無題






花沢不動産を経営する花沢家は、まだ一応は殺し合いからは距離を置いた生活を続けていた。
父親の花沢花之丞、娘の花子、そして名簿には記名されていない母親。
堂々と普通の生活をしているにも関わらず彼らが狙われないのにはそれなりの理由があった。
彼らはこの町では不動産屋としてそれなりの信頼と地位を得ている。
敵に回すよりは味方につけたほうが得策なのは明らかだし、他の参加者を皆殺しにして優勝を狙うにしても、
支援者の多い花沢家をまだ序盤の段階で攻撃するのは自分の首を絞めるだけの結果になる。
そして当然、そのことを利用しようとする者も現れ始めていた。

「花沢さん、本当に私達を匿ってくれるのね?」
「もちろんよ!! 私の家は町の中でもかなり安全な場所だから、しばらくはここにいて様子を見るといいわ」
花沢不動産の応接間にはランドセルを背負った少女が三人。
ここの娘の花子、その同級生のカオリと早川である。
花沢不動産が殺し合いに乗った参加者から標的にされにくいということは、子供でも気付いていた。
「それにしても、磯野君たちが心配だわ……一体どこにいっちゃたのかしら」
カオリが口にしたのは、今日一日姿を見せなかったカツオと中島のことである。
「やっぱりもう二人とも……」
「ちょっと、ハヤカワさん!!」
「そうよ!! 二人ともそう簡単に死ぬような奴らじゃないわよ!! 意外と今頃、何か波平さんを倒す秘策を練ってるんじゃないかしら」
カツオの嫁を自認する花子が断言するような口調で言う。それを聞いてカオリとハヤカワも幾許か安心した。
確かに勉強は出来なくともこういう状況下では頭が回りそうな連中だし、何より友情という強い絆で結ばれている。
きっと心配することは無い。
「それより、私達は私達で今後の方針を練りましょう。ちょっと待ってて、今ケーキとジュースを入れるから」
花子はそういうと、店の奥に引っ込んでいった。


「あら、早川さんは?」
ケーキとジュースを三人分用意して戻ってきた花沢は、応接間にいるのがカオリだけなのを見て尋ねる。
「何か忘れ物をしたから、一旦取りに戻るって言ってたわ」
「そうなの? 途中で何も無ければいいけど……」
そう言いながら花子はカオリにケーキとジュースを勧めた。


数分後、カオリは息を引き取った。
机の上に倒れこみ、もうピクリとも動かない親友を見て花子はほくそえむ。
「あんたが悪いのよ……あんたが、磯野君をたぶらかすから……」
この光景を誰かが見たとしたら、自分を疑うだろうか? それは無いだろう。
何しろ、花子もカオリが食べたのと同じケーキを食べ、同じジュースを飲んでいたからだ。
さらに、三つあるケーキとジュースから自分の分を選んだのはカオリ自身である。
そう、この状況下なら誰も自分が毒を盛ったとは思わない。疑われるのは自分の父か母だ。
「にしても、ちょっと予定が狂っちゃったわね。やっぱり早川さんを待ってから二人まとめて始末したほうが良かったかな?」
そう思ったが、そもそも早川がちゃんと戻ってくるという保証は無い。
何より、憎き恋敵は少しでも早く始末したかった。この激情に押された判断が果たして今後にどう響いてくるか……
「まあいいわ。それより早くカオリちゃんの死体をどっかに始末しないとね。早川さんが今にも戻ってくるかもしれないし」

しかし結局、この日彼女が早川に再会することは無かった。


【カオリ  死亡確認】
残り38人


【三日目 午後四時】
【花沢不動産】
【花沢花子】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考:
基本・恋敵は殺す。他の人間は未定

【ハヤカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明



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