下水路のバンパニーズ






 暗くじめじめした地下の下水路、ここは、タイニーが用意した殺し合いの会場の地下エリアである。全体が会場の下水路同士細かい蜘蛛の巣のように入り組んだこのエリアに、独りの男が支給された懐中電灯をつかい周りをてらし、地上に出る道を探していた。彼はタイニーにより飛ばされた場所は、他の参加者が多く飛ばされた地上とは違い、暗く汚水の匂いが立ち込める見晴らしがひどく悪い下水路だった。
 偶然か、はたまたタイニーの策略か、この男に支給された物にあった懐中電灯のお陰で何とか視界は利くが、これもいつまで持つか分からない。些か安全とはいえ、地上に出るための出口を彼は探していた。
 彼の名前は有賀研二、六県で女子供を殺していた日本で指名手配中の連続殺人犯だ。ここにくる前は警察から逃走していた有賀研二は、この殺し合いの状況下でも、場所が場所だからかまだ他の参加者に出会って居なかった。しけし、外見的にも内面的にも殺人の事を除けば、この下水路は見晴らしが悪い上に胸がむかむかする悪臭が漂っていることもあり、有賀研二はかなり参っていた。 
 身につけている既に下水の悪臭が染み付いた服を苛立たしげに払い、少しでもストレスを解消しようと考える有賀。

  その時、有賀研二の耳に何か、人の足跡のような、とにかくこの真っ暗な下水路に何かが歩く音が聞こえた気がした。
 神経が極限まで緊張していた有賀は、素早く懐中電灯の灯りを周りにあて、何かいるかと探したが、いるのは元々此処に住んでいたネズミ位の物である。
 視界に移ったネズミを、異音の原因と認めた有賀は、そっと高ぶった胸をなでおろす、武器らしい武器が支給されていない有賀は、この狭い下水路の中、自分の命を脅かす人間が突然現れたとして、それに互角に、かつ素早く対応できるかは怪しかった。
 そのまま下水路の中を懐中電灯であて、進む有賀、膝に当たる汚水が冷たく凍え、尚且つ人に悪臭を付けようと思うかのようにまとわりついてくる。そのバシャ、バシャ、…という音のみこの狭い空間に響く。
 その時有賀は、汚水の中に何か沈んで居たのか、何かに足をぶつけ汚水に盛大に転んだ。

   バシャ!!

 悲鳴も上げられず、体中が汚水まみれになる有賀、その弾みに懐中電灯を水の中に落としてしまった。

  「ぶぇぇ!…くそ!落としちまった!」

 突然のアクシデントに苛立ちを感じ、怒気を含んだ声で言う有賀研二。とりあえず懐中電灯の灯り無しではこの暗い中、歩いていくことは出来ないと水中に沈んだ懐中電灯を探す。落ちてしまった反動か、それとも水で濡れてしまったからか、灯りは消えている。暗い中を手探りで探す有賀。すると、その腕が汚水の中の何かにあたる。恐らく先程有馬がつっかえて転んでしまった物だろう。

「くそ!…なんなんだこれは。」

 懐中電灯を落としてしまった事えのどうしようもない苛立ちと、灯りが消えただただ悪臭がする真っ暗な下水路の中にいる事の本能的な恐怖を感じている有馬は、以外にも軽かった沈んでいた物を手に取る。

 汚水に沈んでいた物は、大きさ的にはバスケットボールよりも一回り小さい物だった。両端に何か柔らかい出っ張りがあり、正面はやたらでこぼこしてる…そして何やら長い紐のような何かが…………
 其処まで考えたとき、有賀にはこれが何か分かった。これ自体、有賀はこれまで幾度も触ってきたパーツ…

 沈んでいたのは、長い髪をした、作りから男であろう生首だった。

「うわああ!」
これには連続殺人犯である有賀研二も仰天する。灯りが消えた視界が全く見えない中、足元から生首が見つかれば誰でもこうなるだろう。しかし、有賀研二も殺人鬼、この髪の長い男の生首にただ驚くのではなく、この生首がここにある結果が頭に浮かんだ。
 生首があるとすると、いや、実際まだ有賀の手にあるが、少なくとも有賀の周りに男の胴体は無かった。…この男が仮にこの殺し合いの恐怖で自殺したという考えが少し浮かんだが、自殺なら少なくとも首だけではなく胴体も此処に残っていなくてはおかしい。ここにあるのは首だけ、胴体はなし、なら、自殺の可能性は低い。つまり…………この男?は誰かに殺された。そう考えられる。もし、もしもまだこいつを殺した人間がこの下水にいるとして、今の自分は何をした?…盛大に水音をたて、あろう事か目が聞かない状況で叫び声をあげてしまった。

 ………もし犯人が此処に、またはこの付近に存在するとすれば、…自分は格好の餌食。

 其処まで考えついた有賀は、此処から急いで脱出する冪だと思う反面、下手に音を立てたらこの生首の持ち主をやった人間を引き寄せるかもしれないという、移動したいが移動できない悪循環に陥ってしまった。

 どうする?どうするどうするどうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?

 半分パニックに陥っていた有賀、絶対的な自分の身の危険を感じて震えている。その震えで汚水がゆれ、ピチャピチャと音を立ててるが、震えを止めようとしても勝手に震えているため止まらない。有賀が体の震えを何とか抑えようとしているとき、変化が起こった。

「おやおや〜、プルプル震えている小僧がいるぞぉ〜」

 有賀の直ぐ後から、気味の悪い猫なで声が発せられた。
 有賀が死ぬほど驚いたのは他でもない、驚きのあまり声の主の方を向きながら尻を汚水に浸しながらしゃがみ込んだ。

「だ!誰だ!!」
灯りが無く、姿が全く見えないが、何か、巨大な何かが其処にいた。その声の主の姿が見えなくて有賀は幸運だったかもしれない。

 もしその姿を見てしまったら、有賀は恐怖のあまり気絶してしまっただろう。

  「うう〜ん、名前を知るなら先に自己紹介をするのが先じゃないかなぁ…ヒッヒッヒ。…まあ良いや、今の俺は腹が一杯で機嫌が良いんだ。特別に教えてやる。」
 此処で声を止め、有賀を暗闇の中でもぼんやり分かるぐらいの真紅の瞳を魚呂尽かせ見つめる巨体の体格からして男。

「俺の名はマーロック、誇り高きバンパニーズのマーロックさ。」

 マーロックと名乗る大男に、有賀は言い知れぬ恐怖を抱いていた。連続殺人犯である有賀が感じている恐怖は、奇しくも彼が殺してきた女子供達に彼が感じさせてきた恐怖と同じ者だった。…いや、それとは最も別の恐怖…

自分の…人間としての天敵に出会った時に感じる本能的恐怖。

「さて、俺様は寛大にも名前を先に言ってやったぞ、お前の名前は何だ?」
 不気味な声で訪ねるマーロック、有賀は無意識の内に答えていた。

「有賀研二。」

「よしアリガー・ケンジ、お前のちっちゃい頭に俺様の耳から垂れるくらい詰まっている脳みその半分くらいでも脳みそが有るなら、俺の話をちょっくら聞いてくれよ。」
 有賀に話を聴かないという選択肢は無かった。

「俺はなあ、何かと面倒な事になると腹がへる体質でなぁ、あのタイニーに殺し合え、てっ言われた後、最初に来たのが愛すべき我が家と言える場所と同じ用な所だったのはよかったんだけどよ、…俺そのとき腹ぺこでなあ、俺自身の好きな飯がそこら辺を彷徨いてたのを見て嬉しかったねえ。」

 「…不思議そうな顔してるねぇ、アリガー坊や、今坊やが持っている奴の体、そう言うのが俺の好物なのさ…」

 その言葉には有賀も驚き、声にならない悲鳴を上げて生首を放り投げる。その様子をマーロックは面白そうに見ている。

「確か…なんて言う名かは忘れたが、とりあえず俺様はそいつを食った。…綿密な計画をたてないで獲物を襲うのは掟に反するが、空腹のため背に腹は代えられなくてなぁ…そんなわけで満腹になっているところで、チキンなアリガー坊や、君が如何にも襲ってくれと言わんばかりに来たのさ……正直さっきまで腹は膨れていたが、なんかまた減ってきたんだ。…この意味は分かるようだな。」
 其処まで話を聞いて、死に物狂いで逃げ用とする有賀をその丸太のような腕で肩を捕まえて引き戻すマーロック。有賀研二は心の底から死の恐怖に震え、暴れるが、時すでに遅し。

 「…頂きます。」

[有賀研二@金と銀死亡]
[火山高夫@未来日記死亡]
【残り61人】



 「ふう、少し腹も膨れたなぁ。」
マーロックは今し方血を全て飲み終えた有賀だった物を、無造作に放り投げた。…マーロックはもう有賀研二に何の興味も抱いていなかった。…実はこのマーロック、殺し合いの主催者タイニーと同じ世界の出身で、勿論タイニーの事を知っている。が、特別何も感じていなかった。
 タイニーの住む世界の闇の住民、パンパイアから独立したとあるパンパイア集団から独自に進化した存在。パンパイアとは違い、人間の血を吸い尽くし殺す怪物パンパニーズの一人マーロック。…彼はその中から追放された頭のイかれたパンパニーズの一人だった。彼は本能のゆくままに、獲物をむさぼり食おうと徘徊する。イかれた彼は蝶々しない。

 ただただ貪るだけだ。

[1日日/深夜/地下下水路エリア]
[マーロック@ダレン・シャン]
[状態]とりあえず獲物をさがす。
現在はある程度満たされている。
[所持品]基本的支給品 ランダム支給品
[備考]クレプスリーの故郷で人間を狩りまくっていた時期からの参戦。頭が可笑しくなっており、本能に忠実です。
タイニーを知っています。
[殺人・犯罪記録]
パンパイアと対立する種族パンパニーズの一人、頭が可笑しくなったため、一族を追放されたが、掟を頑なに守り人間を食いまくっている。
 こい紫の肌に、真紅の瞳、肥満体型の巨漢。真っ白な服を付けている。



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