私は普通だぜ






森で採取した無数のキノコに木の枝で作った串を突き刺して、並べる。
その中央にはもちろん、パチパチと燃える薪がある。
尖った石で作ったナイフを使い、森の木々から採取した柑橘類の果実を二つに切り分けた。
その果汁を程良く焼けたキノコにふりかけると、心地よい音と芳しい香りが周囲に漂う。
「そろそろいいか」
少女は串の一本を手に取り、熱々に焼けたキノコをほうばる。
噛み締める度に果実の酸味が効いた芳醇な味わいが広がる。
見ての通り食事である。それ以上でも以下でもない。
「よし、悪くないぜ」
彼女は満足げにキノコをたいらげていく。
ここは彼女が住む場所とは植生がまるで違い、見た事の無い植物が山ほど転がっていた。
それ自体は彼女にとってむしろ目新しく楽しい事だったが、食事をするに当たって随分と困った。
なにせ見ただけではどれが食べられる物か見当が付かないのである。
結局動物が食べる植物を選び、食べすぎず、食べた後の体調を逐一記録するという地道な手をとる事にした。
「おっとこれはワライダケだった」
間違えて混ざっていたワライダケをポイと捨てる。
穴を開けたヤシの実から中の汁をごくごくと飲んで一息を吐いた。
この島に来てから三日目。随分と手慣れたものである。
「しかしここはどこなんだ? 確か迷い家に遊びに行った所までは覚えているんだが。
 島の外は湖と違ってしょっぱい水しか無いし、辺鄙な所だ」

彼女、霧雨魔理沙は幻想郷という封鎖世界(住所は日本の山奥)に住まう自称極普通の魔法使いである。
彼女はある日たまたま、八雲紫という万年寝太郎なスキマ妖怪の所に遊びに行った。
すると紫が使うスキマ(別の場所に繋がる空間の切れ目みたいな物)が一つ開いていた。
面白そうだと飛び込んでみたら、次の瞬間にはこの島に立っていた。
ここまでは問題ない。
問題は帰り道のスキマが「あら、閉め忘れていたわ」の一言で消えてしまった事だ。
よって、彼女は孤島生活に突入した。
助けが来る見込みはあまり期待しないほうが良いだろう。八雲紫は冬眠だってする生物だし。
「どうやって帰ったものかしらん」
緊張感の無い様子で呟く。
悪い事に愛用の万能道具ミニ八卦炉は整備中、魔法の燃料の薬品も少なくなってきた頃だった。
魔法の薬は研究に研究を重ねて地道に作った物だから、現地調達は少々難しい。
何より鍋が無い。キノコを煮詰める鍋が無くては魔法の薬を作れない。
箒に乗って空を飛ぶのに支障はないため、これで脱出しようと考えてはいるのだが。
「どうもここは外の世界みたいだしな。幻想郷はどっちなんだ?」
生憎と周囲の海図すらわからなかった。
というより幻想郷に海は無いから、海を見る事すら初めてだ。
力の限り箒で飛んでも、陸地に辿り着けずに沈んでしまえばおしまいである。
陸地に辿り着けたところでそこから幻想郷を捜すのが更に一手間だが、それは置いておく。
そもそも来た経緯からすると帰ってみたら百年前でした、という事も有り得そうで恐い。

だから霧雨魔理沙は島の外を捜すより、島中を探索する事にした。
ここはスキマ妖怪がバカンス(?)に使っていたと思われる島だ。
幻想郷との繋がりや手掛かりもどこかに有るかもしれない。
それが霧雨魔理沙の捜す脱出ルート。
「まあ、片っ端から調べればその内に見つかるだろ」
楽天的な発想で地道な作業を決意すると、キノコを焼くのに使った焚き火を消して、立ち上がる。
「よし、行くか」

やる事は明解だ。
魔理沙は周囲を見回すと、すぐに健脚を奮わせて歩き出した。
その歩みに迷いはないが、空を飛んで行きはしなかった。
地上の捜索こそが彼女の目的だからだ。
霧雨魔理沙は森へと足を踏み入れた。

「まずは今夜の晩飯を探さないとな」

【一日目 / 昼頃 / C-2 森】
【霧雨魔理沙@東方Project】
[状態]:健康、割と適応
[空腹度 / 最終食事時間・内容]: 満腹 / 1日目正午にキノコを食べた
[装備]:いつもの服装、箒、魔法薬幾らか、石のナイフ
[道具]:サバイバルメモ
[情報]:島の全景、ある程度の食べられるキノコや植物
[思考]:私は普通だぜ
 基本:食料を捜しながら帰る方法を捜す。
 1:食料の確保
 2:幻想郷に帰る手掛かりを探す
[備考]:海については殆ど知りません。弾幕ごっこは紛争解決の平和的手段。



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