無題






殺し合い三日目も正午を過ぎた。
居間に座り新聞を読んでいるのは、波平が不在となった磯野家では実質的な家長の任にあるとも言えるフグ田マスオである。
サザエとフネは買い物に出ている。うろつくのは危険だが、二人いればむざむざ殺されることもないだろう。
それに、殺されるのが怖いからといって何も外出しないでは生活できない。
大量に食料を買い込んで篭城するという手もあるだろうが、そんな量の買い物をすれば近所の人にもあっという間に狙いを読まれてしまうだろう。
もとよりこの家にしたって決して堅牢な城ではない。家に無理矢理押し入りでもされたら危険なのには変わりないのだ。
ならばむしろ今までどおりの生活を演じ、まるで殺し合いになど乗る気は無いというフリをしておくのが得策。
しかしマスオ自身は今までのように普通に生活を送るわけにはいかない。
波平は彼ら殺しあいの参加者に、この町から一歩たりとも出ることを禁じているからである。
それでも波平はどう手を回したのか、殺し合いの期間中はマスオの会社から十分な生活費が振り込まれるらしい。
(さて、殺し合いも三日目だ。ここまではなんとか全員無事でこれたけど、ここからはそうもいかないだろう)
すでにご近所では何人もの犠牲者が出ているのだ。しかしそれを捜査するための警察すら町内には入れないという状況。
(お義父さんもいったいどういうコネがあったんだか……まあ、あまりその辺のことは考えても仕方が無い)
何しろ相手は警察すらも意のままに操れるのだ。日本政府すらも支配していると思って間違いないだろう。
テレビや新聞でも、ここ数日この町で起きている殺人事件は全く報道されていない。
よってマスオは、波平の居場所を突き止めて説得し、殺し合いをやめさせるという選択肢はすぐに放棄した。
次善の策は、なるべく家族に犠牲者を出さないようにしてこの殺し合いをやり過ごすということ。
少なくとも猶予はあと三年あるのだ。その間持ちこたえてさえいれば、どこかで波平側にも綻びが生じるかもしれない。

次にマスオは、この殺し合いに参加している人物の中で信頼に足るのは誰かを考えた。
まずは親友であるアナゴ。彼が殺し合いに乗るなどありえない。
続いて課長。あの人も殺人を犯すような上司ではない。彼らは信用に足るはずだ。
しかしこの町の住人ではない彼らには、こちらから居場所を把握できないという欠点がある。
町内をしらみつぶしに調べれば潜伏場所はわかるだろうが、そんなことをするリスクのほうが大きすぎる。
(だが、ノリスケくんはどうだろう……)
彼もマスオの親友である。しかしアナゴと違うのは、彼は妻子も殺し合いに参加させられていることだ。
もしかしたら、家族を守るために修羅になるという道を選ぶかもしれない。
考えたくは無かったが、ありうる展開だ。
(となると、ノリスケくんと迂闊に合うのは危険だな。あとはいささか先生や花沢さんの家族も同じ理由で危ない。
となると、今すぐ連絡が付きそうな中で、『利用』できそうな人間は……)
マスオの頭にはある人物が浮かんだ。
ちょうどその時、まさにその人物の声が狙い済ましたようなタイミングで磯野家に響いた。


「ちわーす、三河屋でーす!!」

【三日目 午後二時】
【磯野家】
【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを仲間に引き入れ、利用する

【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・注文をとる



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