安価カオス没ネタ






G-4、病院。本来なら体を患った者と、それを治療する者でごった返す場所。
だが今、この施設は無人。電灯も付けられておらず、真っ暗な院内は何とも言えない不気味な雰囲気を醸し出している。
いや、無人というのは正しくない。殺戮遊戯に放り込まれた哀れな参加者が一人、この病院の中にはいた。
非常口の前に座り込み、名簿を見ているのは決して人相がいいとは言えない一人の男。
髪は銀色、服装はスーツ。その特徴だけを抜き出せば、見せしめとして無惨に殺された平山幸雄とそっくりということになる。
だがあんな凡夫とこの男とは、ギャンブラーとしての格が違う。
彼の名は斑目貘。齢15の時に裏社会を席巻した天才ギャンブラー、通称「嘘喰い」である。

(いったいどうなってるのかねえ……)

非常灯のほのかな明かりの下で名簿を読みながら、貘は考えを巡らす。

(賭郎のギャンブルにしては、やり方が強引すぎる。だいたい、それなら立会人の夜行さんや門倉さんが参加者として名簿に載ってるはずがない)

貘が最初に疑ったのが、この殺し合いは彼が深く関わっている賭博組織「賭郎」の主催によるものではないかということだった。
だが彼は、すぐにその可能性を否定する。参加者名簿の中には、賭郎の立会人である夜行妃古壱と門倉雄大の名前があった。
立会人はあくまで中立の存在。彼ら自身がギャンブルに参加する可能性は限りなく低い。
よってこの件に、賭郎は関与していない可能性はないと考えて間違いないだろう。

(まあ、別に誰が開いたところでどうでもいいんだけどね。生き残る難易度が変わる訳じゃないし)

貘の思考は、次の疑問に移行する。自分はどうすれば、この殺人ゲームで生き残ることができるか。
考えられる方法は二つ。一つは主催者が掲げた課題のクリア。すなわち自分以外の全ての人間を死に追いやること。
もう一つは、ゲームを放棄し会場から脱走すること。
前者の問題点は、少なからず自分の手で他人の命を奪う必要があるということ。
貘には必要とあらば、殺人を行うことも辞さない覚悟がある。だが、それはあくまで他に方法がない場合の話だ。
好き好んで他人を殺して回るような趣味は、彼にはない。
それに彼は、単純な戦闘力が低い。策略なら並大抵の相手に負けることはないという自負はあるが、全ての危機を策略だけで切り抜けられるとは思っていない。
裏社会で生きてきた彼は、「暴力」というものの重要性を十分に理解していた。
そして今の彼に、足りない「暴力」を補う術はない。

一方、後者はどうか。これもそう簡単にはいかないだろう。地図を見る限り、ここは島だ。
となると、脱出するには海を渡る手段が必要になる。
だが、殺し合いの主催者がそんなものを会場に用意してくれているとは思えない。
していたら間抜けにもほどがある。



前話   目次   次話