妄想関西ロワ
人気の無い駅のホームには、二人の男が向かい合って立っていた。
その片方、具足に胴当てという侍のような井出立ちをした男が頭に鹿の角をつけた僧侶姿の少年に語りかける。
駅の外からは、まるで合戦場のような怒声に似た歓声が轟いていた。
「聞こえるか、せんと。今我らがいるこの駅の南にある球場では、その球場を本陣とする球団と他の球団との試合が行われている。
ここ一帯の住民はみなその球団贔屓。今あそこには数え切れぬほどの人数が集まっておるのだ」
甲子園球場から打ち上げられる風船の群れを眺めながら、秀吉とせんとは少しずつ間合いを詰める。
「そして、時はすでにこの時代の数え方で言って十時を回っておる。いくら試合が長引こうとも、そろそろ帰ろうとする者も出てこよう。
そして一度試合が終われば、この駅は大勢の縦縞の服を着た者たちで溢れかえる。
そうなればそちもワシも殺し合いどころではなかろう?」
せんとくんは俯くしかない。
この殺し合いに巻き込まれた時、あの眼鏡で茶髪の男に告げられたルールの一つが
『無関係の住人を巻き込んでもいいが、決してこの殺し合いのことを知られてはいけない』
ということだった。
そうなれば、自分たちの首につけられた首輪が爆破されることになる。
さすがにこの駅が人ごみでごった返すような状況で殺し合いをすれば、誰にも気付かれないのは不可能だ。
そしてそこからこの殺し合いのことがばれる可能性がある。
「そこでじゃ。そちもワシも一度引いて仕切りなおしとはいかぬか?
どうせならば誰の邪魔も入らぬ場所でゆっくりと果し合いと行こうぞ」
「……駄目だ」
せんとくんは首を横に振った。
「だって、僕は、僕はまんとを助けないといけないんだ!!
一刻も早く他の参加者の人を全員殺して、まんとを優勝させないといけないんだ!!
だから、こんなところで道草を食うわけにはいけないんだ!!」
そう叫ぶと、袈裟の懐からナイフを取り出し秀吉に向かって突進した。
もちろんそれを甘んじて受けるような秀吉ではない。軽く身を捩って難なくかわす。
せんとくんはバランスを崩し、そのまま勢い余って線路の上に落ちてしまった。
膝を枕木に思い切りぶつけ、思わず目から涙が滲む。
しかし諦めるわけにはいかない。球場の試合が終わる前にあの男を殺さなくてはならない。絶対に。
線路の上にうずくまるせんとくんの様子を見て、秀吉がホームの上から飛び降りてきた。
「せんと殿。戦にて無駄なる犠牲を払うなど、三流の将がすることよ。
他の参加者全てを亡き者にするなど笑止千万。それよりも、今生き残っているもの全てで力を合わせ、敵の将を打ち滅ぼそうぞ」
秀吉はせんとくんに手を差し伸べる。
「これより西にある西宮北口という駅にて、先に逃げたワシの仲間が待っておる。
あの者らとそちとが合流すれば、この殺し合いの首謀者を追い詰めるも容易いと考えるが、いかがか?」
その時だった。まもなく電車が通過することを告げる警告音が駅の中に響き渡った。
「む、いかん」
秀吉は立ち上がると、電車がどちらから来るのか見定めようと左右を見渡す。
その時せんとくんに背中を見せてしまうことに、油断した秀吉は気付かなかった。
「ぬ……」
自分の背中にナイフが突き立てられていると気がついた次の瞬間、すねの裏を下駄で蹴り飛ばされた。
秀吉は辛うじて受身の姿勢を取る。しかしすでに、目の前には特急列車が迫っていた。
最後に秀吉の目が見たのは、自分を踏み台にしてホームの上に登るせんとくんの姿。
(フン……不覚とはこのことか。あの生臭坊主めが……)
思えば僧侶といい宣教師といい、あの手の連中にはいつもロクな目に合わされていない気がする。そして今回も、その僧侶に一杯食わされる形となった。
(まあよい……谷口殿、殿は務めさせていただきましたぞ)
特急列車は急ブレーキをかけて止まった。球状での試合は、それとほぼ同時に終了した。
【一日目・夜/兵庫県西宮市阪神甲子園駅】
【せんとくん@ご当地キャラ(奈良県)】
【所持品】基本支給品一式、朝倉涼子のナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】まんとを優勝させるため、他の参加者を皆殺しにする。
【豊臣秀吉@歴史(大阪府) 死亡確認】
谷口はよつばを背負って、阪神今津駅から阪急今津駅へと到る高架の上を走っていた。
秀吉に指定された合流場所である阪急西宮北口駅に行くには、ここで今津線に乗り換える必要がある。
もっとも、ここ周辺は谷口にとっては地元のようなものだ。迷う心配などほとんど無い。
それよりも心配なのは、背中の上にいるよつばの容態だった。
相変わらず熱が引いている様子は無い。さっきからますます苦しそうに息を荒げている。
「おい、しっかりしてくれよよつばちゃん!!」
そう声をかけては見るものの、どうしたらいいのかは谷口にもわからなかった。
すでに病院などしまっている時間だし、首に不審な首輪などをつけている自分たちが救急車などを呼ぶわけにもいかない。
せめて、西北についたらどこかでゆっくり休ませなければ……
そう考えながら、急ぎ足で阪急線の改札口まで向かっていた谷口の目の間に、一人の人影が立ちはだかった。
「なん……だ?」
それは目も覚めるような美少女だった。普段の谷口ならА+をつけていたかもしれない。
しかし、その少女には派手な服もさることながらある一点において決定的におかしな点があった。
そう、彼女の背中からは羽が生えていたのだ。それもまるでカラスのような真っ黒な羽が。
「やあやあ。よくぞ参ってくれた。こちらから探す手間が省けたというものぢゃ」
少女はまるで緊張感の無い声でそういうと、背中から一本の大きな剣を取り出した。
「なっ……」
その、まるで西洋の騎士が使うかのような巨大な諸刃の剣を見て谷口は驚愕する。
「そ、そりゃあ確か霧島さんが持っていたはずのもんじゃねえか!! なんで……」
「ああ、あの女子のことかの。うじゅが殺してやったわい」
その言葉に、言葉にならないほどの衝撃を受ける。今にも膝から力が抜けそうだったが、よつばを庇うためになんとか立ち続けた。
「それと、一緒におった和服姿の男もついでに殺してやったのぢゃ。死ぬ間際まで粘菌の魅力をうじゅに説明しようとしていた妙な男ぢゃったがの」
「そんな……南方先生まで……」
谷口の顔に言葉にしようもない後悔が浮かぶ。
自分が『西北に集合』というメールさえ打たなければ、二人は死ぬことなど無かったのに……
「なに、嘆くことは無いぞ。今すぐお主らもみなのもとへ送ってやろう」
ツインテールの少女はそう言って剣を構える。
「ま、待て!! ここは飲み屋も多い繁華街だ!! あまり派手にすると、大勢の人目についちまうぞ!!」
「頭が悪いのう、お主も」
背中の羽を動かしながら、呆れたように告げる。
「いくら人目に付こうと、殺し合いのことがバレなければいいのぢゃろう?
だったら、見た者を町ごと皆殺しにしてしまえば済むことではないか」
【一日目・夜/兵庫県西宮市阪急今津駅前】
【谷口@涼宮ハルヒの憂鬱(兵庫県)】
【所持品】基本支給品一式、和歌山のみかん@現実(和歌山県)
【思考】よつばを守る
【小岩井よつば@よつばと!(兵庫県)】
【所持品】基本支給品一式、零崎人識のナイフ@戯言シリーズ(京都府)
【思考】高熱で何も考えられない
【うじゅ@ご当地キャラ(京都府)】
【所持品】エクスカリバー@Fateシリーズ(兵庫県)、南方熊楠の粘菌@歴史(和歌山県)
【思考】兄を優勝させるため、他の参加者を皆殺しにする
【霧島佳乃@AIR(和歌山県) 死亡確認】
【南方熊楠@歴史(和歌山県) 死亡確認】
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