それでも君が






自分の人生はきわめて平凡であったが、恵まれた幸せなものだったとは思う。
若い時はそれなりに色々あったが、歳を取った今は子供たちも独立し、優しい夫と二人で長閑な暮らし。
裏の家には愉快な一家が住み、そこの子がよく遊びに来てくれる。
何の不満も無い平和な生活。こんな生活がずっと続くものだと思いたかったが、もはや自分たちに残された時間は短い。
いつかはどちらかが先に逝く。
その日がいつ来てもいいように、毎日を楽しく過ごす。彼女はいつからか、自分の生きる意味をそう決めていた。
本当なら、裏の家の子供たちがこの先どんな人生を送るのかをずっと見守りたい。
夫とも、ずっと一緒にいたい。
だけどそれはかなわない願い。
だから、一日一日を大切に暮らす。
掃除や洗濯、料理といった妻の務めはしっかりと果たし、二人が穏やかに暮らせる家を守る。
それだけでいい。

そう。
たとえ今、彼女が長年掛けて綺麗に掃除してきた部屋が、割れた花瓶や破れた障子などが散乱する無残な有様をさらしているとしても。
彼女が作った料理が床の上にぶちまけられているとしても。
それらが全て、彼女の愛する夫の手によるものだったとしても。

―――そして、その夫が今、波平から支給されたロードローラーに乗り、町中を破壊しながら走っているとしても。

彼女は散らかった部屋を、ゆっくりながらも片付ける。
今彼女の夫は正気を失っているが、いつかは元の夫の戻って帰ってくるはずだから。
自分がやるべきことは、あくまでもこの家で平穏な生活を続けることだけなのだから。

「―――おじいさん、この家のことは私に任せておいてくださいね」

【四日目 午後6時】
【裏のおじいちゃんの家】

【裏のおばあちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:不明
思考:基本・何があってもこの家を守る
1:夫の帰りを待つ



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