君が大人になってくその季節が
ハヤカワの初恋は、周囲と比べてやや遅かった。
だが、その炎の燃え方は、クラスメートの誰よりも激しかった。
カツオや中島のような同級生には、ハヤカワは全く興味が無かった。
カツオに熱を上げる花沢には、ある種の軽蔑すらも感じていた。
ハヤカワが恋に落ちた相手は、自分の何倍もの年月を生きてきた、初老の異性。
そして、彼女の担任の教師。
そんな相手と逢瀬を重ねることがどんな結果をもたらすのか、生徒であるハヤカワにもわかっていた。
しかし、彼女の情熱は、そんな幼い理性を吹き飛ばした。
「ん……」
殺し合いが始まってから何度目かの逢瀬の後、衣服を身に着けていないハヤカワは、同じく生まれたままの姿の先生の前で目を覚ました。
先生は既に起きていた。が、いつものように甘い声で彼女の頭を撫でようとはしなかった。
優しそうな、それでいて寂しそうな目でハヤカワを見つめている。
「先生、どうかしましたか?」
彼は黙って首を振った。
今日、外出先から戻ってというもの、ずっとこの調子だった。
「先生」
ハヤカワは先生の首に手を回す。
「私に、隠し事をする必要があるんですか?」
先生は答えない。ただ優しい目で彼女を見る。
……彼が他の生徒たちを見るのと、全く同じ目で。
それが、ハヤカワには許せなかった。
「せん――」
しかし彼女が気持ちを吐き出すよりも先に、先生の目から涙が零れ落ちた。
「私は……守れなかったんだ」
それはおそらく、目の前にいる少女に向けての言葉では無かった。
「みんな、みんな、守ってやると誓ったのに……私は……私は……」
「それは先生のせいじゃありません! みんなが死んだのは、磯野君のお父さんが……」
「違う!!」
ハヤカワの前で初めて、先生は感情を曝け出した。
「命だけじゃない、私は、私は、心も守れなかったんだ!!
死んでいった橋本たちも……生き残った、西原すらも!!
なのに、なのに、なんでこれ以上お前を抱くことが出来る!!」
先生は崩れ落ちるように枕に顔を埋めた。
「……もう、帰るんだ」
ハヤカワは耳を疑った。
「私には、もう、お前を抱く資格は無い」
それ以上の説明は不要だと、その背中が言っていた。
許せなかった。
「……私は、」
だが、ハヤカワの言葉は玄関先から聞こえた声で遮られた。
「ちわーす!! 三河屋でーす!!」
【6日目 午前10時】
【先生の家】
【先生】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・絶望
1・ハヤカワとはもう別れる
【ハヤカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・先生とずっと一緒にいる
【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明
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