「醤油を一つ下さい」






「マスオさん……本気でそんなことを言ってるんですか?」
ここは磯野家のマスオの部屋。そこに招き入れられてマスオの話を聞かされていたサブは、思わず身を乗り出してたずねた。
「おいおい、冗談でこんなことを言ってるわけないだろう?」
マスオはいつものように陽気に答える。しかしサブはいつものようには笑って答えられない。
「でも、本当に人殺しをするなんて……」
「甘いことを言ってちゃいけないよ。もう実際に何人もの人が死んでるんだよ? こうしている間にだって、僕の家族や
君の店の人が命を落としているかもしれない。実際には殺し合いに参加している人のほうが多数派なのさ」

ちょうどこのサブのように、初日の波平の説明を聞いていてもなお、殺し合いに積極的には参加せず、かと言って
自衛手段も取らず、つまり以前までと変わらぬように生活をしている者も決して少なくは無かったのだ。
だが当然そのような者は他の好戦的な参加者の餌食にされるだけである。
文字通りの意味で殺し合いの犠牲者となるか、もしくは今この瞬間のサブのように、狡猾な参加者に言いように付け込まれるか。

「繰り返すけど、僕と君の間にある繋がりは薄いから、他の人たちには僕らが結託していることがバレにくい。
それに僕らにしたって、余計なしがらみが無い分行動しやすいって面もあるだろう?」
マスオはあくまでもいつもの調子でサブに語りかける。
「そして別に君に人殺しをしろって言ってるんじゃない。ただ、他の人たちの様子を探ってくれって言ってるだけだ。
それは君の立場なら簡単だろう?」
「いや、まあ、そりゃあ……」
この状況下でも御用聞きとしてあちこちの家に出入りしているサブほど、その役目に適任な者はいないだろう。

「だけど、僕は別にそこまでしなくてもって思うんですけど」
「つまり、そこまでして生き残りたくないってことかい?」
サブは口ごもってうつむいた。どんな状況下であろうと、生き残りたいかと問われていいえという人間はいない。
「もちろん君にだってメリットはある話だと思うよ。もし君の情報から危険そうな人がわかったら僕が責任を持って排除する。
君は手を汚さないし危険な目に遭うこともない。もちろん疑われることもないってわけさ」
もちろん詭弁だ。実際には、マスオよりもあちこちの家に出入りしているサブのほうが疑いの目で見られる可能性が高いだろう。
だがサブの返答は、まったくマスオの期待に沿うものだった。
「……わかりました。でも、本当に偵察するだけですからね?」

【三日目 午後五時】
【磯野家】
【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上

【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・マスオの案に乗る
2・注文を取る



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