異人
昼下がりのの太陽が、じりじりと私の体を焦がしていた。
作戦行動中のミス。
乗機の大破、そして脱出の際の事故。
そして、転落、漂流。
流れ着いた先は見知らぬ浜辺。
私は、恐らく戦死扱いになっているのだろうな、とふと考える。
仲間はどうしているだろうか。
私の死を悲しんでいるだろうか。寧ろ、喜んでいるのだろうか。
……奴は、どうしているだろうか。
ああ、奴ならきっと、信じはしまい。
捜索願を上申し、上官に煙たがられるのが落ちだろう。
いや……だが、奴なら、その上申を通してしまうかもしれない。
そして、あらゆる手段を行使して、私を探し、助け出すべく動き出す――
そこまで考えて、止めた。
少女趣味にも程がある。白馬の王子様でも待つつもりなのか、私は?
だが、このくだらない妄想のおかげと言えば不本意極まりないが、少しは気力が補充できた。
先ずは、生き残る。そして、本隊と合流する。それだけを考えて行動すれば良いわけだ。
……だが、油断は出来ない。
この島に「奴等」が出現しないとも限らない。
改めて、腰の拳銃を確かめる。
海水に濡れたとは言え、恐らくは使用に支障は無いだろう。そう信じたい。
そして、身を隠せる場所を探そうと歩き出そうとした、まさにその瞬間。
ざくり。
背後から、何者かの足音が私の耳に到達する。
「誰だッ!!」
私は、手にした銃を――
@ @ @ @ @
じっとしていても仕方が無いので、とりあえず僕は回りを探索し、情報を収集することにした。
当面の目的は、水と食料。
僕には手持ちの食料が皆無であり、飢えという名の脅威は、ゆっくりと、だが確実に僕の体を蝕んでゆく。
飢えと渇きで行動力が鈍れば、さらに食料の確保が困難になり、悪循環が形成される。
そして、その螺旋の先に待ち構えるのは――死だ。
それだけはまっぴら御免被る。僕は、こんなところで死んで良い人間ではないのだから。
幸いにも、水場はすぐに見つかった。
入り江へと流れ込む小川。透明度も高く、飲んでも問題は無さそうだ。
だが、それ以外は……正直、最悪と言っても過言ではなかった。
まず、この島に人がいる形跡が、全くと言って良いほど見つからなかった。
さらに、島の植物を見る限り、どうやらここは太平洋上の、それも日本からかなり離れた孤島のようだった。
島の全景はまだ確認していないが、さほど大きな島とも思えない。
……つまり、救援隊が見つけてくれる可能性は、決して高く無いように思える。
そして、更に残念なことに、食料が見つかる気配が全く無かった。
果物でもあればと思ったが、近場には食用に適した果実は見つからなかった。
魚や鳥を捕まえようにも、道具が無い。
道具を作ることも可能かもしれないが、そのための「材料」と「エネルギー」が皆無なのだ。
そう、食料を確保するために消費するエネルギーが、明らかに大きすぎる。非効率どころの騒ぎではない。
だが、だからと言ってこのままでは埒があかない。ジリ貧そのものだ。
そして、僕は再びこの砂浜へと戻ってきた。
浜辺には、様々な漂着物が散乱している。恐らく、僕達が乗っていた船の慣れの果てなのだろう。
潮が引いたせいか、朝から比べれば、より沢山の物――板切れや、ゴミのようなものが流れ着いている。
このなかに、何か役立つものは無いか。それをあてにしているのだ。
出来れば食料。そうでなくても、せめてナイフの一本でも落ちてはいないか。マッチかライター等も必要だ。
ゴミ漁りなど僕には不似合いだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
生きながらえるためには、形振りなど構ってはいられない!
そして、浜辺を散策してた僕は、予想外の物体を見つけることになる。
物、いや、者……人だ。
自分と同じ漂流者だろうか。最初はそう思った。だが、どうにも様子がおかしい。
何よりもおかしいのは、その服装だ。
全身を覆うプロテクターとヘルメットは、自衛隊……いや、SAT等の特殊部隊のそれとよく似ている。
だが、このような人物が、僕達と同じ船に乗っていたとは考えにくい。
では、救助隊か? しかし、それにしては装備類が物々しすぎる上に、単独行動を取るとは考えにくい。
それならば、一体彼は……? もしや、僕の身を脅かす存在なのか?
いや、どちらにせよ、もっとじっくりと観察を……
しかし、僕の逡巡は直ぐに中断させられることになる。
「誰だッ!!」
鋭い一声が空気を劈く。
そして、彼が銃を構えたまま、こちらへと向かってくる。
クソ、絶対に見付かり得ない距離をとっていたつもりだったが……彼の聴力を甘く見たか。
だが、彼が近づくにつれ、僕の中である疑問が膨らんでゆく。
先ほどの声。そして、小柄なこの体つき。
彼は、もしや……
僕の元に来た彼は、僕に抵抗の意思が無いことを確認し、銃を下ろす。
「どうやら民間人のようだな。驚かせてしまったようだ。悪かったな」
そう、感情を込めずに言い放つその声色から、僕の疑問は確信へと変わってゆく。
「ふむ、どうやら個々は戦線からは離れているようだな。ところで、ここは何処だ? 本隊と連絡が取りたい。至急取り計らって貰えないだろうか」
「いえ、申し訳ありませんが、僕も遭難者でして。
ここが何処なのか、どうすれば連絡を取れるのか、僕も途方に暮れていたところです。それよりも……」
そこで、僕は逆に質問へと転じる。
彼が、僕にとっての脅威になりえるのか否か。それは早急に判断しなければならない。
「失礼ですが、あなたのご身分を窺っても宜しいでしょうか? 大層な重装備ですが……そもそも、あなた」
そう、これが最も大きな違和感の正体だ。
「女性でしょう?」
「女の戦士が珍しいのか?」
だが、彼――否、彼女はさも当然と言わんばかりの、憮然とした態度のままだった。
だが、これはかなり異常なことである。
僕が知る限り、SATやSAA及び各国軍において、このような重装備を纏うような部隊に、女性が入隊するといった話は聞いたことが無い。
だというのに、彼女は、全く臆気もなく、言葉を続けた。
「確かに自己紹介が遅れたな。私は第5連隊第一大隊二中隊旗下第一小隊……
通称5121部隊所属、 芝村舞 十翼長だ。
で、貴様の名は?」
「僕の名前は……夜神月です。……警察関係の仕事をしています」
口からはありきたりの言葉を紡ぎだしながら、しかし僕の頭脳は混迷の極みにあった。
5121部隊? なんだそれは? 聞いたことも無い。
もしや……頭のおかしい女なのか? だが、それにしてはこの装備、銃も本物のようだし……
クソ、一体これはどういうことなんだ? ええいッ――
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
その原因はお前だと言いたくなったが、止めた。それでは意味が無い。
せめて、この女から何か有用な物なり情報なりを引き出さなければ……
僕のこの疲労感が、全くの徒労に終わってしまう。
「ええ、実は朝から何も口にしていなくて……そろそろ限界のようなのです」
「む、そうか。ならば、私の非常食を分けてやろう。感謝するが良い」
「これは、どうもありがとうございます。ところで、芝村さんの話も詳しく窺いたいので……少し休める場所まで行きませんか?」
「良いだろう」
そういいながら、安心したのか、彼女はそのヘルメットを脱いだ。
その下から出てきた顔は、可憐な、10代の少女のものだった。
重装備で、意味不明な事を口走る、少女……か。
果たして、彼女の存在は僕にとってプラスとなるか、マイナスとなるか……
もし、彼女と同行することにメリットが無いと判断した時、その時は……
【一日目 / 午後 / B-3 入り江の北側】
【夜神月@DEATH NOTE】
[状態]:健康
[空腹度 / 最終食事時間・内容]: 空腹、乾き / 0日目夜7時に家族と共に食事
[装備]:海水の染み込んだ衣服
[道具]:なし
[情報]:3-Bの地形、芝村舞の存在
[思考]:
基本:自分の置かれた状況を確認。
1:芝村舞と情報を交換し、食料を分けて貰う。
2:食料の確保
【芝村舞@ガンパレードマーチ】
[状態]:健康
[空腹度 / 最終食事時間・内容]: 空腹、乾き / 0日目夜に食事
[装備]:ウォードレス一式、拳銃
[道具]:非常食(少量)
[情報]:夜神月の存在
[思考]:
基本:救助がくるまでの間の生存。
1:夜神月と情報交換
2:連作手段の確保
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