制限時間三年ならこのくらいのスローペースでいいだろ
いつもは家族の笑顔が並ぶ磯野家の居間も、今日ばかりは不穏な空気に包まれていた。
「全く殺しあいだなんて父さんも何考えてんのかしら」
「ええ、困ったもんだねえ」
顔を見合わせてため息をつくサザエとフネ。
「でもお買いもには行かなくっちゃ。夕飯の支度もあるし」
「いけませんよサザエ。三郎さんたちや花沢さんのおうちも殺し合いに参加しているんですよ。
迂闊に出歩いたりしたら大変じゃない」
「そうは言うけど母さん……」
その時だった。突如居間の窓ガラスが割れ、何かが部屋の中に転がり込んでいた。
それを見たサザエは悲鳴を上げた。
「イヤー、生首ー!?」
「あらまあサザエ、これは八百屋さんじゃないかい!!」
いつもサザエたちにおいしい野菜を提供してくれていた八百屋さんは、もはや物言わぬ頭部だけの亡骸に成り果てていた。
「だれがこんなヒドイことを……」
フネは窓の外を伺ったが、すでに誰の姿も無かった。
部屋の中には、ただ八百屋さんの無残な死に様を目の当たりにして号泣するサザエと割れたガラス、夥しい血、それを見守るフネと
八百屋さんのうつろな顔だけが残された。
「よし、これでいい。これで磯野家の連中は家族の中の誰かが八百屋を殺したと思い込み、疑心暗鬼に陥るに違いねえ」
夕焼けの中にたたずむ小さな公園。低い太陽が遊具の長い影を形作っていた。
その公園の水のみ場で血のついたノコギリを洗いながら、笑みを浮かべる男がいた。
彼は大工のジミー。かつて磯野家の風呂と物置を直した彼は、磯野家の造りについては熟知していた。
「八百屋の旦那も馬鹿なもんだ、自分は波平さんに呼び出されなかったから殺されないと思い込んで……
少し悪いけれど、これも家族の深い信頼で結ばれた磯野さんちを内側から崩すため。
こうでもしないと棟梁しか味方のいない俺は勝ち目がねえからなあ」
しかしそう悪態をつく彼の頬には一筋の涙が伝っていた。
人を殺したのだ。その事実はいくら心の中で正当化しても消えても小さくなってもくれない。
やがて日は沈み、公園も町も殺し合いが始まってから最初の夜を迎えた。
【一日目 午後六時】
【磯野家】
【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:動揺・家族の安全を最優先
【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:動揺・家族の安全を最優先
【公園】
【大工のジミー】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:大工道具一式(カンナ・金槌・釘・ノコギリ)
思考:冷静を装っているが動揺
【八百屋さん 死亡確認】
残り40人
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