妄想21世紀アニメバトルロワイアル






 場違いな空想である、いや、そうで欲しかった。
 これは間違い、幻――
 今は眠りに落ちている、この空間に居るほぼ全員が約七分後に復唱するであろう言葉にほぼ近い文章だった。

 殆ど何も見えないほど暗い空間の中、ジョージは目覚めた。
 本当に信じられない暗さだったので、手探りで明かりになるようなものを探すのも諦めざるを得ない。
 ここは――?

「ねえ、誰か居る? ここ、何処か知ってる?」
 何か、ハスキーな甲高い声が聞こえた。
「分からないよ」
 返事を返した。いや、状況上返さざるを得なかった。
 知っている筈などなかったので、分からないと言った。トゥーンのホテルにここまで淀んだ空気の場所など無かった筈なのだから。
「よかった。人は居るみたいね。あたしはビアンカ。あなたは?」
「ジョージ。よろしく」
「そう、ステキね」
 それだけならささやかな会話で、場所が場所でなかったらきっと二人はB級のカフェテリア辺りに入って、会話の続きをを楽しむのだろうけど。
 ――しかし、今のジョージにはこの状況を除いても、それが出来ない些か特殊な事情があった。
 それは彼の一族の後継者を決めるために、また、彼ともう一人、その特殊な事情を背負った人物が――

「でも……本当にここは何処なのかしら?」
 ビアンカと同意見、自分も外に出ていた筈なのに、何が起きたというのだろうか。
 明らかに不穏な状況、しかもどうも自分達以外の人の息吹まで感じる。
 ――つまり、人を集めているのだ。
 問題としては何故、誰がこんな事を行ったのか?
 到底考えられるはずが無い。
 ここに人を集めた意味が。意味が無ければ、わざわざ労力をかけてまで行う筈は無いだろう。

 瞬間、それなりの高さの天井のいくつかのスポットに電気が通じたようで、やがて光の束がジョージ達の居る床上まで届いた。
 やはり誰か、居るのだろう。ジョージ達をここに放り込んだ誰かが。しかし――?

 思考を続けていた不意を突き、極めて以上な光景が二人の前に広がった。

 ――人間や、ビアンカの様などうぶつも含め、それが何十人も狭い閉鎖空間の中に倒れていた。
 それで十分ビアンカは気圧されていたのだけれど、しかし、生きていることは間違いなかったのでそこは問題無かった。
 その内にビアンカの中にまた疑惑が浮かんだ。
 そう、自分達をこんなところに閉じ込めて何をしようと言うのか?
 本当に理解しがたい奇行だ。何か人質として誰かに金とか要求するのだろうか。
 しかし――そいつは本当に悪趣味なのは確かだ。自分にこんなダサい首輪(しかも外れない)を付けるなんて!

 それは一応置いておいた。ビアンカの視線にビアンカ以外唯一動いている、それを見つけたので。
 そして、それは多分ジョージなのだろう。
「あら、あなた鼠だったのね」
「!」
 びっくりした様に(いや、実際驚いただろうが)鼠が後ずさった。
 まあ、仕方ないだろう。狼が急に話しかけてきたんだから。
「あたしよ、ビアンカ。別にあなたを取って食べるつもりなんて無いわよ」
 失礼ね、と思いながら言っている内に気がついた。ジョージの首にも自らのそれと同じような首輪が巻き付いているのを。
 やはり意味が分からない。この首輪は一体?
「ジョージ、首……」

 ビアンカがそう言い終わるか終わらないかの内に、空間に居た誰か、恐らく女性が叫んだ。
 ジョージも首に手を当てて首輪に気付いたようだが、その叫び声に気付き、振り向いた。
 それにつられてビアンカもその方向に顔を回したのだけれど――
 ビアンカもジョージも、叫び声で目覚めた何人かも続けて唱和した。
 それでまた何人かが起き上がり、間もなくソプラノのコーラスが膨れ上げた。
 そりゃそうだろう。空間の中心で桃色の髪の女が、半ば首を切り裂かれた状態で絶命していたので。
 それで一瞬ビアンカは人間の友人、あいのことを思い出したが、違った。
 あいは確かに桃色の髪だったが、髪を結っていた筈だった。女は長い、ややウェーブが掛かった髪だ。
 その女の首から流れ出ていた筈の大きい斑点は既に乾ききっており、表情は恐怖に歪んだそのままの状態だった。

 ――異常だ、平気で殺人をやってのけるなんて!

 突然壁に正方形に縁取るように光が射し、その光が一気に大きくなった。
 ビアンカはああ、ドアが開いたんだな、と気付いたが、しかし、さすがにそこから子供が出現するとは予測できなかった。
 何と言うか、一言で言えばかなり粘着質な顔だった。
 尖った感じの唇、狐みたいな細めの目付き(しかし、あの胡散臭い”イナリ家具”のつねきちより逝った感じの)。
 そしてそんな顔の内側、何を頭で計算しているのか分からない。まあ分かりたくもないけれど。
 しかし、こちらが分かることはこいつが桃色の髪の女を殺した事に関わっていること、正常な神経ではないと言うことだけだ。
「スネ夫? スネ夫じゃないか!?」
 眼鏡の少年が突然立ち上がり、叫んだ。
 友人なのか、親しげに。
「黙れ」
 しかしスネ夫と呼ばれた少年は眼鏡をかけた少年を一蹴し、間髪入れずに銃を構え(しかしサマになっていない。完全に使い慣れてないようなカッコ悪い構え方)、
 引き金に指をかけた。
「ひっ」と悲鳴を上げながら、へたりと眼鏡をかけた少年は座り込んだ。
 もちろん既に死者が出ている為、銃は本物だと思わざるを得ない。

 それを見届けたスネ夫は正面を向き、自信に溢れた表情で、平然と言い放った。
「これからお前達に殺し合いをしてもらう」
 ビアンカの身体の中、心拍が加速していくのが分かった。
 相手が銃を持っていたことによる恐怖もあるが、しかし、それよりも赤い色付きの怒りが遥かに凌駕していた。
 相手が銃を持っていた以上、うかつには動けなかったが、スネ夫に対する激昂だけは高まっていく。

「よくわかりません」
 ビアンカとその声より前にいた”参加者”が振り向いた。
 ――その声は、自分の近所に住んでいたブーケが言ったのだと分かった。
 その猫の顔はかなり強張っていたけれど、はっきりと言っていた。
 それで、スネ夫は予想外の返答を返した。
「お前らを殺していい高校に入ってやるよ」

 ビアンカ、否、その”お前ら”(首をちょん切られた女除く)は「殺し合いをしろ」と言われた時とは他の意味で驚嘆した。
 何? 何て言ったの、この馬鹿は?
 ビアンカは無茶苦茶に笑いたくなった。
 いやはや、今年最高のヒットだ。
 そんな感じの演説はまだ続いていた。
「邪魔な人間を殺した後は無能な人間は削除してやるんだ。僕の将来に必要が無い奴はみんな消してやる!」

 ――くだらない。本当にくだらない。
 しかし、その『ぼくの将来(笑)』に当座関係ないような人物がほとんど含まれる中、何故ビアンカ達は呼ばれたのだろうか?
 別に自分の世界であいつみたいな自称才人(例え才人だとしても性格が全てを壊しているけど)なんて聞いた事など無かったし、それ以前にどうして自分が連れて来られたのは――
 急激にビアンカはそれに気付いたと同時に、怒りが込み上げて来た。
 そう――自分やジョージ、強いては他の何十人はただこのクソゲームを盛り上げる為に参加させられたと?
 要するに、ただのゲームの駒と。

 これはビアンカ自身でも気付いていたが、いつも最高に頭に来た時はつい笑みが零れてしまう。
 正に、今のビアンカの状態だった。
 ――くだらない坊や、この爪を心臓に突き刺してあげる!

 その必要は無かった。
「貴様、こんなことをして無事で済むと思っているのか! 全力で阻止するッ!」
 微妙な髪の色、これまた微妙な言い回しで朱色の瞳の男が叫んだ。
「そうでゲス!」
 今度はカタツムリが立ち上がって、そう叫んだ。
 多分ただ便乗しただけだと思うけど。

「そうだよ! こんなことしていいのかよ!」
「間違ってるわ、あなた! 他の人を不幸にして何になるっていうのッ!!」
「ふざけるなよ、僕達に殺し合いをさせて、何が起こるんだよ!」
 次々と、”参加者”がスネ夫に反発していった。
 それは多分この場にいたスネ夫以外の全員の意思だっただろう。
 この後は説明しなくてもいいと思う。
 あっという間にスネ夫は銃を撃つ暇も無くその五人に囲まれリンチ状態になり、次にビアンカが見た時はすっかりぼこぼこになってしまっていた。
 構いやしないが。

 しかし、その後にビアンカ達は再び目を見開くことになった。
 何故なら――ぱらららら、と古びたタイプライターの音が響いたかと思うと、スネ夫を囲んでいた五人の頭の半分が爆発し、一瞬で血が噴き出して小さな空薬莢が大量に床を跳ねたのだ。
 そしてまた悲鳴が始まったと同時に、すっかり先程の桃色の髪の女と同じ状態になった五人ががくりと膝をついた後、倒れた。
 もちろん確かめるまでもなく――絶命していた。
「ヤサコッ!」やら「サム!?」やらそんな五人の内の誰かを呼んでいるような絶叫が続く中、ビアンカの視線は空中に向けられていた。
 明らかに上からの攻撃だった以上、やはり天井の上に更に誰かが居ることになった。
 つまり、監視されているのだ――胸糞悪い!

 またドアから誰かが入り込んで来た。
 その誰かは一種スネ夫に似た目付きの、不快な顔の人間の男性。まあ、間違いなくスネ夫の身内だろう。
「ス、スネ吉兄さん!」

「まったく、しょうがないなぁ」
 そのスネ吉はけだるそうに、何か、リモコンの様な物を取り出し、取り付けられていたダイヤルをいじると一人の男に構えた。
 髪がひどく北上した、初老の男だ。
 その男の顔がこわばり、瞬間にスネ吉がリモコンのボタンを押した。
「わ、私が一体何をし」
 どん、と、銃を枕に押し付けた状態で撃ちつけた様な音が血飛沫と一緒になって飛び出した。
 男はその音の正体が理解できないままだったのかも知れない。
 そう、その通りに、爆発したのだ。
「パパァ!!」
 娘、だろうか――その金髪の女性の悲痛な叫びが、ただこだまする。
「分かったろ? 君達は抵抗出来ないんだよ」
 ここにまで来てようやく首輪の意味が明かされた。
 そう、則ち、『逆らえば爆発する』と言うことだった。
 まさに――”参加者”達を犬の様に手なずける為の。
 そして、殺し合わされるのだ。ただのあいつらの為の道楽で!

「この世界には格差ってもんがあるんだよ。だからこれから君達にはそれを――こらっ! そこ、私語をするんじゃない!」
 スネ吉は急に怒鳴ると、素早く腕を何回も振った。
 訳の分からないうちに、かつかつかつっと何かを打ち付ける音が、三重に聞こえた気がした。それに続く、どさり、と言う音も同じだった。
 そして、ビアンカは確かにそれを認めた。

 ――仰向けに倒れた少年と、主婦と、黄色い兎の額に平等に、幅広のナイフが生えていたのを。
 そして、三人の視線は妙な事に、ナイフを確認するかのように上を向いていた。
 果たしてそれを本当に確認出来たかは、ともかく。
「もう勝手なことは厳禁なー。私語するやつは悲しいけどナイフ投げちゃうぞー」
 もう誰も喋りはしなかった。
 既に十人の凄惨な死体が転がっている異常な状況の中、青い静寂だけが”選手”達を支配していた――


【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔 死亡確認】
【ジェレミア・ゴッドバルト@コードギアス〜反逆のルルーシュ 死亡確認】
【Dr.エスカルゴン@星のカービィ 死亡確認】
【サム・ヒューストン@地球へ… 死亡確認】
【小此木優子@電脳コイル 死亡確認】
【ハワード@無人惑星サヴァイヴ 死亡確認】
【ユル・ヘップバーン@レジェンズ〜蘇る竜王伝説 死亡確認】
【タケシ@ポケットモンスターDP 死亡確認】
【野比玉子@ドラえもん 死亡確認】
【カドルス@ハッピーツリーフレンズ 死亡確認】

【††† BATTLE ROYALE START †††】




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