振り払ってロボットに向かって走りだした。

「待ってくれ、カツオく……」
「カツオ、やめなさい!!」

悲痛ささえも含んだフネの声が響き渡ったが、カツオは足を止めることなくロボットに向かっていった。
ロボットの操縦者もそれに気付いたのか、その巨大な腕をカツオに伸ばす。
それは軽々とかわしたカツオだったが、反対方向から伸びてきたもう一本の腕は、彼からは完全に刺客になっていた。

「カ、カツオくん!!」

思わず駆け寄ろうとしたマスオだったが、彼よりも先に足が動いていた者がいた。
少女の姿をした伊佐坂難物である。
伊佐坂はすんでのところでカツオを突き飛ばし、彼の身を守った。
だがカツオを捉え損ねたロボットの腕は、伊佐坂の右腕をしっかりと握った。
骨が砕ける音がカツオの耳にまで聞こえてくる。あの木製の太い指で掴まれたら一たまりもあるまい。
ましてや、製作者はあの棟梁なのだ。
ロボットは少女の腕を絞り上げるように握ったまま、その体を高く持ち上げた。
腕に走る激痛に顔をしかめながら、伊佐坂はコックピットの中を覗き見、そして驚愕した。
彼も操縦者は棟梁に違いないと思っていた。なので、操縦桿を握るホリカワの姿には、

「ど、どうして君が……」

と言うしか無かった。ホリカワは答える代わりに、人形の腕を持って振り回すように伊佐坂を振り回した。
伊佐坂の右腕は千切れ、血を噴出しながらその少女の体はゴミステーションのゴミの山の上に落とされた。
もちろん深夜にゴミを棄てるのは非常識だが、今回はそのゴミがクッションとなって伊佐坂を即死から救った。

「あ、あ、あ、……」

真っ赤に迫るゴミ袋の山を見て、血相を変えたのはオカルだった。

「いやあああああああ、あなたああああああああああ!!」

今まで家族の誰も見たことのないほどに取り乱し、血の海に横たわる夫のもとへと走る。

「あなた、あなた、どうか、どうかしっかりして!! お願いだから生きていて!!
姿なんかどうなったってかまわないから、今の姿のままで構わないから、どうか生きていて!!」

わめきちらしながら駆け寄るオカル。しかしその腕が愛する夫の体に触れるよりも先に、再び歩みを進めだしたロボットが、彼女の体をいともたやすく踏み潰した。


【七日目 午前零時】

【磯野家と伊佐坂家前の路上】

【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・ロボットに対処

【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
基本・家族以外の人間を全員殺害する
1・ロボットに対処

【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・絶対に殺し合いを終わらせる
1・呆然
2・中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
3・中島の目を覚ませる

【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・家族を守る

【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの 右腕切断 瀕死
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・不明

【校長】 (名簿外)
状態:健康 体は十歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・元の体に戻る、生徒と教職員を守る
1・呆然

【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメ以外の人間は皆殺し

【伊佐坂オカル  死亡確認】
【残り27人】




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